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ヘタレ勇者が妄想する武勇伝Ⅲ

 異世界やってきた俺たちは、探索の範囲を広げていた。


 もともと知識欲旺盛な俺自身はせっかく異世界の来たのだから、見聞を広げるために遠くまで旅をしたいという気持ちはあった。


だが、こわいので動きたくないという一緒にやってきた女性たちの意見も理解できるし、尊重しなければならない。


ここで、五人の女性たちと生活するのは確かに楽しい。


だが、そうしてばかりもいられない。


なにしろ、ここに留まっていては、元の世界に帰る手がかりを見つけることは困難であり、目的のためには少しずつでも動き回る必要なのだ。


俺は親切丁寧にその旨を説明して彼女たちに納得してもらった。


「今日は、南に行ってみよう」


 そうして、森に行くことにしたのだが、ここでならず者たちに遭遇する。


冒険者と称する、ならず者たちに。


もちろん、俺は無駄な争いは避けたいし、まして人間同士の殺し合いなどまっぴらごめんである。


だが、同行するまみたち女性たちの身を守らなければならないとなれば、話は別である。


残念ながら、今回がそのケースとなる。


「あんた、連れている女は売り物か」


「いい女だな。いくらだ?」


顔を合わせて早々に出た下品な言葉で、こいつらの素性は知れた。


すでに、男たちは思い思いにまみたちをいやらしい目で眺め、値踏みしているようだった。


「一応尋ねるが、お前たちは野盗の類か」


「あんた、寝ぼけているのか。俺たちは冒険者グループだ」


「これを見ろ」


彼らが見せびらかす首にぶら下げた金属製の冒険者識別章から上からふたつ目の冒険者チームだとわかったのだが、それでこの程度とはがっかりさせられる。


その冒険者たちは、自分たちが七人に対して、俺たちは六人しかおらず、さらに俺以外が全員女性であることから、少し脅せば言いなりになるか、万が一戦闘になっても簡単に勝てると踏んだのだろう。


「別に命まで取ろうというわけでない。あんたもちょっと見なかったことにしていてくれればいいだけだ」


「そういうことだ」


「あんたが毎日やっていることを、俺たちもやるだけだ」


こいつらは全くダメだ。


目の前にいる男の器量どころか、剣士としての力量もわからないのだ。


この俺がそのようなことを認めるわけがないだろう。


「くだらん」


俺は吐き捨てるように言った。


「なんだと」


「怒ったか。まあいい。今ならまだ間に合うぞ。見逃してやるから消えろ」


「ふざけるな」


「六人相手に勝てると思っているとはおめでたいやつだな。お前ら、とりあえずこいつを片付けろ。俺はその間にまずこの女と……」


 リーダーらしき男は、そう言うとまみの胸に手をかけようとした。


「うぎゃ」


 だが、悲鳴を上げたのは、まみではなく男の方だった。


 俺の剣が、男の汚らわしい手を切り落としたのだ。


「貴様」


「相手はひとりだ」


 男たちが剣を抜いたものの、数でなんとかなるレベルの剣技の差ではない。

すぐに勝負がついた。


 もちろん、無礼な輩はこの場で殺してもよかったのだが、無礼の代価として全員の右腕を切り落としただけで許すことにした。


だが、悪党はどこまでも悪党である。


命を救ってやったにもかかわらず感謝の気持ちなど微塵もないらしい。


「お前、冒険者に対してこのような仕打ち、ただでは済まんぞ」


「貴様は今日からお尋ね者だ」


「町に帰ったら報告するからな」


 俺は笑った。


「貴様たちの行為こそ大罪に値するぞ。まあいい。せっかくだ。名乗っておいてやろう。俺の名は橘恭平。勇者だ」


「橘恭平。覚えたぞ。貴様は今日からお尋ね者だ」


「……橘さん」


 まみは心配している。


 だが、俺は平気だ。


たとえ、追われる身になろうとも、守らなければならないものはある。


それが勇者というものだ。


 俺は心の中でそうつぶやいた。


「恭平君、終わりましたよ。起きてください」


それは、エセ文学少女ヒロリンこと立花博子の声だった。


「終わった?何が終わった?奴らはどうした?」


 どうやら、俺は先ほどの戦闘での疲労で、眠ってしまったようである。


 不覚である。


手負いとはいえ、先ほどのやつらが襲ってきたときに寝ていては、さすがに勇者である俺でも攻撃を防ぐことはできない。


「ヒロリン、橘君はまだ寝ぼけているかもよ。いつもみたいに」


「そうかもしれません。恭平君、起きていますか?目を覚ましてください」


 恵理子先生の声に博子は意味不明の返答をしている。


「ヒロリン、このバカを起こすにはこれが一番だぞ」


 春香の声とともに届く強い衝撃は俺の意識を遠のかせるには十分だった。





「恭平、目が覚めたら、ちゃんと荷物運びをしてよね。あいつらから奪った食料とか武器とかいっぱいあるのだから」


それは麻里奈の声だった。


 ……夢だったのか?それとも現実だったのか?仕方がない、確認するか。


「麻里奈、さっきの冒険者はどうした?」


「もちろん、やっつけたわよ」


 どうやら、先ほどのあれは夢ではなかったのだな。


「そうか、それで……」


だが、俺の言葉を遮るように麻里奈は続けた。


「ヒロリンと春香がね」


「……そうか」


 ……なるほどな。ゆっくり思い出そう。どうせいいことはないだろうし。


 俺は心の中で呟いた。


 実際に何が起こったか?


 俺が思い出したこと、それから麻里奈から聞いたことを合わせるとこうなる。


 まず、冒険者に出会ったことは間違いなかった。


 だが、残念ながらその過程が違う。


「森には何がいるかわからないから、行くのはやめよう」


「橘さん、おもしろそうですから行ってみましょうよ」


「そうだよ。反対しているのは橘君だけだよ」


「嫌だ」


「こんなところに留まっていても、元の世界に帰る手がかりなんか何も掴めないでしょう」


「それでも森はこわいから行かない」


「あんたは北の平原も危ないと言わなかった?せっかく異世界に来たのに、色々な場所を見て回りたいと思わないの?」


「全然思わない」


「バカなこいつには知識欲というものがないのだろう。それに、このヘタレにとってはどこも危険なのだろうよ」


「春香、『君子危うきに近づかず』という諺を知っているか?」


 ちょっとしたお返しを兼ねた軽いジョークだった。


 だが、春香に通じなかったらしい。


 その返事は拳とともに届いた。


「バカな貴様が知っていることを私が知らないはずがないだろう」


「……だから。そういうことだ。安全第一ともいう」


 脳天の痛みに耐えながら、俺はそう言った。


 動かないことが一番だと言いたかったのだ。


 だが、春香の見解は違った。


「橘、いいことを教えてやる」


「なんだ」


「どうやら、お前はここにいれば安全だと思っているようだが、それは違うぞ」


「ん?違うのか」


 そうして俺たちは森に出かけて、冒険者チームに出会ったわけである。


「我々はこの森を探索している勇者ペンチュ様に率いられた『金』級冒険者チームである。怪しい姿をした貴様たちは何者だ」


 異世界の人間である彼らが、彼らにとっては怪しい服装であるセーラー服姿の少女四人と、「かみむらえりこ にじゅうよんさい ばすとなななじゅうよんせんち えーかっぷ」と書かれた小学生用の紺色のスクール水着というさらに怪しい姿の恵理子先生を見てどう思うのかは十分に想像できるわけなのだが、そこで、一番まともそうな俺が疑われることになるのかは疑問が残るところではある。


「貴様、この女性たちをどうする気だ」


「はぁ?」


 察するに、どうやら冒険者たちは悪逆非道な暗黒騎士が女性たちにおかしな姿をさせて連れて歩いていると思っているらしい。


 これはまずい。


 春香のお仕置きを受けるよりもまずい状況である。


 しかも、このまずい状況をおもしろいと思ったヤツがいた。


 しかもふたりも。


「助けください。私たちはこいつ、ではなくこの暗黒騎士にひどい目に遭わされてどこかに連れていかれる途中です」


「この暗黒騎士は、毎晩私たちを裸にしてなぶりものにしています。助けてください。お仕置きと称して数々の辱めをされました」


「おい、ちょっと待て、だいたい、お仕置きをしているのはお前たちだろうが」


 もちろん言ったのは、麻里奈と春香である。


 当然のように博子と先生も笑顔でそれに続く。


「こんな姿にしたのも恭平君……ではなく、その暗黒騎士です」


「そうそう、私の胸の大きさを過小評価しているのもこの暗黒騎士です。ほら、まみたんも言ったほうがいいよ」


「いえ、その、私はいいです」


 さすがまみ、常識を弁えていると思ったのも、つかの間で代わりに喋りだすヤツが現れた。


「気の弱い彼女に代わって申告します。この暗黒騎士は身分不相応な恋慕をして、毎晩彼女にあんなことやこんなことをしています。恭平君は本当に悪い人です」


「おい、あることないこと、ではなく、ないことないことを喋るな。冒険者の皆さん、こいつらは俺の仲間で、冗談を言っているだけです。麻里奈たちも嘘をついて他人を困らせてダメだろう。おい、麻里奈。そこでわざとらしい泣きまねとかするな。早く俺を救え」


 だが、すべてが手遅れであり、正義感に燃える冒険者たちは、悪逆非道な暗黒騎士を成敗すべく迫ってくる。


「冒険者の皆さん、私たちに辱めを与えたこの暗黒騎士を簡単に殺さないでください。殴る蹴るお仕置きをタップリしてからお願いします」 


「春香、お前言っていいことと悪いことがあるぞ。どうせ殺るならひと思いにやってくれ」


 だが、俺の願いは聞き入れられずに、冒険者たちからの長時間のお仕置きが続き、気絶した俺はいつ殺されたかもわからなかった。


「なあ、麻里奈」


「なによ」


「この後に、どうやったら冒険者たちと戦闘になるのだ。どう考えてもおかしいだろう」


 だが、間違いなく麻里奈たちは俺の永眠中に冒険者チームを襲い、食料や武器を奪っているのは、ここに積まれた戦利品の山が証明している。


「知りたいの?」


「あたりまえだろう。俺はこれだけひどい目に遭わされたというのに」


「知らない方がいいと思うよ」


「うるさい。早く言え」


「わかったわよ。聞いて驚きなさい。ことの顛末を」


 たしかにそれを聞いて俺は驚き、呆れ、そして怒った。


 なんと、この後に麻里奈たちは暗黒剣士に操られたゾンビと称して、冒険者たちを襲ったのだという。


 しかも、春香のハリセンで「死なない程度」に痛めつけて、この世界の神よりチートな力を与えられたらしい魔法使いであるエセ文学少女がはるか彼方に飛ばす直前に麻里奈は彼らにこう告げたという。


「私たちは暗黒騎士を倒した者をさらに倒さないと元の姿には戻れません。そのような酷い魔法をこの悪逆非道な暗黒騎士にかけられました。ごめんなさい」


「ということは、俺がすべて悪いということか?」


「まあ、そうなるよね。たまには役に立ったと褒めてあげる。さぁ、あいつらから分捕ったこれを運んでちょうだい。そのためにヒロリンの魔法であんたを復活させてあげたのだから」


 おそらくどこかで俺の悪名を広めている冒険者たちに、俺は声を大にして言いたい。


 これこそが真実なのだと。


これは「小野寺麻里奈は全校男子の敵である」の番外編「小野寺麻里奈が異世界にやってきた」のさらにスピンオフ作品になります。

キャラクターの性格や立ち位置等は本編や番外編に準じていますが、主人公はタイトルどおり麻里奈から恭平となっています。

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