05 気持ちはすれ違って……
談笑に耽りつつ、私とユピはルミーユ学園女子寮へと帰ってきた。
太陽はすっかり西の空に沈もうとしていて。
空は茜色に、鮮やかに染まっている。
「……と。このまま一緒に帰ったら、まずいよね」
「そうだったの。ユピとアリスは、別行動だったことにしなくちゃなの」
それじゃあということで、まずはユピから部屋に戻ることになった。
寮の玄関扉を開けて、ユピが建物の中へ入っていく。
私はひとまず、玄関前で時間を潰すことにする。
どれくらい間を置いて戻ればいいかな?
……リーリカってば絶対、私たちがこんなことをしてるなんて思ってないよね。
なんだかそれがおかしくって、私は思わず「あははっ」と小さく声を出して笑った。
「――――何してるの、アリス?」
そんな私に向かって。
まるで氷のように冷たい声色で……誰かが言った。
弾かれるようにして、私は声の主の方へと向き直る。
果たして、そこにいたのは――リーリカだった。
「リーリカ? どうしてこんなところに?」
「キサラさんを撒いてたら、たまたま……ね。アリスこそ、何してるの? 部屋に戻らないの?」
「あ、うん。今、戻ろうとしてたところ」
そう言って、私はリーリカのそばに駆け寄る。
相変わらず、整った顔立ちをしてるよね。リーリカって。
だけどなんだか、今日は元気がないような……。
「ユピは、まだ遅くなるのかな?」
リーリカがふいに、そんなことを呟いた。
おっと。私とユピは、今日は別行動をしていた設定だからね。
ボロが出ないように、細心の注意を払ってと……。
「どうだろうね? 今日は先生のところで一日過ごしてたから、ユピのことは全然分かんないや。でも、もう遅いし、ひょっとしたら帰ってきてたり――」
「……どうして、嘘をつくの?」
ざぁっと。
勢いよく吹きつけた風が、女子寮の周りに植えられた樹木の葉を、大きく振るわせた。
リーリカのサイドテールも、風に揺られて踊っている。
まるで小さな、炎みたいに。
「ユピのことを知らないなんて、嘘でしょ。本当は今日、二人で一緒にいたんだ」
「そ、そんなことないよ! 私は昨日言ったとおり、密命を帯びて……」
「――『ユピとアリスは、別行動だったことにしなくちゃなの』」
リーリカが、ユピの声を真似しながら、言った。
それは間違いなく……ついさっき、私とユピが交わした会話の一節。
「聞いてたの、リーリカ?」
「言ったでしょ。キサラさんを撒いてたら、たまたま通りかかったって。通りかかって……二人が口裏を合わせてるところを、見ちゃったんだ」
グッと唇を噛み締めて。
リーリカは潤んだ瞳で、私のことを見てくる。
「どうして、あたしだけ除け者にして、二人で出掛けたりなんかしたの? 嘘をついたりしたの!?」
叫ぶように声を上げるリーリカ。
その声は心なしか、震えていて。
「ち、違うんだよリーリカ! 別に除け者になんて、してないんだよ!!」
「けど、二人で出掛けたのは本当でしょ? 除け者にしようとしたんじゃなかったら、どうしてそんなことしたのよ!」
「そ、それは……」
リーリカの誕生日プレゼントを、こっそり買ってたから。
そう言ってしまうのは簡単だけど――つい一瞬、私は躊躇してしまった。
みんなで力を合わせて、ここまでサプライズで準備を進めてきてたから……バラすことがはばかられたんだと思う。
それが、いけなかった。
「やっぱり言えないんじゃない……私には話せないことを、二人でしてたんじゃない!」
「そ、そうじゃないんだよリーリカ。私たちは、ただ――」
「もういいよ!!」
両手で耳を塞いで、ぶんぶんと頭を振ると。
リーリカは私に背を向けて、走り去っていく。
「リーリカ!」
私は慌てて、彼女の後を追い掛ける。
こっちの方向は、ルミーユ学園寮の門扉のある方。
ひょっとしたらリーリカは、自暴自棄になって外に飛び出すつもりなのかもしれない。
それはまずい。
いつかキサラさんが門を飛び越えて外に出たときもそうだったけど……オルタナギアの魔物たちは、夜になるに連れて活発に行動するようになる。
空は茜色から、黒色へと変わってきている。
こんな時間に門の外に出たら……危険すぎるよ。
お願い、リーリカ。
早まった真似をしないで……私の話を、聞いて。




