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レコードによると  作者: 朝倉春彦
Chapter2 世紀末クライシス
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2.退屈な平成は昨日まで -Last-

右腕に着けた腕時計を見ると、朝の8時半を指していた。

結局あれから6時まで眠って、起きて、シャワーを浴びて着替えて今に至る。


ホテルのレストランでバイキング形式の朝食を食べていると、前田さんに呼ばれてロビーに出てきた。


レンとはそこで別れて、今は前田さんと2人きり。

前田さんは昨日と同じような黒っぽい格好。

私も黒いYシャツの上に普段と違う黒い上着…濃い色のジーパンと、似たような格好だ。


2人で、ロビーの柱に寄り掛かって、言葉も交わさずにただ待つ。

5分ほど待っていると、大きなケースを幾つか抱えてきた芹沢さんと小野寺さんがこちらに来た。


「おはよう、平岸さん」

「おはようございます…」


私はパラレルキーパーに囲まれている状況に驚きながらも、表情は変えずに言った。

ほんの少し、周囲に目を向けると、芹沢さんと小野寺さんがいるからか、周囲のレコードキーパー達が通り過ぎていくたびに私に目を向ける。


「レナ、お前は今日1日俺と動くぞ、ホラ、これ使えたよな、確か」


そう言って芹沢さんは、ロビーのテーブルにケースを置く。

私は寄り掛かっていた柱からテーブルに移動して、留め具を外してケースを開けた。


「コトも使えるが…お前の方が鳴れてるしな、あいつは指揮があるし」


淡々と言う芹沢さん。

中に入っていたのは、いつか使った消音器が最初から組み込まれたライフル銃だった。

ロシア製で、ライフルにしては軽いためか、私でもそんなに気にせず扱えた記憶がある。


「随分と物騒だね…こんなの出てくるなんて」

「拳銃は?持ってるか?」

「いや…後で取りに戻る気だったから」


ケースの中にある特殊なライフル銃を組み立てながら言う。

すると、ケースの開いた部分に、拳銃と弾倉3つが置かれた。


見上げると、前田さんが置いたらしい。


「僕の予備、使えばいい」


そういった彼女の肩からは少し古めかしい見た目をした小さなライフル銃が下げられていた。


「いいんですか?」

「大丈夫。僕のはちゃんとある」


彼女はそう言って、腰のホルスターから黒い大型拳銃を取り出していった。

レンにあげた拳銃みたく、持ち手にホルスターがくっつくタイプの拳銃だ。

見てくればレンのそれに似ていたが、違う。


「ありがとう…ございます」

「P230を扱えるなら大丈夫」


彼女にお礼を言ってからすぐ、組み立てたライフル銃に弾倉を差し込んだ。

組み立てたライフルを肩に下げて立ち上がる。


「じゃ、俊哲。彼女のことは任せたよ」


丁度、小野寺さんや芹沢さんも準備が整ったらしい。

小野寺さんは芹沢さんにそういうと、前田さんと共にホテルの裏口の方へと走っていった。


「さて、レナ行くぞ。細かいことは道中で話す」


そう言って、歩き出した芹沢さんに着いていく。

芹沢さんも、小柄なライフル…というよりはマシンガンを手に持っていた。

ケースは、皆そのままに放置していあるが、きっとホテルの人が回収するのだろう。


「仕事は今日で終わるの?」

「午前中次第だろうな、あとはコト達がどれだけやるかってところか」


広いロビーを抜けて外へ出る。

ロビーには昨日と同じくらいの数のレコードキーパーがいたが、皆これから出ていくといった様子だった。


芹沢さんについていくと、そのままホテルの駐車場に歩いていく。

鼻先に鼻のような造形がある黒い左ハンドルのセダンまでやってくると、芹沢さんが左側のドアを開けた。

私は右側の助手席を開けて、ライフルを抱えて中に入る。

芹沢さんが持っていた銃を私に預けると、キーを差し込んでエンジンをかけた。


ギアをDに入れると、そのまま車は走り出す。

ホテルの敷地を抜けて、東京の都心に続く道へ出た頃、芹沢さんがようやく口を開いた。


「昨日の夜、流れ込んできた連中の大半は片づけたんだ。今日は残党狩りさ」

「あら…そうなんだ。結構簡単そう…って言いたいけど、そうじゃないんでしょ?」

「ああ、大半は片づけた。残った連中が厄介なんだ」


都心まで、暫くは空いた道が続く。

芹沢さんはアクセルを踏み込み、大柄なセダンを加速させた。

私はほんの少しだけ窓を開けて、外の空気を入れる。


「残った…いや、生き残った連中が本丸らしい。いまも転移装置を持ってどこかに身を潜めてる。東京の周囲はおおむね囲ってあるから、ここから出ることもないだろう……タイムリミットは明日の夜12時だな、混ざった世界のレコードを見る限り、それが有力だ」


そういう芹沢さんの横で、上着からレコードを取り出して開いた。

違反者の名前が赤文字でびっしりと埋まったページをトンと叩き、ページを真っ新にする。


「レコードはまだ効かない。ラグがあるんだ。奴らが網に引っかかるまでは」

「そう……」


芹沢さんに言われて、レコードを仕舞う。

代わりに、携帯電話を取り出した。


「部長か、リンに割当たった仕事は?」

「アイツらは……日本橋付近にいる異世界人の掃討だな。銃も持ってない。注射器で十分だからな」

「そう、レンも?」

「そうだ。お前以外は固まって動かしてるよ。日本橋に行かせたのはもう一つ訳がある」


芹沢さんはそういって、アクセルからほんの少し足を引いた。


「さっきから、レコード違反者が日本橋にやけに多いんだ。Code004…キルコードを使ってもなお出てきやがる…」

「……そう」

「きっと日本橋付近に転送装置でも置かれたんだろうな。それも数時間以内にだ」


ほんの少し、苦い顔をする芹沢さん。

私はギアレバーの後ろ側…ドリンクホルダーに置かれた煙草の箱を取って、煙草を一本取り出すと、芹沢さんに渡した。


「結構吸ってなかったでしょ」


何も言わずに煙草を咥えた芹沢さん。

私は窓を全開にすると、煙草の箱に入っていた安っぽいライターで火をつけてやる。


「悪い」

「それで、芹沢さん」

「何だ?」


私は手に持った携帯電話を見せる。


「レンか誰か、借りて良い?」


そういうと、芹沢さんは一瞬こちらを見た。


「何する気だ?」

「オペレーター。今あるレコードの情報だけで情報を絞り込むの」

「……どういうことだ?」

「今って、Code004…一般人は寸分の狂いもなく動くはず。だけど、それでもレコード違反が出てるんでしょ?確か」

「ああ、そう作ったからな、コトが」

「なら、レコードの"ズレ"を設定して寸分でも狂った人、上げていきましょうよ。時間で並べ替えて、狂った人間の位置をマークしてくんです。そうすれば、何もない限り寸分の狂いなく動く人間をずらした人間の足取りがつかめる」


私がそういうと、芹沢さんは分かりやすいくらいに目を見開いた。

ほんの数秒、私の顔を見つめると、砕けた不敵な笑みを浮かべる。


「オーケー、レンを使え。そのあと先輩にも伝えてくれるか?俺の携帯貸すから」

「わっかりました」


私は小さく笑って見せると、レンに電話を掛けた。


「もしもし、レン?突然だけど、今からは私の言うことに従ってほしいの。部長じゃなくてね」


1回のコールで電話に出たレンに、手短に用件を伝える。

向こうでは部長達も聞いていたらしく、電話越しに驚いた声が聞こえた。


レンとの通話を切って、助手席側のドリンクホルダーに携帯を置くと、芹沢さんが電話を渡してくる。

受け取ってみると、すでに小野寺さんにコールをかけた後だった。


「もしもし?平岸…ですが」


呼び出し音が消えて、私は少しだけ緊張しながら口を開く。


「平岸……?ああ、平岸レナ……永浦の娘か…」


電話に出たのは、小野寺さんの声ではなく、部長の声。

最後の方はよく聞こえなかったが、彼女は少し驚いたような声色で言った。


「え?」

「いや、何でもない。ただの独り言。何か用?」

「はい、その…今からの私達の仕事のことで一つだけ、提案があって」


無機質な部長の声…前田さんに、さっきレンにも言ったことを話す。

喋っている間は電話越しには何の反応もなく、不安になったが、それでも一通り話した。


「……なるほど…なるほど…乗った」


少しの沈黙の後で、前田さんはポツリと言う。


「芹沢が肩入れするわけか。じゃ、気を付けて…」


少しだけ、機械的な口調が和らいだ声で言うと、電話が切れる。

最後の一言だけは、雰囲気が完全に部長と同じだった。


「何だって?」

「採用だそうです。前田さんが出たんですけどね」

「そうか、一発勝負だが、やるしかない状況だからな」


芹沢さんはそう言って、丁度短くなった煙草を灰皿に押しつぶした。


「で、どこに連れていかれるんです?」

「まずは……情報が集まるまでは今までので動くしかない。埠頭の倉庫だ。湾岸乗ってすぐだな」


そういうと、丁度高速道路の入り口が見えてくる。


料金所を無視して駆け抜けて、芹沢さんはアクセルを踏み込んだ。


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