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ヘタレ勇者が妄想する美女との混浴

 異世界にやってきた俺たちだが、数日で風呂に入りたいと思ってしまうところが、やはり日本人なのかもしれない。


 とにかく、今日まで川の水浴びでなんとか凌いでいたのだが、限界のようである。


 ついで言えば、高潔な勇者である俺は、女性たちが水浴びしている姿を覗き見などはしないし、女性たちからの背中を流すという申し出もきっぱりと断っている。


 さて、風呂であるが、温泉を発見できればよかったのだが、残念ながら、たとえ異世界といえども、そう簡単に温泉がみつかるわけもなく、暖かい湯に浸かりたければ、それなりの努力をしなければならなかった。


 その場合に最低でもふたつが必要となる。


 水を溜める施設、それからお湯である。


 こういうときこそ魔術師を自称するエセ文学少女ヒロリンこと立花博子の魔法ですべてを解決するはずなのだが、口は良く動くが魔力と修行不足なために戦闘どころかこういうときにもまったく役に立たない。


 ということで、博子に代わって活躍するのが、やはりこの俺となる。


 無敵剣士であるこの俺が風呂づくりなど滑稽極まるのだが、これもパーティー唯一の男子であり、女性たちを率いる者としての責務であろう。


 幸い川と森が近くにあるために、水と薪になる木の確保が容易だったのは助かった。


 穴を掘り、水が漏れないように石を敷き詰めて、薪を燃やして底から湯を沸かすという五右衛門風呂風露天風呂の完成である。


「完成だ。ただしお湯の関係で数人ずつ入ることにはなるが」


 このようなことも完璧にこなす俺の姿に、女性たちが感嘆の声を上げた。


「さすが橘さんです」


「恭平はなんでも完璧にこなすな」


「これでやっとさっぱりできます。お風呂が楽しみです」


 ここまではよかった。


 ところが、ここでいつもの問題が発生する。


「私が入る」


「だめです。まりんさんは遠慮してください」


「顧問である私が入る」


「異世界では顧問は関係ないでしょう」


 何で揉めているのか?


 入浴順ならいい。


 だが、揉めている原因とは「誰が俺と一緒に入浴するか」だった。


「わかった。俺が決める」


 本来なら自分たちで決めるべきなのだが、どうせ任せておいてもいつまでも決まらないので、俺が決めることにした。


「俺は最初から最後まで入っている。お前たちの入る順はくじ引きだ。時間はひとり五分」


 俺自身の気持ちはまみと一緒に一時間でも二時間でも入っていたいところであるのだが、この辺が落としどころだろう。


 それに、とりあえず全員の裸が拝める……いや今のほんの冗談である。


 どうやら、順番が決まったようである。


 最初はまみとはありがたい。


 では、まずまみと裸の付き合いをするか。


 う~ん、これはいい。


 まみと風呂に入ったことを北高男子に自慢するためにも、元の世界に戻りたいものだ。


 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 後頭部に物凄い衝撃を受けた。


「橘、貴様、見張りも満足にできないのか」


 もちろん、声の主とは春香である。


「まだお前の順番ではないだろう。まず俺と風呂に入るのはまみで、それからヒロリンだ。その次がお前だ」


 痛みが残る頭を押さえながら、俺は文句を言ったのだが、春香には動じる様子など微塵も見られない。


「ほう、よくわかった。ところで、ちょっと確認してもいいか、橘」


「なんだ」


「お前の話を聞いていると、どうも私はお前と風呂に入らなければならないようだが、それで間違いないか」


「もちろんそうだ。俺がつくった風呂にふたりずつ入ることになっただろう。もちろん俺はひとりで入りたいのだが、お前がどうしても俺と風呂に入りたいとグヒャ」


 今度は脳天直撃の一発である。


「貴様、言うに事欠いてなんということを。ということはまみたんもヒロリンもお前と一緒に風呂に入りたいと言ったということか」


「そうだろう。さっきくじ引きで……くじ引きで」


「何がくじ引きだ。今言ったことは全部まりんに報告するからな。だいたいこの立派な風呂をつくったのはヒロリンだろう。寝ぼけるな」


 そう言われて眺めると、たしかに先ほど俺がつくった五右衛門風呂風なものとはかなり趣が違う。


 なんというか、かなり立派である。





 そして、その後どうなったかといえば……。


「恭平、このお風呂がどうやってできたか言ってみてよ」


 一応、現在の状況を簡単に説明しておけば、正座させられている俺の目の前には腕組みした麻里奈が立っている。


 残りの女性陣も怒り怒髪天をつくという表情で俺を取り囲んでいる。


 ハッキリ言って、非常にまずい状況である。


 ここは、いつも通り、逃げの一手しかない。


「ヒロリンが魔法でつくりました。俺がつくったというのは間違いです」


 まあ、これは確かに事実であり、でたらめな魔力を与えられたヒロリンが、「立派で大きなお風呂」と言っただけで突如現れたので、この風呂と俺は無関係である。


「間違いではない。橘が嘘をついたのだ。言い直せ」


 春香の厳しい追及に俺は訂正する。


「はい。すいません。俺がつくったなどと嘘をつきました」


「それから、まみたんが一緒に風呂に入りたいと橘に土下座して泣いてお願いしたそうだな」


「それも嘘でした」


「橘さんはひどいです……私が一緒に入りたいのはまりんさんで……」


「お前が私たち全員の裸を見たかったのだな」


 もちろん、お仕置きが怖いので否定したかった。


 だが、ここで否定しても、肯定するまで春香にお仕置きをされるだけあり、なにより間違いなかったので、渋々認めることにした。


「そのとおりです。すいません」


「この変態。貴様には厳しいお仕置きが必要だな」


「異議なし」


「やっちゃってください」


「当然よ。お金も払わず私とお風呂に入りたいなんてありえないでしょう」


「春香さん。橘さんをタップリお仕置きしてください」


「ラジャー」


 ……そして、このあとに今まで以上に厳しいお仕置きが待っていたわけである。


一応ネタバレ的な説明をしておけば、Aパートは妄想編、Bパートは現実編という形で進行していきます。


これは「小野寺麻里奈は全校男子の敵である」の番外編「小野寺麻里奈が異世界にやってきた」のさらにスピンオフ作品になります。

キャラクターの性格や立ち位置等は本編や番外編に準じていますが、主人公はタイトルどおり麻里奈から恭平となっています。


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