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ヘタレ勇者が妄想する城塞都市での生活 

 ここは、城塞都市ダハシュール


 俺たちがここを訪れた時、魔族や盗賊団の襲撃を警戒して城門は固く閉ざされていた。

 

 だが、新しいドラゴンスレイヤーとして名前が大陸中に轟く俺の姿を見つけると、門は大きく開け放たれ歓喜の言葉とともに俺たちは暖かく迎え入れられていた。


 それからもう七日経った。


 俺たちは、今日もここにきてからの日課となっている城内を巡回する。


「勇者恭平、この果物をもらってください」


「勇者恭平が立ち寄った店として末代までの名誉となります。ありがとうございます」


 商人たちは俺が自分の店の前を通ると腕を掴んで店に連れ込む。


 もちろん商品を買ってもらいたいわけではない。


 今や大陸中に名を轟かせる俺が立ち寄った店として箔をつけたいのだ。


 たくましい商魂ではあるが、これはこれで活気があってよいことである。


 俺は、一緒に歩く春香とまみに服とお菓子を買ってやると、ふたりとも泣いて喜んだ。


「一生大事にします。橘さん」


「私も」


 まあリーダーとしてはこれくらいのことは当然のことであるが、これでまたひとつ信頼が高まったであろう。


「勇者様、握手してください」


「私はだっこしてもらいたいです」


「ずるい。俺も」


「私も」


 広場に行くと、あっという間に子供たちに囲まれた俺は、数人ずつ彼らを抱きかかえたが、なかなか数が減らない。


 町中の子供たちが集まってきたと錯覚するほどだ。


 もし、このあとに用事がなければこのまま子供たちの相手をしてやるところだったのだが、今日はすでに約束が入っていたために、残念ながら子供たちと別れて目的の場所に向かった。


「お待ちしておりました。勇者恭平。いや、ドラゴンスレイヤー恭平」


 俺を待ち受けていたのは、この城に配備されている兵たちである。


 そのなかでもよく目立つ白い甲冑を身に着けた騎士が七人いる。


 これが噂に利く魔法騎士か。


「今日は、ご指導よろしくお願いしたします。ドラゴンスレイヤー恭平」


「堅苦しいあいさつは抜きだ。さあ始めよう。全員で来い」


 そう、今日俺は、この城の兵士たちに稽古をつける約束をしていたのだ。


 もちろん手抜きなどしない。


 次々に打ち込まれる木刀を軽くかわし、逆に相手に打ち込む。


 二十分ほどすると、立っているのは俺だけになっていた。


「さすがはドラゴンスレイヤー恭平です。参りました。では、これを」


 魔法騎士のリーダーらしき人物は、謝絶する俺の手に無理やり金貨が入った袋を押し付けた。


「俺は金などが欲しくて稽古をつけたわけではないぞ」


 返そうとする俺の肩をまみが優しく叩いた。


「橘さん、断るだけがいいというわけではないです。相手のことも考えてあげましょう。ここは受け取って、それから使い道は考えましょう」


 俺は常識人らしいまみの言葉に従うことにした。


 これが俺の欠点なのだ。


 要するに清廉すぎるのである。


 これからは、相手のことも考えなければならないし、受け取ったお金だって他人のために使うというやり方もあるのだ。


「わかった。まみの言うとおりにしよう」


「ありがとうございます」


 ……清廉すぎる自分はたしかに誇らしいが、今日ばかりは反省しなければならないだろう。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「恭平、夕飯だよ」


「恭平君、御飯ですよ」


 ん?稽古の疲れで寝ていたのか。


 声は、麻里奈とヒロリンのものだな。


 せっかくなら、まみに起こしてもらいたかったところだ。


「いいところに来た。守銭奴の恵理子先生がいないところで、お前たちに相談したいことある」


 もちろん、先ほど受け取った金の使い方についてだ。


「先ほど稽古の礼として受け取った金だが……」


 もちろん、俺は有意義に使うことを提案するつもりだったのだが、意外すぎる言葉が麻里奈たちから返ってきた。


「しつこいよ。恭平」


「はぁ?」


「さっき春香が全部寄付すると言っていたでしょう。私もそれがいいと思う。それを陰でなんとかしようとは。まったくあんたという人間はどこまで器が小さいの」


「そうです。だいたい恭平君は荷物持ちしかしていません。実際に騎士さんたちに稽古をつけたのはハルピです。それなのに、『半分は俺のものだ』とか言うなんて先生のことを守銭奴なんて言えません」


「本当だよね。というか、先生も私だってそこまでは言わないと怒っていたよ」


「いや、俺はそのようなことはグワッ」


「あんた、もしかしてみんなの前で言っていた恥ずかしいことをなかったことにするつもりなの?」


 その言葉の前に至近距離からの最強の拳が脳天に届き、破壊力抜群のその衝撃により一瞬にして目が覚めた。


 そして、先ほどまでが幻だったことに気がついた。


 実際の俺が言ったことといえば……そうだ、それで俺は春香にハリセンで殴られたのだ。


 これはまずい。


 もちろん、ここは逃げの一手である。


 が、見事に失敗した。


 つい口を滑らせて本音が出てしまったのだ。


「言った。たしかに言った。でも、俺だって欲しいものくらいある。それなのにお前が俺にだけ小遣いをくれないからグワッ」


「あんた。自分のセコさを私のせいにするわけ?」


 確かにそれは言ってはいけない相手に言ってはいけないことを言った最悪の選択であり、当然のように始まった麻里奈からの厳しいお仕置きに耐える俺であった。


一応ネタバレ的な説明をしておけば、Aパートは妄想編、Bパートは現実編という形で進行していきます。


これは「小野寺麻里奈は全校男子の敵である」の番外編「小野寺麻里奈が異世界にやってきた」のさらにスピンオフ作品になります。

キャラクターの性格や立ち位置等は本編や番外編に準じていますが、主人公はタイトルどおり麻里奈から恭平となっています。

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