ヘタレ勇者が妄想する宝さがし
俺たちは、最近話をした旅人からの情報で宝探しに出かけた。
もちろん高潔な勇者である俺は宝探しなどに興味はなかったのだが、五人の女性陣、特に意地汚い麻里奈とエセ文学少女ヒロリンこと立花博子がお宝を手に入れることに執着した。
俺自身はどうせそのようなものなど噂の域を出ないものに違いないと思ったのだが、欲に目がくらんだ麻里奈たちが失敗して懲りることも、いいことだろうと考えていたので出かけることにしたのだ。
「教えられた場所はこの辺だ。洞窟があるはずだが……」
「あったよ。ほら、洞窟」
「いくよ、お宝~」
浮かれた麻里奈と博子が洞窟にどかどかと不用心に入っていったわけだが、すぐに悲鳴が聞こえる。
「きゃ~何ですか。これは」
「恭平、助けに来てよ」
まさかその洞窟があるとは思わなかったが、もしその洞窟が実在するなら、トラップなりモンスターなりがいるとなぜ考えないのかは、俺に理解できないのだが、とりあえずこれでお宝も本当にある可能性が出てきたといえる。
「トラップか。まあモンスターに食われるよりはいいだろう。ふたりともパンツを見せながらしばらく反省していろ」
触手のような罠で逆さ吊りにされ、スカートはまくり上がり当然パンツ丸出しになったふたりに声をかけて俺はさらに奥に進む。
「まだトラップがあるかもしれない……だが、この程度のトラップに引っかかるやつらが随分いるのだな」
地面に散らばる無数の骨を踏みつけながら、俺が先頭を歩く。
驚いたことに、トラップは入口にある触手だけだった。
簡単に最深部に辿りついた俺たちは小さな宝箱を開けた。
「あったな」
「ありました」
俺が手にしたもの。
それは細かな細工が施されたネックレスと、お宝が隠された場所を示した地図だった。
「とりあえず、これは一番似合うまみに」
俺は今回手に入れた唯一のお宝であるネックレスをまみにかけてやったところで、俺を呼ぶ声がする。
「さて、意地汚いふたりを助けて帰るとするか」
俺はその声で目が覚めた。
「恭平、さっき反省してろって言ったのに寝ているとはどういうことなの?罰としてもう少しそのまま吊るしておこうかな」
一瞬、天井から足が生えたのかと錯覚したが、逆さになっているのは、俺のほうであることはすぐにわかった。
もちろん声の主は腕組みした麻里奈である。
続いて、博子からも声を掛けられる。
「そうです。あれだけ危ないと言ったのに、欲に目が眩んで中に飛び込んだ恭平君には反省が必要です」
「せっかくだ。橘、お前の大好きなお仕置きをしてやろうか。感謝しろ」
当然これは春香からのものであるが、この状態でのお仕置きなどまっぴら御免であり、謹んでお断りした。
さて、現状を説明すれば、俺は洞窟の中で逆さ吊りになっているのだが、なぜこうなったのかを順を追って説明しよう。
「近くにお宝が隠されているのか?」
俺は思わず声を上げた。
それは、情報のくれた旅人が去った直後のことである。
「よし、麻里奈。探しに行こう」
「頭を使ってよね。絶対におかしいでしょう。そのようなおいしい話をタダで話すなんて。で、専門家である先生の意見はどう」
「お宝は欲しいけど、やっぱりタダで教えるのはおかしいよね。というか、なんで、そこで私が専門家になるのよ」
「いや、無料のお宝話に先生が飛びつくかどうかを見たかった。先生が警戒するということはやっぱり怪しいよね」
「そうですね。私もちょっとおかしいと思いました」
「私がケチみたいに言われるのはちょっと納得できないけど、そうなるよね」
「まあ先生は正真正銘のケチですけども、それはそれとして恭平君。これはやっぱり怪しいです」
「それはお宝などないということか」
だが、博子が怪しむところはそこではなかった。
「違います。恭平君、よく考えてください。そこにお宝があるかないかではなく、さっきの人が私たちに無料でその場所を教えること自体がおかしいのです」
「なるほど、そういうことか」
「私もわかった」
「あっ、私もわかりました」
博子の言葉にまず春香と先生が納得し、まみも少し遅れて博子の言った意味を理解したようである。
だが、俺は相変わらずさっぱりわからなかった。
「恭平、あんたは本当に鈍いよね」
「うるさい。俺はお前たちと違って純真無垢だから仕方がないのだ」
「よく聞いていなさい。どのようなときに、私たちにお宝のありかとやらを無料で教えることになるの?」
「それは……相手がいい人の場合とか」
その瞬間、全員から失望色のため息が漏れた。
たしかに間の抜けた答えであることは認める。
だが、これはない。
「橘、貴様は相当のバカだな」
さすがに俺はムカッとして、そう言った春香を睨みつけた。
「そう言うのなら、春香、お前が説明しろ」
「いいよ。無料ということは、さっきのアレはお金が目的ということではない。ここまではいいか?」
「お、おう」
実はわかっていなかったのだが、ここはわかったふりをするしかない。
ちなみに、春香の言う「アレ」とは、俺たちに情報をくれた旅人のことである。
「ということは、アレの目的は私たちがそこに行くそのものということ」
「どういうことだ」
「まあ、まず考えらえるのは、そこで待っているのは魔物。要するに私たちはそいつのエサであるということ。だから、アレはそいつの子分の可能性が高い」
「なるほど。で、そこは危ない。君主危うきに近づかずということか」
「お前は、純粋無垢でも君主でもないけどね」
「ふ~。とにかく危なかった」
ようやく俺も理解した。
なんとか罠を回避して一安心。のはずだった。
だが、結局そうはならなかったのである。
「で、どうします。まりんさん」
「なんだ、ヒロリンもそう思ったのか」
「まあ、そうです」
「私も同じかな。おもしろそうだし」
「春香も同じか。ということで、そこに行くことにしたから。拒否権はありません」
いつものように麻里奈が説明を省いて強引に決めてしまい、俺にはその理由などさっぱりわからないのだが、とりあえず行くことが決定した。
「なあ、春香、罠だとわかっていて、なんで行くことになったのだ。もしかして、麻里奈もお宝が欲しくなったのか」
まみではなく、普段は話さないどころか近寄りたくもない北高入学以来の天敵馬場春香にそう尋ねたのは、まみがこのような騙しあいのようなことが得意ではなく、期待したような返答が得られないと思ったからである。
「まさか。たぶん、まりんが見たいものはお宝じゃないよ」
「では何だ?」
「待っている相手だよ。きっと」
俺はなるほどと納得した。
これこそ小野寺麻里奈という人間である。
元の世界で、俺を含む多くの人間が悲惨な経験をしたのは、こいつのこの性格と、こういう悪巧みをおこなう場合の完璧な計画と準備という用意周到さである。
しかも、麻里奈の隣には、いつもエセ文学少女ヒロリンこと立花博子が副官として控えている。
そう、地味顔にメガネという一見すれば目立たず、いつもヘラヘラと笑っているが、このエセ文学少女は実は性格は極めて冷徹であり、容赦のなさでは麻里奈以上なのだ。
麻里奈の悪巧みがことごとく成功している理由のひとつは、このメガネの暗躍であると俺は思っている。
しかも、こちらでは、とんでもない魔力まで手に入れている。
まさに無敵。
「こっちには無敵魔法使いヒロリンがいるから、まりんもその気になったのだろうとは思うけどね」
その通りだ。
相手がどのような魔物かは知らないが、断言しておこう。
まちがいなく、そいつには悲惨な運命しか待っていないことを。
しかも、こっちには今俺と話しているこんなやつまでいるのだ。
「それに、お前もいるしな」
「わかっているじゃないか。橘」
「まあな」
褒めたくはないが、事実であるから仕方はない。
では、これだけのメンツが揃って準備万端で出かけながら、俺がなぜトラップにかかり、逆さ吊りになったのか。
いつものように麻里奈に弾除けとして使われたと言いたいところだが、今回ばかりは違った。
旅人から教わったお宝はある洞窟の一番奥にあるということだったのだが、その洞窟の前に俺たちはやって来ると、甘い香りが漂っていた。
あきらかに洞窟の中からのものだったのだが、これが第一の罠だったことは、すべてが先ほどまみから教えられた。
簡単に言ってしまえば、これは幻覚作用の強い麻薬の一種だったのだが、六人のうちこのようなものに耐性がないのは俺と春香だけだった
だが、幸か不幸か、この時点では春香は後方を固めていたので、必然的に俺だけがこの煙にやられることになった。
この辺から俺の記憶は定かではないのだが、麻里奈によれば、俺は制止を振り切り「お宝は全部俺のものだ」と叫びながら、洞窟に入っていったらしい。
そして、最終的にあのざまになったのだが、すぐにトラップから救い出されずに放置された理由については、俺が全員に対してセクハラまがいの発言を繰り返し、特に麻里奈と博子に対しては非常に失礼な暴言を吐いたためらしい。
その内容だが、まみや先生から聞きだした断片的情報をあわせると、どうも俺が気を失っていたときに見ていたあの夢とそっくりだった。
それは非常にまずい。
だから、洞窟の奥にいた魔物を春香が叩きのめして取り上げたお宝の分配について、俺は諸々の罪を許されるのと引き換えに一切もらえなかったことも納得せざるをえなかった。
なにしろ、俺が無意識に麻里奈たちに何を言ったのかがわからないため、そんなものを蒸し返されてお仕置きされてはたまったものではない。
まあ、これが今回の宝探しの顛末である。
「麻里奈、そろそろここから降ろしてくれ」
そして俺はいま、いつも以上に丁寧にお願いをしてトラップから解放されることを待っているところである。
まったく……。
これは「小野寺麻里奈は全校男子の敵である」の番外編「小野寺麻里奈が異世界にやってきた」のさらにスピンオフ作品になります。
キャラクターの性格や立ち位置等は本編や番外編に準じていますが、主人公はタイトルどおり麻里奈から恭平となっています。