恋します!僕だって
季節は春。
ぽかぽか陽気に誘われ、睡魔に襲われていた僕は窓の隙間から聞こえてきた声で目を覚ました。
「野球部、野球部でーす!皆で青春の汗かきませんかー!経験者、未経験者問いませんー!一緒に野球やりませんかー!」
「サッカー部でーす!よろしくお願いいします!」
「陸上部、陸上部に入りませんかー!」
立ち上がって窓の外を覗いてみると、校門付近にはたくさんの部活動の選手やマネージャーが立ち、新入生を勧誘していた。
新入生の入学式が終わってから1週間。そろそろ部活動を決めなきゃいけない時期になってくる。特に運動部は部員が多ければその分部費が多くもらえるため、本気度が違う。
その点、僕が今いるこの文芸部は違う。甲子園や国立、春高などの大した目標もないこの部活は、必死になって部員を勧誘する必要もない。本来ならば。
しかし、今年は3年生が卒業してしまい部員が僕1人になってしまったことで、文芸部は休部の危機に陥っていた。
ゆえに僕も窓の外から見えるあの生徒達のように、必死になって新入部員を勧誘しなければいけないのだろう。
けれども僕はそこまでのやる気は持ち合わせていなかった。
というのも、そもそもこの部活の活動内容が曖昧なのだ。
去年は文化祭の時に1つ小説を作っただけ。それ以外の日は何をするわけでもなくダラダラしたりしていた。
そんな部活は、別にあってもなくてもいい。
そんなことを僕は考えていたからだ。
ふと、部室の入口の方から人の気配がした。
扉の曇りガラスの向こうから人影がチラチラと動いていた。
扉の方へ向かい、僕はガラガラと扉を開けた。
そこには、1人の女子生徒が立っていた。
「あっ……。す、すいません……。」
おどおどしながら話す女子生徒。目線は常に下を向き、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしていた。
「どうかした?ここに何か用事?」
怖がらせないようになるべく優しく問いかける。
「そ、その……、ここって、文芸部の部室ですよね?」
「そうだけど……?」
「そ、その……。部長はいますか?」
チラチラと部室の中と僕の顔を見ながら彼女は言った。
「部長?ええっと、一応僕だけど……」
強制的に部長になった僕がそう言うと、彼女は少し驚いたようにして、こう言った。
「えっ?あ、あの部長は男の人だって、顧問の先生がーーー」
その瞬間、反射的にぼくの口は開いていた。
「僕は、男だ!女じゃない!」