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レコードによると  作者: 朝倉春彦
Chapter4 夢の中のリフレイン
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2.夢の中の違和感 -3-

「もしもし……?」


私は探るような声で電話に出た。

視線はレミに合わせたまま…彼女も少し困惑した表情でこちらを見ている。


「その声はレナで合ってるな?」


受話器越しに聞こえてきた声。

私のことを知っているその声の持ち主は、私の表情をパッと明るくさせた。


「レン!…一体、どうやって…」


私はそう言いながらレミを手招く。

彼女はえ?と言いたげな表情を浮かべながら車を降りて電話ボックス内に来た。


「色々とあるだろうが、まぁいい。後で教えてやる。何にせよそっちの状況は芹沢さんから聞いてるぜ。妹と一緒だろ?ポテンシャルキーパーの」

「そうなの。今、横に居る」


私がそう言う頃にはレミが私の横に来ていて、受話器に耳を傾けていた。


「そうか。丁度いい。今は…ああ、二加峰丘か。ってことは…俺は良く知らないけど、アシモフ?とかいう男には会った?」

「さっき。味方に付いてくれそうだった」

「オーケー…確認したかったんだ。何処まで動けてるか…全く動けないって訳じゃ無さそうだな」

「自由が多いの」


私はそう言って顔を笑わせると、受話器の奥でレンが小さく笑ったような気がした。


「そりゃ良かった。そっちでも元気そうで何より…俺らも行ければいいんだが、こうやって近くに居る公衆電話を探し当てて電話することしか出来ないんだ。スマホにかけようにも、出来ないらしくてね」

「どうして?」

「世界を繋ぐ"舞台装置"じゃないんだとさ。まさかそのせいで公衆電話に頼る羽目になるとは思わなかったが」


彼はそう言って笑うと、次の瞬間にはシリアスな声のトーンに切り替わった。


「さて…電話したのは、現状確認もしたかったからなんだが…一つだけ業務連絡だったんだ」

「うん…」

「その世界から戻るとき、つまりその世界の最後だな。それに巻き込まれないようにって連絡さ」

「え?それは無理じゃない?…」


私は彼の言葉を直ぐに否定してレミの方に顔を向ける。


「お姉ちゃん、無理じゃないよ?」

「え?」

「無理じゃない。時間戻した時も家の中は大丈夫だったろ?」

「ああ……そういうこと…いる場所に気を付けろってことね」

「そう言うこと。それだけなら良かったんだけど、今回はそうじゃない」


レンはそう言ってから少し間を開けた。


「こっちには寝たままのレナが居るだろ?普通に世界を跨ぐだけなら影響のない、レコード持ちのテリトリーに居れば良いんだが、今回は違うって話さ」

「ああ!そっか!……忘れてた。そうですよね。お姉ちゃん、そっちに実体があるから…」

「その声はレミか?電話越しじゃレナと声あんま変わらないぜ」

「はい。お久しぶりです。と言っても、覚えてます?」

「覚えてる。今はどんな姿か知らないが…とりあえず伝わったか?」


私は未だに理解が追い付かず首を傾げたが、レミはコクリと頷いて私から受話器を取った。


「世界が終わるときに、何処にいるか言えば良いんですよね?」

「そう。こっちからは電話ボックスしか手立てはないが、レミなら芹沢さんに直通出来るよな?」

「はい。大丈夫です。…最後に世界の崩壊を見る場所を連絡すれば、寝てるお姉ちゃんを連れてそこに居てくれるんですよね?」

「そう言うこと。あんまり遠くにならないで欲しいが、そっちの状況に合わせるようにするから、その時になったら連絡をくれればいい」

「リョーカイです。お姉ちゃんはちゃんと届けますよ」

「頼んだぜ」


レミとレンが話す横で、私は何をするでもなく話を聞き続けていた。


「それじゃ、伝言はこれだけ。あと何日掛かるか知らないけど、連絡は忘れるなよ?」

「はい。任せてください」

「あ、ちょっと待って。そっちはどれくらい経ったの?」

「ん?こっちはまだ3日だぜ?」

「ああ…時の流れは同じなのね。オーケー、分かった。もう暫くはこのままね」


私は最後に確認したいことを確認し終えると、レミにオーケーサインを出す。


「それじゃぁ、また」

「ああ。頑張ってな」


2人は最後に挨拶を交わすと、電話を切った。

ガチャ…と受話器を電話に置いたレミは私の方に顔を向けると、ほんの少し顔を赤くしている。

私は電話ボックスの扉を開けると、レミの方に振り返った。


「どうしたのさ」

「いや、別に」

「そう」


私は気にせずに車に戻って運転席に収まる。

レミが助手席に乗って、ドアが閉まったのを確認すると、ゆっくりと車を発進させた。


「さて…元に戻るとしますか」


そう言って車の鼻先をマンションへと繋がる道に向ける。


「後は何事もなく世界が終わってくれるのを待つのみ?」

「そうだね。まぁ、私は最初からそれを待ってるんだけど」

「そっか。私からすれば怖いけれどね。世界が終わるだなんてどんな景色なのかも分からないし」


そう言いながら、車を大きな通りの流れに乗せる。

レミは私の方をじっと見つめると、直ぐに首を傾げた。


「その割には楽しそうだね。昨日とは打って変わって」

「ようやく体が馴染んできたって思ってよ。昨日のは私の気持ちじゃない。勝手にそうなってただけ」

「そうなの?」

「……見た目に出てた感情の7割は本心じゃない」

「3割は?」

「また悪い夢でも見てるのかと思ってた。早く醒めてくれって」


そう言うと、横に居るレミの表情が少し曇る。

私は直ぐに笑顔を作って笑い飛ばした。


「慣れっこだよ。最近は見てなかったから焦ったけど」

「それは…やっぱり昔のせい?」

「昔のせい。レンと会ってから大分マシになったよ。この世界に来てからは…最初は心細かったけれど、レコードで色々と調べているうちに吹っ切れた。レミも居るんだし」


私はそう言って、シフトレバーを握っていた手で彼女の腕を突く。


「ヤバくなった時しか会えないんだろうけれど、レコードを持ってるなら何処かで会えるだろうしさ、私が主の世界で、味方にレミが居てって考えてたら、なんだか楽しくなってきたの」


そう言うと、レミは表情を明るくする。

今は車通りが多いから、横目でしか確認できないが。


「お姉ちゃん、随分とアクティブになったんだね」

「動くときは動くでしょ?」

「昔からそうだったけど、引っ張り出すのには苦労した覚えしかないよ?」

「まぁ、出不精なのは相変わらずかな」


私はそう言って苦笑いを浮かべる。


「それにしてもさ、芹沢さんから聞いてたけど、お姉ちゃんの相方はレン君だなんてね」

「意外だった?」

「それはもう!レコード違反して、ましてやお姉ちゃんの横に立ってるだなんてね!」

「ま、普通はレコード違反なんてしないから…」

「そうだよ。でも、私にとっては残念」


彼女はそう言うと、レコードを取り出して膝の上で開く。


「どういうこと?」


私が尋ねる前に、彼女がレコードのページをこちらに見せてくれた。


「寿命が尽きたら、こっちに来てもらうつもりだったの」


レミの言葉を聞きながら、一瞬顔をレコードに向ける。

それだけでは何なのかが分からなかったが…


「来てもらうって?」

「ポテンシャルキーパーへの推薦。ポテンシャルキーパーとパラレルキーパーは知り合いを推薦できるの。レコードキーパー以上に人手不足だからね」

「そんなことができるんだ。それなら…確かに残念…か」

「そう。推薦だけじゃダメで、レコードの審査があるみたいだけどね。……まだ書き残しては居るから…もし受理されたら3軸2周目のレン君が来るのかな?」

「そうじゃない?」

「あ、それならお姉ちゃんも2周目なら推薦できるかも」


そう言ってレミはレコードにペンを走らせる。


「レミは?相方みたいな人は居ないの?」

「居ないなぁ…千尋は同級生の人が居るし」

「3人だけ?」

「いや、最近2人増えたよ。"3軸2周目"から、芹沢俊哲と中森琴って人が。お姉ちゃん、良く知ってるでしょ?」

「え?」


私は思いがけない所で聞いた名前に思わず声を上げる。

その2人は、つい数年前…私が射殺した2人で間違いなさそうだ。

レミはどこか呆れ顔で、その2人には余りいい印象を持っていないというか…どこかマイナスな印象を受けているように思えた。


「パラレルキーパーの芹沢さんを知ってるからかもしれないけど、幻滅するわぁって感じ。腕は良いんだけど…」

「そう…まぁ、レコードを見ても同一人物にはとても……」

「本当にね。でも、あの2人も互いに依存してるから…そういう意味じゃ相方。自由に動けるけれど、偶の仕事の時にはつらい時もあるなぁ…」


レミはそう言うと、私の方に顔を向ける。

私は一瞬レミに目を合わせると、首を傾げた。


「アシモフは?」

「推薦しておいて、この世界で殺してどうなるかを見るって?」

「そう」

「いや、良いよ。彼は何となくレコードキーパーになりそうだし」

「どういうこと?」

「ここで死んでも、2周目の世界で三度レコード違反して、レコードキーパーになるの。お姉ちゃん、知ってる?レコードって意思を持ってレコードに貢献した人には甘いの」

「知らなかった」


私はそう言うと、ふとアシモフの顔を思い浮かべる。

元に戻ったら、次に会うのは25年後…その時に私はまた、思い出すんだろう。


レミと会話を重ねながら、ようやく勝神威の街並みが見えてきた。

いや、さっきまで居たところも勝神威なのだが、あの地区に行くと毎回別の街に行った

ような感覚を受ける。


「それにしても2周目か…戻ったら1985年だけど、案外直ぐなのかな」

「直ぐじゃない?」

「レミは色んな世界を行き来してて、時間間隔は狂ってないの?」

「どうだろう?私は数えてるんだけど、千尋とかはもう数えてないから、無いんだろうね、きっと」

「私達もそのうちそうなるのかな?」

「どうだろう。お姉ちゃんはなら無さそう。レコードキーパーだからね」


何気ない会話を続けて、もう15分ほど経った。

ここまで来れば、目的地のマンションが遠くに見えてくる。

私は遠くに見えた目的地を指さした。


「さて…私もそろそろ子供に戻らないと…」

「今日はここから何もしない?」

「しない。送ってって貰ったら後は部屋に籠ってる」

「そう。気を付けてね…日に日に危険は増してるんだから」


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