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レコードによると  作者: 朝倉春彦
Chapter2 世紀末クライシス
32/125

0.プロローグ

「さて、次の対象はどこへ逃げたの?」


そういいながら、私は前を見続けてアクセルを踏み込む。

あっという間に8千回転を示したタコメーター。

ピー!っという警告音を聞くと、すぐにギアを3速に上げた。


1999年に戻って早2週間。

時間を巻き戻した後、暫くは他の可能性世界の人間に侵入されることがあるとのことだったが…実際その通りで、彼らを処理すべく2週間ずーっと働き詰めだ。


「そのままこの道行っていい!このまま真っすぐ行けば海岸線沿いに突き当たるからな!」


横でレコードを開いたレンが叫ぶ。

これじゃぁまるでこの前の光景と変わらないじゃないか…

そう思いながらも、私はずっと前を走る外車のテールを追った。


芹沢さんでも初めての時間逆行…戻した直後、数週間はレコードが不安定になるといっていたが…これは少し不安定になりすぎではないだろうか?

まぁ…さっき部長と電話した時に、もう芹沢さんが解決策を打ち出して実行していると聞いたから…きっと前を行く外車のカップルで最後だろう。


「レン!もう注射器に拘らないから、撃っていい!」


そう言って、4速にギアをチェンジ。

レンは懐からこの前渡した銃を取り出すと、安全装置を切ってスライドを引いた。


「カーチェイスが仕事だったか?」

「知らないよ!私が知ってるのは……」


そう言いかけた眼に、道路わきから飛び出した一般車が映り込む。


「くっ…!」


ブレーキを踏み込み、ギアを一気に2速にまで下げて間一髪。

追っていた車と…縮まっていた距離が再び離れたのを見て舌打ちを一回。


「知ってるのは、もう少し平和な仕事だってことだけど」


再び加速し、警告音が鳴ったのを合図にギアを上げる。


「大体、あの2人組は何なの?ただのカップルじゃないでしょう?」

「レコードによれば……こっちに来る前の世界では公安だったらしいな」


横で拳銃を握ったままのレンが言った。


「公安?」


私は一瞬横を向いて言う。


「ああ、芹沢さん言ってたぜ"そーゆー連中が紛れ込んで工作に走るもんだ"って」

「こっちはただのレコードから外れた一般人なのに…」

「レコード持って覗き見れてイーブンかそれ以上ってとこだろ」



処理対象を追いかけて…気づけばこの前行った日向に近づいてきていた。

この辺りまで来ると、もう周囲に車はいない。


雪解けの季節の田舎道。観光客もそういないということだろう。

夏だったら…多少は混雑するらしいから。


「狙える?」

「この2週間で練習になったんでね!」


暫く続く直線道。

私に、少し自信ありげな声で答えたレンは、助手席の窓を開けて…シートベルトも外して身を乗り出した。


「そのまま!」


レンの声に、私は彼の方ではなく、前を見続けたまま神経を集中させる。

アクセルの踏み加減を微妙に調整して…ハンドルを真っ直ぐ固定する。


その直後、数発の銃声が鳴り響いた。

1発も外れず、前を行く車の窓ガラス…トランクに風穴を開ける。


もう数発、射撃音が聞こえる。


「終わりっと」


軽い声でそう言って、乗り出していた体を助手席に戻す。


目の前の車は、姿勢をふら付かせて路肩へと飛んで行った。


「お見事」

「案外当たるもんだな」


速度を落として、路肩に車を止める。

ハザードを付けて…エンジンは掛けたまま。


車から降りて拳銃を取り出すと、無残な姿に変わった車の元へと小走りで向かっていく。


助手席側と運転席側で分かれて進んでいき、室内に銃を向けた。


「死んでるか?」


レンが言う。

確かに、2人ともすでに息はなさそうだが…


私は運転席で項垂れた格好でいる男に銃口を向けたまま、引き金を引いた。


「これで確実。頭撃たれて死んだふりなんてできやしない」


そう言って、助手席側にいる女にも一発。

銃声の余韻が消えたころ、持っていた拳銃の安全装置をかけて、コートの内側に戻した。


「さて、戻りま……」


仕事終わりの、何とも言えない解放感を感じながら言いかけた私は、車の後部座先にあったものを見て、ふと足を止めた。


4枚ドアの外車。後ろの、ひしゃげたドアを開けて、後部座席にあるケースを2つ手に取る。


「なんだそれ」

「戦利品」


・・


そう言って、ケースを2つ手に提げて車に戻る。

数週間も忙しいのは初めてだったから、これから先に起きる出来事を予期できなかった。

後は部長に電話して、暫くはこの前までのような暇な日々に戻るだけ…そう思っていた。


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