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中二病を極めた私、異世界魔法を凌駕する  作者: 氷高悠
第2章 第6話「魔族の将と相対した私、本気で怒る」
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04 カンナさんの思惑

 それは、まさに『怪物』だった。


 三階建てのルミーユ学園寮を優に超える、巨大な体躯。

 園庭すべてを埋め尽くすほどの、長く太い尻尾。

 その頭部は骨だけで構成されており、皮膚や肉はそげ落ちている。


 これが――地軍大将ヴェルゴーシュの、正体。


「地軍最強の魔物――ティターンとは、俺様のことだ」


 巨大な怪物と化したヴェルゴーシュの声が、地震みたいに足元を震わせた。


 そして、ずしりと。

 その太く大きな脚を、踏み出した。


「……どんなに大きくたって、私の魔法なら、あなたを消滅させられる!」


 すぅと息を吸い込み、私は怪物ティターンを見上げた。


 こんな巨大なモンスターと対峙してるっていうのに、不思議と先ほどまでの恐怖心は消え去ってしまっている。

 それよりも、心に灯っているのは――純粋な怒りだった。


「これで、終わりにしてやるから!」


 私は再び、両手をクロスさせた。

 足元が発光し、光のサークルが出現する。

 そして私は、呪文の詠唱を開始した。


「はじめに言の葉があった。言の葉は私に力を与えた。力はすべてを掌握し、世界は私にひれ伏した。けれど――」


「おい、アリス……こっちを見ろ」


 詠唱の途中で、ヴェルゴーシュは笑いながら言って。

 その手に握った――一人の少女を見せてきた。


 それを見た私は、思わず呪文を中断してしまう。


「リーリカ……っ!」


 果たしてそこにいたのは、私の一番の友人――リーリカだった。


 最初に石化させられたときから、ぴくりとも動いていない表情と姿勢のままで。

 リーリカは、ヴェルゴーシュの手の中にいる。


「ヴェルゴーシュ! 一体、何をするつもり!?」

「……こうするんだよ」


 冷酷な声で、そう告げて。

 ヴェルゴーシュは、骨組みの頭の中にリーリカを放り込んだ。


 そのまま骨を伝って、肉と皮に覆われているヴェルゴーシュの体内へと呑み込まれていくリーリカ。


「な……っ!?」

「てめぇがどんな魔法を使うつもりか知らねぇけどよぉ……俺様の体内には今、てめぇの大切なお仲間がいる。果たしてその魔法は、お仲間を傷つけずに済むのかねぇ?」


 なんて……なんて卑劣な真似を!

 私は唇を噛み締めながら――静かに両手を下ろした。


私と天使(イッツ・ア・)の夜想曲(アリスワールド)』は、敵だけにダメージを負わせられるというチート魔法だ。

 もしかしたらこのまま攻撃しても、リーリカには影響がない可能性だってある。


 けど……体内に取り込まれた時点で、リーリカがヴェルゴーシュの一部だと認識されてしまっていたら?


 ヴェルゴーシュもろとも、リーリカは消滅する。

 そんな危険な賭け……私には、できない。


「死ね!」


 ヴェルゴーシュが私を踏み潰そうと、脚を振り下ろした。

 けれど、『堕天使の羽根(ドレスコード・ゼロ)』によって、その攻撃は弾かれる。


「くっ……」


 この魔法がある限り、私がヴェルゴーシュに倒されることはない。

 しかし、このまま拮抗状態を続けていたら、周りの被害が拡大していくばかりだ。


 早く、早くなんとかしないと。

 焦る気持ちで頭が真っ白になる。


 禁断教典『シュバルツアリス』に記してある魔法のことが、うまく思い出せない。

 どうしたら。

 どうしたら、いいんだ……?


「――にゃっはははははははっ!!」


 甲高い笑い声が、星の散りはじめた空にこだました。

 そして――ヴェルゴーシュの骨に向かって振り下ろされる、双剣。


 ガキンと。

 剣と骨がぶつかり合う音が、響き渡る。


「ありゃ? あっちゃあ。こいつ、マジで固いね」

「……なんだ、てめぇは?」

「キサラさんだよ! 覚えとけ!!」


 軽口とともに骨組みの頭を蹴りつけると。

 くるくると回りながら、我が校最強の剣士――キサラさんは、私のそばに着地した。


「やっほー、アリス。遅くなってごめんよ?」

「キサラさん!」


 パチッとウインクをしてくるキサラさんに、私は思わず駆け寄った。

 普段はちゃらんぽらんで、わけの分からない人だけど。

 こういう場面では――これ以上に、心強い人はいない。


「はぁ……しっかし、リーリカはまだまだだねぇ。簡単にとっ捕まっちゃって。やっぱうちが、きちんと鍛えてあげないと」

「そんなこと言ってる場合じゃないですよ! 早くあいつを、なんとかしないと」

「だねぇ」


 軽い口調でそんなことを言うと。

 キサラさんは双剣を腰元のホルダーにしまって、頭の後ろで手を組んだ。


 その余裕ぶった態度に、私は思わず目を丸くする。


「何やってるんですか、キサラさん!?」

「高みの見物ってやつさ。あんたが、あの怪物を倒すところをさ」

「何言って――今は非常事態なんですよ!?」

「いや、うちもそう思うんだけどさぁ……そこの大将が、手出しをさせてくれないっていうか」


 苦笑いを浮かべながら、キサラさんはひらひらと、私の後ろの方へ手を振った。


「――――アリス」


 聞き慣れた、海のように澄み渡ったきれいな声。


 そして現れたのは、声以上に美しい女性だった。

 腰元まで伸びた真っ青な髪を揺らしながら。

 長いまつ毛で飾られた瞳で、私をまっすぐに見つめてくる。


「……カンナさん」

「苦戦しているようだね、アリス?」


 カンナさんが微笑を浮かべて言う。

 その言葉に、私は大きく頷いて。


「はい。リーリカを人質に取られて、正直どうしたらいいか分からなくって。だから、カンナさんも力を貸し――」

「やってごらん、アリス」


 私の発言を遮って。

 カンナさんは淡々とした口調で、告げた。


 ぞわっと……私は背筋が冷たくなるのを感じる。


「……どういう意味ですか?」

「そのままの意味だよ。リーリカを助けたいのなら、相応の知恵を絞ればいい。そして君の力で――この危機を乗り越えるんだ」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう!?」


 何を。

 何を言ってるんだ、この人は。


「今がどういう状況か、分かってるんですか!? 魔軍四将の一人に襲われて、この学園が滅ぼされちゃうかもしれない……そんな危険な状況なんですよ!?」

「そうだよ、カンナさん。うちだって、戦いたくってうずうずしてるんだぜ? キサラちゃんが華麗に活躍、華麗に解決! そうすればリーリカだって、うちのことを――」

「ダメだよ、キサラ」


 しかしカンナさんは、酷薄にそう告げて。

 微笑を湛えたまま、きっぱりと――言った。


「わたしとキサラがいなければ、魔軍四将の一人すら満足に倒せないような学園では、意味がないんだよ。だからわたしたちは、力を貸さない。すべてはこの学園が、この世界が――レベルアップするために」

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