表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
中二病を極めた私、異世界魔法を凌駕する  作者: 氷高悠
第2章 第6話「魔族の将と相対した私、本気で怒る」
74/80

02 大地の魔族の進軍

「きゃああああ!? 魔物、魔物の群れよぉぉ!!」

「な、なんで学園の敷地内に魔族が!?」


 私の叫びを聞きつけた生徒たちが、寮の窓から外を眺めて、口々に悲鳴を上げる。


 そりゃあそうだよね。

 絶望的な気持ちにもなるよ。

 絶対に安全な場所だったはずのルミーユ学園の敷地内に、大量の魔族が進軍してきたんだもの。


 だけど……悲鳴を上げている場合じゃないんだよ、みんな。


「アリス!」


 汗だくな私に駆け寄ってきたのは、ユピ。

 その手には弓使いである彼女の武器――『ピルピッドユピ』が握られている。


「どうしたの? 一体、外で何があったの!?」

「魔軍四将の一人って奴が……結界を破ったんだよ」

「魔軍四将……!?」


 ユピがぴくりと、肩を震わせる。


「魔軍四将といえば、魔王グランロッサ直属の配下! それぞれが魔族の軍勢を率いているという、最強の魔物ではありませんか!!」

「そんなヤバい奴が攻めてきたっていうの、チェリル?」

「アリスさんの言葉が本当だとすれば……そうですわね」


 言葉を交わしつつ近づいてくるのは、チェリルとミルミー。

 それぞれが魔法の杖『エッセンドロス』と、ハンドアックス『ハンマーダンパー』を装備している。


 私は汗を拭いながら、三人に向かって言う。


「魔軍四将の一人で、地軍大将だって言ってた。それでゴーレムとかゴブリンとか、地属性の魔族が攻めてきてるんだと思う」

「どうやって結界を破ったっていうんですの?」

「あいつの目を見ると、石化させられちゃうんだよ。それで結界術士の人が、石化させられて……」

「……なんてことですの」


 チェリルが深々とため息をついて、魔法の杖『エッセンドロス』に額を当てた。


「気落ちしてる場合じゃないよ、チェリル」


 ハンドアックス『ハンマーダンパー』を肩に担ぐと、ミルミーはいつになく真剣な顔をして言った。


「先に攻め込まれたのは、寮の方。先生たちが学園側から救援に来るにしても、時間が掛かる……自衛手段を取らないと、やられちゃうよ?」

「ええ。分かってます……分かってますとも」


 そうして、二人は――『チェリミル』は。

 顔を上げて、寮を飛び出そうとする。


「待って、ダメだよ! 戦うんじゃなくって、みんなで逃げないと!!」

「アリスさん、止めないでください。わたくしはいずれ、魔王グランロッサを倒す存在……魔軍四将ごときに怯えて逃げ出すようでは、お話になりませんわ」

「この寮にいるみんなも、同じ気持ちだと思うよ? アリスちゃん」


 ミルミーの言葉に、私は周囲をぐるりと見回す。


 それぞれの武器をかまえた、ルミーユ学園の生徒たち。

 震えている者。闘志に燃えている者。

 色んな人たちが、いるけれど……。


 逃げだそうとしている人だけは、一人もいなかった。


「みんな……」


 ドンッ! ドンッ!!


 施錠されている扉が、外から打ち鳴らされる。

 魔物が扉を破ろうと、ぶつかってきているらしい。

 このままだと、ぶち破られるのも時間の問題だ。


「アリス。ひょっとしてユピたちに知らせにきたのって、ユピたちを逃がすためなの?」


 ユピが八重歯を覗かせながら、にっこりと笑った。

 その言葉に、私は――頷くことしかできない。


「みんなを護りながら戦うことは、難しいから。まずはみんなを逃がしてから、私が戦おうって……そう思ったんだ」

「おばかさんなの、アリスは」


 そう言って。

 ユピはふわっと――私のことを、抱きすくめた。

 小さな身体とは不釣り合いに大きな胸が、私の顔を包み込む。


「アリスは全部、一人で抱えすぎなの。ユピたちとアリスじゃ、実力差は大きいけどね……ユピたちだって、世界を救うためにルミーユ学園に入学した、戦士なの。どこまでできるかは分からないけど――誰か一人を残して逃げ出すなんてこと、できないの」


 そう言うユピの身体は、小刻みに震えていた。


 もう。ユピったら。

 ゴーレム討伐訓練に出ることすら、嫌がってたくせに。

 誰よりも恐がりなくせに。


 ……ありがとう。私の心を、支えてくれて。


「――行こう、みんな! 絶対にルミーユ学園寮を、護りきってみせよう!!」


 私がそう叫ぶのと、ほぼ同時に。

 学園寮の扉が、ゴブリンによってぶち破られた。


「『火炎滅波(ファイアブラスト)』!」


 直後――チェリルが『エッセンドロス』を振るい、強烈な熱波を繰り出した!

 寮内に飛び込んできたゴブリン数匹が、一斉に炎に巻かれて消失する。


「いっくよぉー! 『ハンマーダンパー』!!」


 それに続いてミルミーが、横薙ぎに斧を振るう。

 扉のあたりに控えていたゴーレムたちが、真っ二つに切り裂かれる!!


「行きますわよ、アリスさん! みんな!!」


 ありがとう、チェリル。ミルミー。先陣を切ってくれて。

 私も負けちゃ、いられないね。


 心の中で自分を鼓舞すると、私は寮の外へと飛び出した!


 クロスさせた両手を、まっすぐに突き出す。

 光のサークルが足元に現れて、一陣の風が吹き上がる。

 そして私は、頭の中で禁断教典『シュバルツアリス』をめくっていく。


「――汝は言った。『稲妻とは怒りではなく、衝動に吼えているのだ』と。我は知った。稲妻の答え、空との約束。そして一筋の、光の心。それは耳鳴りがするほどの、巨大な愛の咆哮である――『雷神は戸惑い(ホワイトライン・)がちに笑う(イエローエコー)』!!」


 空に走った一閃の稲妻が、槍のような形状に変化し――魔物の群れの中心あたりへと突き刺さった。

 その激しい勢いによって、大地がひび割れる。


 そしてそのまま、辺り一帯に控えた魔物たちへと……凄まじい威力をもった電流が、迸った。

 悲鳴にも似た叫びを上げて、魔物たちが一斉に消滅していく。


「まだ来るよ! みんな、油断しないで!!」



 こうして、私たちルミーユ学園の生徒たちと。

 地軍大将ヴェルゴーシュの率いる軍勢との戦いの火蓋は――切って落とされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ