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中二病を極めた私、異世界魔法を凌駕する  作者: 氷高悠
第2章 第6話「魔族の将と相対した私、本気で怒る」
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05 それが、私の戦いだから

 ダンッと。

 私は地面を踏み鳴らした。


 折れるんじゃないかっていうくらい、強く歯噛みして。

 ギリッと――目の前で澄ました顔をしているカンナさんを、睨みつける。


「……ふざけないでください」

「ふざけてなどいないよ」

「ふざけてますよ! なんですか、その理屈は!? 意味がない――ってなんですか! 強くなければこの学園が滅びてもいいって、カンナさんは言ってるんですか!?」

「ああ。そうだね」


 ――――っ!!

 すぅっと、全身の血が引いていくのを感じる。


「この学園は、いずれ魔王グランロッサを倒すために創られた場所。世界を救う場所だ。救世の力がないのであれば、存在する意味はないだろう?」

「ちょっ……カンナさん、それはさすがに言い過ぎじゃね?」

「言い過ぎではないさ。オルタナギアの民がルミーユ学園に求めているのは『救世』だ。それが達成できないのであれば、民衆は当然怒り狂うよ。キサラもアリスも、この学園のあるべき姿を見つめ直す必要が、あるんじゃないか?」


 カンナさんが何を言っているのか、分からない。

 私の脳が、この人の言葉を拒絶している。


「もちろん分かってるさ。それは理想論だ。すべての生徒が、わたしのようになることなど不可能だ。だからこそわたしは……君の力で乗り越えろと伝えたんだ。アリス」


 カンナさんがポンと、私の肩に手を置く。

 私はそれを、反射的に振り払った。


 けれどカンナさんは、そんなことを気にした様子はなく。


「まずは一人。一人でもいいから、わたしと肩を並べる存在に生まれてほしい。そしてわたしとともに、救世の道を歩んでほしい。それがわたしの願いだ。そして、その一人こそが――アリス。君なんだよ」


 ――カンナさんが、私をまっすぐに見つめる。

 ――その目を、私はまっすぐに見つめ返す。


 そしてゆっくりと、私はカンナさんから視線を逸らして。

 そのそばをすっと……通り過ぎた。


「分かりました。私が戦います。カンナさんたちに頼らず、私だけの力で」

「ああ。それでいい。それがいずれ、世界を救う力に――」

「世界なんて、今はどうでもいいです」

「……? どういう、意味だい?」


 私はこれまで、どこかでカンナさんに憧れてました。

 誰よりも強くて、誰よりもまっすぐなその姿に――追いつきたいと思っていました。


 だけど今、分かりました。

 私とカンナさんは……まるで違うんだってことに。


「カンナさんは、世界が変わることを望んでいる。魔王グランロッサを自浄できるような世界を創ることを、目指している。そしてそのためなら、多少の犠牲は仕方ないって……そう思ってるんでしょう?」

「それが何か?」

「私は、そんな世界を望まない」


 自分でも驚くほど、私はきっぱりと言い放った。


「私も魔王グランロッサのいない世界を――平和な世界を望んでいます。だけど、そのための犠牲を仕方ないだなんて、思えない。思いたくないです」

「綺麗事だね」

「それでもかまわないです。世界なんて、今はどうでもいい。今は目の前の、学園のみんなを護るために、戦います。私はカンナさんとは違う。誰一人、犠牲になんて――させないから!!」


 それだけを言い残して。

 私は一目散に駆け出した。


 リーリカを呑み込んだ巨大な怪物――ティターン。

 その姿を、仰ぎ見ながら。


「お喋りの時間は終わったのかよぉ……アリスぅ!!」


 ティターンこと地軍大将ヴェルゴーシュは、咆哮するように言った。


「てめぇがその、攻撃無効化魔法を解除しねぇんなら……今からこの学園の連中を、一人ずつ踏み殺してやる! てめぇのせいで死んでいく連中を、泣きながら見てやがれ!!」

「そんなこと――させない!!」


 禁断教典『シュバルツアリス』を取り出して。

 私はヴェルゴーシュの前に、立ちはだかった。


「誰一人、犠牲になんてさせない! 私も死なない!! それが私の……戦い方だ!!」


 カンナさんとはすれ違ってしまった、私の考え。

 それが正しいのかどうかは、私には分からない。


 分からないけど……。


『大丈夫。アリスはそれで、いいんだよ』


 目を閉じれば聞こえてくる、私の最愛の友人の声。


 どんなときだって、私のそばにいてくれて。

 私を励ましてくれる――リーリカの声。


『だってアリスは……あたし史上、最高なんだから』


 まぶたの裏に浮かんで見える、くしゃっとした笑顔のリーリカ。


 そんな彼女が、背中を押してくれる。

 私に戦う、勇気をくれる。


「覚悟しろ……地軍大将ヴェルゴーシュ!!」

「ほざけよ下等な人間ごときがぁぁぁぁぁぁ!!」


 禁断教典『シュバルツアリス』を片手に持ったまま。

 私は両手をまっすぐ突き出し、クロスさせた。


 足元に光のサークルが現れ、一陣の風が巻き起こる。

 そして私は、長い髪をたなびかせながら――ひとつの呪文を口にした。


「くるくる、繰る繰る、狂々と。時計の針は逆回り。世界は静かに音を止め、あるべき姿を取り戻す。くるくる、繰る繰る、狂々と。再生の輪舞曲(ロンド)――序章(プロローグ)『時計仕掛けのオリオン座』!!」


 詠唱を終えると同時に、空には巨大な振り子時計が出現する。


 そして振り子が、ゆっくりと揺れる。

 ボーン、ボーンと……時を刻みながら。


「な……なんだこの魔法は!?」


 ヴェルゴーシュが動揺しているけれど、無理もない。

 だって、ヴェルゴーシュによって破壊された箇所が、少しずつ元の姿に戻っていって。

 あちらこちらで石化して倒れていた人たちも、意識を取り戻しはじめてるんだから。


 そう。これは――再生魔法。

 私が学園に来たばかりの頃、クラスメートたちの前で披露してみせた……時間を巻き戻すことのできる魔法だ。


「ぐっ……ぐあっ!?」


『時計仕掛けのオリオン座』の効果で、すべてが元に戻っていく中で。

 ヴェルゴーシュは腹部に手を当てて、その巨躯を折ってうずくまった。


 そうだろうね。

 だってあなたのお腹の中には――たった今、石化を解除されたリーリカがいるんだから。


 おそらくリーリカは、ヴェルゴーシュの中で『ルクシアブレード』を振るっている。


「私の動きを封じるために、リーリカを呑み込んだことが……仇となったね、ヴェルゴーシュ!!」

「ぐぅ……おのれぇぇぇ!! 人間ごときが、この俺様をよくもぉぉぉぉぉ!!」


 ヴェルゴーシュが唸り声を上げる。

 そして、腹部の痛みに耐えかねたかのように、えずいた。


 そのとき――骨だけで構成された頭部から、ぽろりと。

 一人の少女が、零れ落ちる。


「――はじめに言の葉があった」


 私は両手をクロスして、跳躍する。

 そしてまっすぐに、ヴェルゴーシュを睨みつけて。


「言の葉は私に力を与えた。力はすべてを掌握し、世界は私にひれ伏した。けれど……世界には、天使がいた。言の葉ではなく。力ではなく。心がなければ奪えない、天使の笑顔がそこにはあった」


 天使の笑顔。

 リーリカの笑顔。

 ――私をいつだって包んでくれる、その優しい笑顔。


「ゆえに私は、心を紡ぐ。紡いだ心が、いつか天使に届くと信じて」


 私は護りたい。

 そんな温かい日常の、すべてを。

 …………だから。



「――『私と天使(イッツ・ア・)の夜想曲(アリスワールド)』」

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