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化石の街の太陽の匂い  作者: ホロウ・シカエルボク
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翌朝、変に早い時間に目が覚めた。だが、充分に眠ったという感じがあったので、そのまま起きることにした。昨夜は部屋に戻るなり歯を磨いて眠ってしまった。気持ちが幾分和んだことで、身体がようやくロング・ドライブの疲れに気付いた、という感じだった。シャワーではなくバスタブに湯を張ってのんびりと身体を癒そう、という考えが浮かんだ。いい考えだと思った。湯が溜まるのを待つ間に窓のカーテンを少し開けてみた。空は薄曇だった。テレビをつけて気象情報をやっているチャンネルを探してみた。午後から雨が降るかもしれない、と、幾何学模様が病的に好きそうな痩せた男が言った。雨か、と俺は思った。雨が降るからといって、部屋に残るのもなんだかなという気がした。少し考えて、とりあえず今日もあのデパートへ行ってみよう、と思った。昨日はうろたえ過ぎてあまりちゃんと見てはいなかった。今日はもっといろいろなフロアーを丁寧に見てみよう、と。湯を止めてバスタブにもぐり、時間をかけて全身をほぐした。そんなことをするのは本当に久しぶりで、実にいい気分だった。ほぐれていく身体を感じながら、今日は難しく考えるのを止めよう、と決めた。初めて訪れた街を、気楽に楽しめばいいんだ。


浴室を出ると、いくらか若返ったような気がした。昨日買った服を出してタグを取り、身に着けた。新しいシャツは着心地がよかった。思えばそういうのも久しぶりだった。そういえばこの前洋服を買ったのは何年前のことだっただろうか?


そこに何があるか、今日はだいたい把握していたので、デパートの中で昨日のような混乱に陥ることはもうなかった。まずは家具のフロアーに行って、あれこれ眺めた。さすがに買う気にはならなかったが、様々なデザインの椅子やテーブルや本棚を見るのは楽しかった。それから、ホームセンターのようなフロアーに行った。簡単な床の傷の補修キットや、塗料なんかを眺めているうちに二時間が経過していた。タワー・レコードへ行って、悪魔を止めたがっている頃のアリス・クーパーのアルバムを買った。それから、レストランのフロアーに行き、昨日とは違う店でピラフを食った。コーヒーを頼んで、ゆっくり飲んだ。窓のほうを見ると、どうやら雨はもう降り始めているみたいだった。他に何か買うべきものはあるか?俺は頭の中でリストをこしらえた。そう、髭剃りがいるな。それと、荷物を入れる袋があるといい。それからどうする?ゲーム・コーナーでパックマンにでも興じるとするか。


髭剃りを買い、使い勝手が良さそうなナップサックも買った。だが、パックマンはゲームコーナーには置いていなかった。コイン・ゲームはしばらく見ないうちに様変わりしていた。筐体にレバーがふたつもあったり、ボタンがいくつもついてるものがたくさんあった。おまけに、カードの差込口があるものまで。カード?コイン・ゲームにカードを使うのか?俺は頭を振りながらゲームコーナーを出た。理解出来たのはクレーンゲームぐらいだった。


ゲームコーナーのそばにあったコーヒーショップで少し休んだ。すでにデパートには飽きていた。暇だな、と俺は思った。そして、変だな、と思った。こんなにたくさんの品物や商品が犇めき合っていても興味は一日持たないのだ。もう少しうろついたらホテルに帰って、のんびり読書でもしようと決めた。読書…そうだ、この街の地図があるといいな。今日の買物はそれで終わりにしよう。


本屋で地図を買い、ホームセンターのフロアーで傘を買って、小雨の中をホテルへ戻った。フロントにはスーツを着たサラリーマンの集団がいた。気楽な格好の俺はその真ん中を突っ切ってフロントで鍵をもらった。背中に何人かの視線を感じた。あまり気持ちのいい視線ではなかった。そこにどういう意味が込められているのかまでは判らなかったけれど。


部屋に帰ると地図を開いてみた。ホテルのある通りの二本北の通りがアーケードになっているらしかった。賑わっているようで、いろいろな種類の店の名前が並んでいた。明日天気がよければ、こっちのほうへ歩いてみるのもいいかもしれないな、と俺は思った。それからベッドに寝転んで昨日買った本を読んだ。読んでいる途中で転寝をしていた。目が覚めると夜になっていた。雨は止んだようだった。腹が減っていた。さて、どうしようか…と少しの間考えて、ホテルの中にあるレストランで済ませることにした―どういうわけか俺には、ホテルの中にある店は高くて不味い、という思い込みがあったので気が進みはしなかったのだが、その店は申し分なかった。俺は認識を改めた。俺は本当に何も知らないんだな、と思った。この街に来て俺はそのことをはっきりと知ったのだった。こうして触れなければ判らないもののことを、もっと知りたいと思った。でもそうするにはどうすればいいのかということについては、まだ判らなかった。皿の下げられたテーブルに肘を突いて俺は考え込んだ。車が直って街に戻り、工場がまだ操業する気配がなかったら、もう一度どこかへ出かけてみるのもいいかもしれない…あ、でもリナがまた俺の街にやってくるんだっけ。


そういえば、あいつの休暇はいつからの予定なのだろうか…?


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