ヘタレ勇者が妄想する古代都市クエスト その1
俺たちは、拠点としているダハシュールから徒歩で三日間ほどかかる今は住む人もいない廃墟となっている古代都市トゥーラにやってきていた。
ここにやってきた理由、それはここが以前は「魔術都市」とも呼ばれ、最盛期には多くの魔術師たちが鍛錬を積み、そして、現在使われている多くの魔法が生み出された場所だからである。
ついでにいえば、その栄えていた魔法都市がこのような廃墟となってしまったのは、ある魔術師が開発した魔法が暴走した結果であるとされている。
そして、生き残った少数の魔術師が伝えたものがある。
そのひとつに、このような言い伝えがあった。
……魔法都市トゥーラは自由に移動できる。
都市を好きな時に好きな場所に移動できるというのは、空間移動の魔法とも考えられ、それはすなわち、俺たちが元の世界に戻ることに役立つ可能性もある。
もっとも、この魔術都市壊滅という惨事が起こってから、すでに千年近くが経っていることもあり、当初は正しかった言い伝えに多くの誇張や誤った解釈が加わっていることは考えられる。
だから、魔術師たちが魔法を使用して都市内を移動していたと言い伝えが、いつのまにか都市そのものが自由に移動できるような解釈になった可能性はある。
だが、確かめてみる価値はある。
なにしろ、この世界には考古学という学問はなく、崩壊直後に金銀財宝を探すために掘り返した後は、ここは打ち捨てられたままになっており、直接的なお宝にはならない魔術について書かれた巻物の切れ端やレリーフなどは今でも残っていることは考えられると俺は考えたのだが……。
「恭平、こんな石ころしかない場所に来て本当に元の世界に帰る手がかりなんか発見できるの?お宝があるかもしれないと思って来たけれど、ない。絶対に」
「そうだよ。お宝もなさそうだし、早く帰ろうよ」
「そうそう、光りものは何もない」
物欲主義信奉者である麻里奈、春香、恵理子先生の三巨頭は最初から乗り気ではなかったし、ポンコツ魔法使いであるヒロリンにいたっては到着早々昼寝に入っていた。
とても女子高校生のものとは思えないライオンの咆哮のようなイビキから、おそらく夕食の時間になるまで起きることはないだろう。
「橘さん、みなさんはやる気がないので、予定よりも早く切り上げたらどうでしょう」
普段は、何事にも前向きであるまみもそのように言った。
「魔術都市というくらいですから未知の魔術的トラップが残っているかもしれません。私たちのパーティーには優秀な剣士はいますが、残念ながら優秀な魔術師はいません。トラップが発動しないうちに引き上げるべきではないでしょうか」
「たしかに、そうだな。呪文が書かれたレリーフでも見つかればとも思ったが仕方がない。今回は引き上げで、次回来るまでにもう少しここについて調べておこう」
「そうしましょう」
考古学にも興味がある知識欲旺盛な俺にとっては、せっかくここまで来ながらすぐに帰ることには後ろ髪を引かれる思いだったが、とりあえず今回は下調べということで納得し戻ることに同意した。
もし、すぐにこの廃墟から立ち去れば、これから起こる面倒事に巻き込まれなかったのだが、すでに夕方だったこともあり、ここで一泊し明日の朝に出発するという常識的な判断をしてしまった。
それがすべての始まりだった。
今回投稿した分は、前日に書き終わっていたのですが、出来がよかったので、少し時間をかけて手を入れてみました。
オチなしでも十分いけそうな内容になりそうです。
いつか別キャラを乗せて別の小説としても出したい気分です。
始まったばかりですけど。
これは「小野寺麻里奈は全校男子の敵である」の番外編「小野寺麻里奈が異世界にやってきた」のさらにスピンオフ作品になります。
キャラクターの性格や立ち位置等は本編や番外編に準じていますが、主人公はタイトルどおり麻里奈から恭平となっています。