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ヘタレ勇者が妄想する理想の異世界生活

一応初回なのでネタバレ的な説明をしておけば、Aパートは妄想編、Bパートは現実編という形で進行していきます。

俺は部活動中に突如異世界に転移させられた。


もちろん誰がどのような目的でおこなったのかはわからない。


だが、今は異世界にやってきた事実だけで十分だ。 


なぜなら……。


「橘さん、今日はどうしましょうか」


「恭平君、今日はどちらに向かいますか」


「橘君」


「恭平」


「……橘」


 そう、異世界にやってきたのは、俺だけはない。


 同じクラブ「創作料理研究会」が誇る三人の美少女小野寺麻里奈、松本まみ、馬場春香、そこからはかなり劣る地味顔メガネ娘立花博子、それに二十四歳の顧問の上村恵理子先生も一緒なのだ。


 当然異世界に飛ばされてしまったことにより、五人は狂乱状態に陥ったのだが、ただひとりの男子であり、普段から沈着冷静な俺の言葉に落ち着きを取り戻した。


 もちろん、元の世界に戻る手段を見つけることが最終目的である。


 だが、まずはこの異世界で生き残らなければならない。


 幸いにも俺には騎士の能力が与えられているらしく、漆黒の甲冑と、それと同じくらいの闇色の剣を帯びている。


 重い甲冑は空気のように軽いが敵の攻撃を簡単にはね返し、黒く光る剣はどのような硬い鱗を持つ魔物を次々に切り裂いた。


 ちなみに、俺は元の世界では武術の心得などなかったが、この世界で圧倒的な剣技を持つ勇者となっている。


 まさに無敵。


 それだけではない。


 五人の女性は、俺を頼り切っている。


 学校で一番かわいいと評判で、全校男子の憧れの的である松本まみ、性格はねじ曲がっているが外見だけはまみにも負けない幼なじみの小野寺麻里奈、かわいい顔に似合わず厳しいお仕置きをされることが大好きなショートカットが似合う馬場春香、黒縁メガネに地味顔という外見は三人にかなり劣るものの隠れメガネ属性である俺にとっては十分守備範囲であるうえに、生徒だけでなく教師を含めても学校一の巨乳であるため実は魅力的なキャラであるエセ文学少女ヒロリンこと立花博子という四人の部員だけでなく、二十四歳の幼児体形という女性としての魅力には欠けるが、童顔の年上女性教師の設定は男子高校生としては捨てがたい上村恵理子先生までが、俺の言いなりなのだ。


 当然彼女たち全員が、俺が見た目重視で用意したビキニアーマーを喜々として着用している。


 しかも、夜になると、毎晩俺の隣に誰が寝るかでスケスケのネグリジェ姿の五人は揉め、昨晩からは俺に選択を委ねることになった。


 もちろん、ひとりはまみだ。


 残りは、まあもうひとりはどうでもいいので、くじ引きにして、その結果幼なじみの麻里奈となった。


 そう、夜こそが俺にとっては本番であり、寝る暇も惜しみ、女たちに至福の時を与え続けているのだ。


 なんとすばらしい異世界暮らしだろう。


 異世界バンザイ。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「おい、橘。貴様下僕の分際でいつまで寝ているのだ。労働の時間だぞ」


 その声で目があけると、俺の顔をショートカートがよく似合うかわいい男の子という表現が似合いそうな顔が覗き込んでいた。


「いやらしい目で私を眺めるな。この変態」


 その声の主は、俺が与えたビキニアーマーではなく、なぜか俺たちが元の世界で通っていた千葉県立北総高校通称北高の制服であるセーラー服を着こんでいた。


 もっとも、元の世界でもこいつのスカートの短さは「パンツを見せながら階段を上る」といわれるくらいに学校中で有名であり、当然この位置では白いパンツが丸見えである。


 まみのパンツならともかく、朝からこいつのパンツなど見たくはないが、俺に見せたいらしいので、とりあえず我慢して見てやることにした。


 さて、こいつの目的はわかっている。


「春香か、またお仕置きしてもらいたいのか。それならば、早く全裸になれ」


 こいつの名は馬場春香。


 顔はかわいいが、俺がお仕置きするたびに泣いて喜ぶ、肉体的痛みに悦びを感じるタイプの変態である。


 だが、今朝は少々様子が違う。


「おい、橘。貴様今何と言った」


 お仕置きしてやろうと俺のありがたい言葉にも喜ぶどころか怒りを露わにしている。


 昨日のお仕置きが足りなかったということなのか。


 仕方がない。


 もう一度言ってやるか。


「お前が大好きなありがたいお仕置きしてやろうかと言ったに決まっているだろう。欲しいのだろう。朝のお仕置き。早く全裸になれ」


 これだけ言えば、大喜びするはずだが、なぜかそうならない。


「なるほど。貴様は自分の立場を弁えていないようだな。よかろう。バカな貴様でも二度と忘れないように、体にしっかり覚えさせてやる」


 春香が取り出したのは、昨晩俺が春香のお仕置きに使用したはずの大きなハリセンである。


「おい、春香。なんだ」


「もちろん、お前が好きなお仕置き道具のひとつハリセンだ。もっとも、こっちの世界では最強の打撃系武器だそうだが」


「もちろん、それは知っているが……なんで俺がお仕置きされるのだ。お仕置きされるのはお前のはずだろう。ん……」


「ほう。この私が貴様のお仕置きが欲しい?」


 春香はそう言うと、持っていたハリセンで俺を突く。


 痛い。


 力などまったく入れていないというのは、思い切り殴打されているようだ。


 その痛みとともに、徐々にクリアになっていく俺の頭。


 そして、今俺はとんでもない事態に陥っていることを気がついた。


 こいつは、いやこいつこそ、お仕置きと称して日々俺をいたぶっているやつであり、そんなやつに俺は今まで何と言っていた?


 これはまずい。


 非常にまずい。


 なぜこのようなことに……。


 そうだ、またいつもの病気だ。


 俺はこちらに来てから妄想するようになっていた。


 まあ、毎日麻里奈や春香からの酷い扱いを受けているため、軽い現実逃避をしているようなものだから、これだけならいい。


 だが、妄想から覚めても、どういうわけか、しばらくは虚構と現実の区別がつかないのだ。


 その結果がこれだ。


 しかも、今日は言った相手が春香とは最悪だ。


 間違いなくこのあとには、春香のお仕置きが待っている。


 もちろん、俺はそのようなものは望んではいない。


 だが、こいつは、俺がお仕置きされると喜ぶ変態だと言う。


 このように。


「随分面白い冗談を言うではないか。バカな貴様とは思えぬくらいに今朝は冴えているぞ。橘。タップリとご褒美をくれてやる。喜べ」


「やめろ。俺が悪かった。なんというか、その寝ぼけて、変な夢を見て……」


「ということは、貴様の夢の中では、私は全裸になってお仕置きされて喜ぶ貴様のような変態だったという設定だったということだな」


「いや、その……」


「よし。夢の中でもそのような設定にならないように、今日は特別に厳しいお仕置きをしてやるぞ。感謝しろ」




 その後に俺の身になにがあったについては、聞かないでそっとしておいてもらえるとありがたい。



「小野寺麻里奈は全校男子の敵である」の番外編「小野寺麻里奈が異世界にやってきた」のさらにスピンオフ作品になります。

キャラクターの性格や立ち位置等は本編や番外編に準じていますが、主人公はタイトルどおり麻里奈から恭平となっています。


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