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ヘタレ勇者が妄想する理想の勇者像

 魔獣たちが住まう森に足を踏み入れてしまった俺たちは、魔物たちに取り囲まれていた。


「橘さん、私怖いです」


「私も」 


「恭平、なんとかしてよ」


 このパーティーでは戦闘力は最弱である癒し系魔法の使い手であるまみと、役に立つスキルは何も持っていない上村先生だけなく、盗賊系スキルを持つ商人らしい麻里奈も俺の後ろに隠れる。


「橘、数が多すぎる。それに私のレベルでは倒すのは無理だ」


「私の魔法も防御だけで手いっぱいです」


 傭兵である春香も、魔術師の博子も泣き言を言い出す。


 だが、それも、この俺が無敵剣士であるからの言葉である。


「任せろ。ヒロリンは俺の分の防御魔法を削り、お前たちを自身を守れ」


「恭平君……」


「心配するな、俺は無敵だ」


 もちろん、それは恐慌状態に陥った五人を安心させるためでもあるが、それなりの意味もある。


 俺ひとりで戦うのならいくらでもやりようがあるが、五人を守りながら、となれば話は別である。


 だから、せめて五人が俺の戦いの足手まといにならないように策を講じたのだ。


 俺の指示どおり、博子は少ない魔力で五人分の防御魔法を張ったのを見届けると、俺はすばやく行動を起こす。


 ……これなら、俺がすべての魔物を打倒すわずかな時間くらいはなんとかなるだろう。


 俺は心の中でそう呟き戦いを始めた。


「橘さん、助けて」


 だが、もう少しというところで聞こえたまみのその叫び声に振り返ると、博子の防御魔法を突破した二体の魔物がまみに飛びかかっていた。


 ……まみの身体を魔物ごときに触れさせるわけにはいかない。


 すぐさま助けに行こうとしたその時。


「うっ」


 俺の注意がまみに集中した瞬間に背中に衝撃が走る。


 こちらの世界に来て初めてのダメージを負った瞬間である。


 だが、俺は痛みに構わず、まみのビキニアーマーを毟り取ろうとしている魔物を切り裂いた。


「毒か。だが、治療する時間はない」


 体が痺れ、朦朧とした意識のなかだったが、最後の力を振り絞り、俺は残りの敵も倒した。


「全部やったか」


「もういない。だいじょうぶ」


「橘さん、ありがとうございます」


 その言葉を聞きながら、俺は静かに目を閉じた。


「すまん。毒にやられた。まみ、癒しを頼む」


「任せてください」


 ……この後に無意識な俺をまみが優しく介抱してくれることになるだろう。


 遠のく意識の中で俺はそう思った。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「恭平、そろそろ出番だぞ。早く起きろ」


 それは麻里奈の声だった。


 まみの胸の中のはずがなぜか俺は地面に転がされていた。


「解毒は終わったのか?」


「毒?何の話よ」


「恭平君はまた夢を見ていたのではないのですか」


「橘、貴様、そんな暇があるなら、弾除けにでもなって少しは役に立て。これだけの数の敵がいるというのに、お前だけが昼寝とはまったくいい身分だな」


「敵、それは俺がさっき全部……」


「まだ寝ぼけているの?」


「……橘君、あなたが倒せるわけがないでしょう。あなたは真っ先にやられました」


「嘘だ。俺はさっき、まみを助けただろう」


「いいえ、助けてくれたのはまりんさんです。橘さんは『こわい、こわい』と泣きながら騒いでいるだけでした」


 まみの言葉に我に返った俺は、先ほどまでが夢であったことにようやく気がついた。


 またやってしまった。


「しかも、弱そうな敵に軽く一ひねり。まったく情けない。それにしても数が多すぎる。どこから沸いてくるのだ」


 ハリセンを振り回しながら春香が喚きたてると麻里奈も同意する。


「あ~~もう面倒くさい。ヒロリン、魔法でやっつけてよ」


「今日は経験値稼ぎに来たのではなかったのですか」


「今日はもう終わり。終了、終了」


「しょうがないですね。では攻撃魔法発動……はい。作戦終了」


 それは一瞬のことだった。


 魔物たちは博子の言葉ひとつで地面に転がり動かなくなっていた。


「終わりました」


 その理由などさっぱりわからないのだが、こいつに忖度したに違いない神から、この世界の言語を日本語に統一してしまうくらいの驚くべき魔力が与えられているのだ。


 この地味顔メガネは。


 だから、この程度のことは児戯に等しいのだろう。


 まったく羨ましいかぎりである。


「さすが、ヒロリン。春香もハリセンでかなり倒したね」


「まあね。さて橘、今度こそお前の出番だ。これこそお前が活躍できる唯一の場面ともいえる」


「橘さん、がんばってくださいね」


「そうだよ。今晩いい夢が見られるかどうかは橘君の活躍次第だから」


「ああ」


 春香たちに言われ、俺が始めた仕事。


 それは、死んだ魔物たちの片づけと回収。


 こいつらが、俺たちの今日の夕飯となるのだ。


「恭平、食べられそうな部分は全部回収しないさいよ」


「無理だ。多すぎる」


「何が無理なのよ。全部持ってこない時には、恭平の夕食と朝食はナシだからね」


「くそっ」


 だが、言われたとおりにするしかあるまい。


 本当に夕食抜きにされたら、空腹のあまり、いい夢どころか悪夢だって見られないのだから。


「まりん、次回は、いっそのこと役に立たないこいつをエサにしてもっと大物を捕まえようよ」


「それもいいね。どうせ、恭平は何回死んでもヒロリンの魔法で生きかえるし」


 それは確かにそうだった。


 今回もそうだが、何回殺されようが、地味顔のエセ文学少女ヒロリンこと立花博子の魔法によって俺は生きかえる。


 だが、痛みが緩和されるわけではない。


 死ぬほどの痛みは、当然それ相応のものであり、甘受できるものではない。


「たしかに生きかえるが、仲間をそのようなもの扱いするというのはどうなのだ」


 もちろん本気の俺がそう言ったのだが、麻里奈も春香も鼻で笑った。


「仲間?」


「橘が仲間?」


「そうだろうが」


「いや」


「それ、まったく違うから」


 こいつらはいつもこうだ。


 いつか、こいつらを見返したい。


 だが、現実世界ではおそらく永遠にその時は訪れないことは俺だって知っている。


「それよりも遅いから私たちは帰っているわよ」


「ちょっと待て。魔獣が出たらどうするのだ。俺一人では魔物は倒せないのだぞ」


「その時はあきらめろ」


「そうそう。夕食の準備もあるし」


「待っていてもらいたいなら、いつも通りにお願いしなさいよ」


 考える暇などはない。


「手際よく作業するので、もう少し待っていてください。お願いします」


 そう言って俺は土下座をした。



 そう、これが悲しい現実なのである。



一応ネタバレ的な説明をしておけば、Aパートは妄想編、Bパートは現実編という形で進行していきます。


これは「小野寺麻里奈は全校男子の敵である」の番外編「小野寺麻里奈が異世界にやってきた」のさらにスピンオフ作品になります。

キャラクターの性格や立ち位置等は本編や番外編に準じていますが、主人公はタイトルどおり麻里奈から恭平となっています。

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