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レコードによると  作者: 朝倉春彦
Chapter2 世紀末クライシス
33/125

1.それは遠い昔の2人 -1-

「で…あと足りないのは…家電か…」

「そ、ここをずーっと真っ直ぐね…」


そう言いながら、レンが運転する車の横で私はメモ帳を開いていた。

1999年の3月末。あと少しで2度目の高校生活が始まる前。

仕事もひと段落して…家からなくなったものを買いそろえに2つ隣の大きな街まで出てきた。

ついでに、レンの運転練習も兼ねている。


洋服類も、食器日用品も買って…あとは大物類を買おう…となったのだが。


「なぁ、ちょっと待てよ」


そう言って、レンが車を止める。

メモ帳から顔を上げると、丁度信号で止まったようだ。


「何?」

「家具とか家電ってよ、配送してもらうわけにはいかないよな?」

「ええ…だけど、大丈夫。今から行くところは心配ない」

「…ふーん?」


私はメモ帳を閉じると、全開に開いた窓の外を見る。

もうすっかり雪も解けてなくなり、そろそろ春だなといった雰囲気が出ていた。

アニメとかだと、きっと爽やかな演出でもあるのだろうが…案外この時期は暗く汚いものだ。


道路に撒かれていた砂のせいで砂利っぽいし、雪に紛れて捨てられたごみが出てくる。

今日みたいに薄曇りだと、普通の街中でもどこか寂しい様子になるのだ。


赤に変わったばかりの信号。

追い越し車線に止まった私達の車の横に1台の車が止まった。

濃い銀色の…この時代にはきっと新車で買えるだろうセダン。


薄汚れた景色の中でピカピカに磨かれた車体。

少し背の低くて、スラリとした…どこか見覚えのある車。


何気なく見とれて…そのまま車内に視線を移した時、私は思わず声を上げた。


「どうした?」


レンがこっちを見る。


私は咄嗟に目を瞑って、目を擦った。


「ちょっと目にゴミがね…ああ、大丈夫。レン、青だよ」


信号が青に変わり、少し多めにアクセルを吹かしながら車が前に進む。

1速から2速、振動こそあれど、つい昨日乗ったばかりだという運転には思えないくらい、レンは丁寧に車を走らせる。


横に並んでいた車は、今の交差点を曲がっていき、そのまま見えなくなった。


「そういえば酔わないけど、我慢してたりするか?」


遅い流れに乗って、トロトロと車を走らせるレンが、ふと言った。


「いえ…酔ってない。部長とか、芹沢さんの運転でも酔わないから…相性かな」


私は助手席のドアに頬杖をついたまま答える。


「案外下手だと思うんだけどな…そんなもんか」

「下手って、レン、結構上手だよ?慣れてきたらレンに運転任せようかなって思ってたのに」

「まぁ…そうか?」


少しだけ恥ずかし気に言ったレンを横目で見て、クスッと笑う。


少し込み合った国道を走っていくと、目的地の方向を示す看板が見えてきた。


「レン、次の交差点の信号左ね。そこからは少し狭くて入り組んだ道が続くよ」

「はいよ…」

「調子に乗って飛ばしすぎないでね。この車、あっという間に崩れるから」


そう言って、私はコンソールのスイッチを切る。

ブースト圧?とやらを下げるスイッチらしい。オンの時が1.3…最大まで…オフにすると0.8までしか上がらない…だかなんだか。


その横には、1.5まで引き上げられるミサイルスイッチがあるが…いつ使うのだろう?


「飛ばさないっての。壊したくないしな」


そういいながら、差し迫った信号を見たレンは、徐々に車の速度を落としていく。

ゆっくりと左折すると、国道の車通りの多い流れから一変し、狭い道に変わった。


「この先ずーっと真っ直ぐ行くと、お店がある。すぐにわかるよ、道路沿いだから」

「こんな辺鄙な所に?儲かるのかそれ」

「儲かる必要もないよ。レコードキーパーしか使わない店だし」

「そんなのあるのか?」

「ええ、ここは札幌。札幌は4つのレコードキーパーのチームが隣接した土地なの」


横のレンは、前を見ながらも、私の次の言葉を待っているようだった。


「正確には札幌を4等分してるってところかな。私達の管轄は南側だよ」

「ふーん…それで?ここにある店と何の関係が?」

「そうやって、多くのチームが隣り合う真ん中に、こうやってレコードキーパー用の店が立つってわけさ。この道も、今から行く店も、わざわざ私達が使うために作られたんだって」


そういうと、レンが少し驚いたように、目を大きく開けた。

気づけばそこそこの速度で走っているが、不安は1つもない。


「……行政に作らせたわけじゃないってことか?私道…?」

「そう、だから地図にもないよ。地図だとさっきの交差点は左折がないT字路さ」

「……そう、なのか…相変わらずご都合主義な存在だよな」

「フフ…世界中のレコードキーパーが集まれるくらいの宿泊施設だってあるんだよ?今から行くところ。ま、普段はあかないけど」



そう言っているうちに、森の木々の奥に人工物が見える。


「あれか?」


遠くにかすかに見えた建物を指して、彼が言う。


「そうだよ」


遠くに建物が見え、入り組んでいた道も、徐々に直線だけになってくる。

道路わきの木々は徐々に少なくなっていった。


札幌から抜けてほんの数分。

これから、北海道の森の奥深くに行こうかという道の先に、目的地の建物が目に映る、


何棟もの高いホテルのような建物が立ち並び、パット見は温泉街にしか見えない場所。

小さい町の様相を呈する、アカシックレコードの管理人しか入れない秘境だ。


私は、立ち並ぶホテルの奥に見える、ショッピングモールのような建物を指さした。


「レン、奥の建物見える?サティみたいなアレ」

「奥の…ああ、あれか、車何台か止まってんな」

「そう…珍しいね。別の人たちもいるなんて」

「……よし、到着っと」


ショッピングモールにしては、狭い駐車場に車を止めて、車を降りる。


「やっぱ、こんな車乗ってんのは俺らだけだろうなって思ってたよ」


レンが駐車場の車を見て言った。


「そんなもの」


私はレンの横に並びながら言う。


「いや、あそこの陰に1台…派手なのいるな。黄色いポルシェだ」

「芹沢さん…のは銀色だったはずだから、別人ね。物好きもいたものさ」


春先で、まだ少し寒い外…駐車場を歩き、普通の自動ドアをくぐる。

怖さを感じるくらいに暗く、静かなショッピングモールに入ると、私はレンの手を引いて、目当ての場所へと歩き出した。


「ここは私達しか利用できないお店…レンが心配してたみたいに、普通の家具屋さんとかじゃ、配達頼めないから。こうやって、家具とか家電とかを売ってる私達専用の店ができたってわけ」

「人里離れてんのも、一般人に干渉しないようにってか」

「そうそう。ここはまだ近い方なんだけどね。こうやって、今後、一般人が来ないことがレコードで保障された場所に道を通して建物を立てるってわけ」

「街にあってもいいもんだけどな。俺らの家だって住宅街の一軒家だし、部長とかはアパートの一室だぜ?」

「そういうわけにもいかないのさ。私達が住む場所は小さいから、多少レコードを改変して、辻褄が合うように対処できる。でも、こうやって土地を使う場所は無理だよ。流石に変じゃない?街のど真ん中に広々とした店があって、なのに普段は車がほとんど止まってないなんて」

「ああ…まぁ」

「で、普通の人が徐々に違和感を覚えていってレコードから外れるって…だからこういう大きな建物は人里離れた土地に建てるんだって」


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