03 死闘! VSヴェルゴーシュ
ルミーユ学園の生徒たちの実力は、かなりのものだった。
迫り来る魔物たちを、ちぎっては投げ、ちぎっては投げ。
数の上では圧倒的に劣っているっていうのに……互角以上の戦いを繰り広げていた。
もちろん、優勢な理由としては……自分で言うのもなんだけど、私の存在が大きいとは思うけど。
「『愛してる』と彼女は言った。『哀してる』と彼は答えた。零した涙は、微熱の憂い。溢れた心は、灼熱の炎。涙と炎の協奏曲――『嫉妬の女王』!」
オルタナギアの魔法を凌駕する中二魔法を駆使して、私は雑魚敵たちを一掃していく。
カンナさんやキサラさんがいれば、さらに戦力としては強固なものになっていたと思うんだけど……運の悪いことに、二人が不在のところを襲われている。
だけど、このまま拮抗状態を続けていれば。
いずれ先生たちが駆けつけて、挟み撃ちの形にすることができるはず。
それまでは私たちだけで――持ちこたえてみせる!
「――固まれ」
――――ゴトン。
私の周囲にいた生徒たちが、突如としてその動きを止めたかと思うと、そのまま地面に倒れ伏した。
その身体は……完全に石化している。
「ああ……うぜぇ。うぜぇ、うぜぇ、うぜぇ!!」
目の前の男が苛立たしげに、力いっぱいに足踏みをする。
すると大地が大きく揺れて、ビシッと――巨大な亀裂が走った。
私はたたらを踏みながら、キッとその男を睨みつける。
「地軍大将ヴェルゴーシュ……っ!」
「その目を今すぐやめろ、アリスぅ!!」
がなるようにして、この軍勢の大将・ヴェルゴーシュは叫んだ。
「さすがだよ……ああ、さすがだ。俺様のかわいいグランゴーレムをぶっ倒したってだけのことはある。俺様のかわいい、グランゴーレムをなぁ!!」
血走った目のヴェルゴーシュに、私は思わず身震いする。
「魔王様が直々に遣わした俺様のかわいい部下を、てめぇは容易くぶっ殺しやがった。おかげで地軍大将たる俺様の顔には、見事に泥が塗られたってわけよ」
「……それで、汚名挽回に来たってこと?」
「いいや――んなこたぁ、どうだっていいんだよ!!」
再びの、ヴェルゴーシュの咆哮。
「俺様は泥にまみれようと、一向にかまわねぇ。最後に笑うのは俺様だって、信じてるからなぁ! ――だが! 死んだグランゴーレムの弔いは、してやらねぇとなぁ!! なんたってあいつは、俺様のかわいい部下だったんだからよぉ!!」
「グランゴーレムの、弔い……?」
部下の敵討ちのためだけに、わざわざ敵の本拠地まで、大軍勢を率いてきたっていうの?
なんて直情的な奴なんだ。
だけど案外――そういう感情的なタイプの方が、敵としては恐ろしいのかもしれない。
「アリス、避けてなの!」
その言葉に、私はパッと身を逸らした。
私のそばを通過して――一本の矢が、ヴェルゴーシュの胸元へと突き刺さる!
「あん? なんだ、これ?」
けれど……ヴェルゴーシュはなんでもないように、胸に突き刺さった矢を抜き去った。
「き、効いてないの……?」
ヴェルゴーシュと相対しながら、声を震わせるのは――ユピ。
『ピルピッドユピ』をかまえた姿勢のまま、呆然と立ち尽くしている。
「ユピさん! ボーッとしてる場合じゃ、ありませんよ!! ――『火炎滅波』!」
「喰らえぇぇぇぇ! 『ハンマーダンパー』!!」
チェリルの放った『火炎滅波』が、ヴェルゴーシュの身体を包み込んだ。
さらに、炎に巻かれたその身に向かって、ミルミーがハンドアックスを振り下ろす。
『チェリミル』による、コンビネーション攻撃。
だけど――。
「鬱陶しいんだよ、雑魚どもがぁぁぁぁ!!」
ドンッと、ヴェルゴーシュが地面を踏みならしたかと思うと。
隆起した大地が、まるで生き物のようにうねりながら、チェリルとミルミーのことを弾き飛ばした!
「チェリル! ミルミー!!」
「大丈夫なの!?」
私とユピは慌てて、泥まみれになった二人のもとに駆け寄った。
全身にかすり傷を負ってはいるものの、二人ともまだ意識はある。
「この程度の実力で俺様に挑もうなんざ、随分と舐められたもんだなぁ」
ヴェルゴーシュがゆらりとその身を揺らしながら、こちらに近づいてくる。
「右手に勇気を、左手に涙を。握り締めた二つの心は、ひとつに重なり一閃の『正義』となる。瞬け、私の二律背反――『蝋細工の十字架』!!」
私は咄嗟に、呪文を唱えた。
それを合図にして、現れた十字架が――ヴェルゴーシュの身体を拘束する。
…………が。
「この程度じゃあ――効かねぇっつってんだろうがぁ!!」
ブチブチブチッ!
手足を縛り付けていた鎖が、強引に引きちぎられる。
『蝋細工の十字架』が――破られた!?
「ア、アリスさんの魔法が!?」
「そ、そんな……こんなの、勝てっこないよ!」
地べたに座り込んだまま、チェリルとミルミーが悲鳴を上げる。
「まだ諦めるには早いの!」
――その言葉と同時に。
ユピがヴェルゴーシュ目掛けて駆け出した!
「ユピ!」
ぐんぐんと加速していくユピ。
その速度は、普段の彼女の走るスピードを超越している。
そしてその瞳は――血のように真っ赤な色に、変化していた。
あれは……間違いない。グランゴーレム戦で見せたのと同じ。
ヴァンパイアとしての力を解放した――ユピの姿だ。
「さぁ! 噛んじゃうから、覚悟するの!!」
「あん? てめぇ、ひょっとして――ヴァンパイアなのか?」
ひゅっと風を切る、ユピの拳。
ヴェルゴーシュはそれを避けつつ、面白そうに顔を歪めた。
「……ヴァンパイアの生き残り。あぁ、つまりてめぇが――あの裏切り者の、娘ってことかぁ!」
「――――!? ユピのお父さんを、知ってるの!?」
「当たり前だろうが、アリスぅ! なんたって、こいつの親父は俺様と同じ――」
「……!! お喋りはぁ、そこまでなのぉぉぉぉぉ!!」
一瞬の隙。
それを突いたユピは、ヴェルゴーシュの腕にしがみついたかと思うと――牙のように変化した歯を、思いっきり突き立てた!
「このまま血を吸い尽くしてやるの! さぁ、覚悟――!?」
「…………茶番は、そこまでだ」
ビキビキビキ、と。
軋む音を鳴らしながら、ヴェルゴーシュの腕が――岩石のように変化した。
その硬度に耐えかねたのか、ユピはヴェルゴーシュの腕から口を放す。
そこへ繰り出される、ヴェルゴーシュの回し蹴り。
「きゃっ……!?」
「ユピ!!」
小さな悲鳴を残して、ユピは蹴り飛ばされる。
そして――地に膝をついたユピ・チェリル・ミルミーのことを、まっすぐに見据えたヴェルゴーシュは。
「――固まれ」
呟いた。
瞬間――ゴトンと、その場に倒れ伏す三人。
「ユピ! チェリル! ミルミー!」
「無駄だよ。そいつらはたった今、石化した」
ヴェルゴーシュが酷薄に告げる。
言い知れぬ怒りに身を震わせながら……私はグッと歯噛みした。
「絶対に……あなただけは、許さない!」
「上等じゃねぇか……来いよ、アリス」
私は禁断教典『シュバルツアリス』に書き綴った、最後の一節を思い返す。
それは、グランゴーレムとの戦闘時に血文字で追記した、最も新しい魔法。
――『私と天使の夜想曲』。
私が敵と認識したものだけを、白光によって消失させ。
さらに私が味方と認識したものについては、その体力を全快させるという、チート極まりない魔法。
これを発動させれば、いくら魔軍四将の一人とはいえ、ひとたまりもないはず。
私は両手をクロスさせ、ギリッとヴェルゴーシュのことを睨みつけた。
それをどこか楽しそうに眺めながら。
ヴェルゴーシュは吼えるように、言った。
「いいぜぇ……それじゃあ俺様も、『真の姿』ってやつを――見せてやるよぉ!!」
大地が、大きく揺れる。
そしてヴェルゴーシュの身体は――どす黒い霧に、包み込まれた。




