04 プレゼントを買いに
翌日。
学校が休みの日だっていうのに、私はいつもと変わらない時間に起床した。
なんたって今日は、明日に控えたリーリカの誕生日に向けて、準備をしなくっちゃだからね。
私服という名の、日本のセーラー服に着替えて、私はぐぐっと伸びをした。
そして、部屋の端っこに鎮座している棺桶の蓋を、パカッと開けると。
「ほら、ユピ。起きて」
「うーん……あと二十四時間なのー……」
「そんなに寝てたら、明日になっちゃうでしょ。ほら、起きてってば」
「眠いのー……血を吸わないと、目が覚めないのー……」
もぉ。
相変わらず朝に弱いなぁ、ユピは。さすがはヴァンパイアというか、なんというか。
だけど、このままじゃ埒があかない。
私は仕方なく、自分の人差し指をユピの口の中に入れた。
最初はぺろぺろと、確認するように指先を舐めてきていたユピだけど。
それが私の指だと把握すると――カプッと、噛みついてきた。
「……あぅ!」
「……んっ。おいひいの……頭がすっきり……冴えてくゆのぉ……」
「ちょっ、ユピ! 吸い過ぎだって……あん!」
そうしてひとしきり、私の血を堪能したのち。
ぱっちりと目を開いて、ユピは棺桶の中で上体を起こした。
「目が覚めたの。おはようなの、アリス」
「おはよう、ユピ。ほら、早く準備して出掛けないと……」
ユピに声を掛けつつ、私はちらっとリーリカのベッドを見やる。
リーリカは……よかった、まだ寝てるみたい。
「分かってるの。すぐ支度するから、待っててなの」
いそいそと服を着替えて、長い銀髪をいつものツインテールにセットして。
ユピは棺桶からひらりと、カーペットの上に着地した。
「お待たせなの、アリス」
「よーし、それじゃあ出掛けるよユ――」
「どこ行くの、二人とも?」
そうして、まさに私たち二人が部屋を出ようとした瞬間。
もぞもぞとベッドの上で身体を起こしたかと思うと、リーリカがぼんやりとした目でこちらを見てきた。
うわぁ……最悪なタイミング。
「今日って、休みの日だよね? なんで二人とも、こんなに朝早いの? ユピなんか、普段ですら寝起き悪いのに」
「そ、それはねリーリカ……」
「そもそも、どうして二人で出掛けようとしてるの? あたしだけ、どうして置いていこうとしてるわけ?」
「ち、違うのリーリカ! アリスは例の密命なの。ユピは、その……ちょっとした用事があって。アリスとユピは、別行動なの」
ユピが取り繕おうと、しどろもどろに言うけれど。
さすがにそれは、苦しい気がする……。
案の定、怪訝な顔でこちらをじっと見ているリーリカ。
ど、どうしたらいいんだろう……?
「――にゃっはははははははっ!!」
猫みたいに甲高い声とともに……ドアが蹴破られる。
そしてくるんと、空中で何者かが一回転したかと思うと。
シュタッと、これまた猫みたいにリーリカの目の前に着地した。
「呼ばれて飛び出てキサラちゃん! ただいま参上だぜ!!」
くるぶし辺りまであるロングスカートに、白い羽織みたいなトップスを合わせた格好で――学園一の剣士・キサラさんは豪快に笑った。
正直、登場シーンのセリフの意味は、よく分かんなかったけど。
「ってなわけで、リーリカ? 今日は一日、うちがあんたに付き合ってやるよ!」
「い、意味が分かんないです! っていうか、いきなり部屋に入ってくるの、やめてください!!」
リーリカがぼふっと、枕をキサラさんの顔に押しつける。
けれどキサラさんは、すぐにそれをすり抜けて。
「なんだよ、パジャマ姿を見られるのが恥ずかしいってか? 臨海合宿で一緒に枕を投げあった仲じゃん。そんなの気にする必要ないって。これからもっと……親密な関係に、なっていくわけだしさ?」
「なりません! 『フレンドライン』を抜けるつもりはないし、キサラさんとそういう関係になる予定もありませんから!!」
ぎゃーぎゃーと、いつもみたいな掛け合いをはじめたリーリカとキサラさん。
それをぼんやりと眺めていた私の裾を、くいくいっとユピが引っ張る。
「ほら、アリス。今がチャンスなの。キサラさんが足止めしてくれてる隙に」
「え? あ、ああ……そうだね」
いつもは迷惑ばっかり掛けられてるキサラさんだけど。
今日のところは感謝します。ありがとうございます、キサラさん。
――そんなこんなで。
私とユピは、揃って商店街を訪れた。
昨日のうちに、役割分担は終えている。
飾り付けの担当が、チェリルとミルミー。
プレゼント調達の担当が、私とユピ。
キサラさんは……いざっていうとき、リーリカの気を逸らす係。
さっそくキサラさんには活躍してもらったわけなので、私たちは私たちの担当をこなさなくっちゃね。
「よーっし! ユピ、何を買うのがいいかな?」
「リーリカの喜びそうなもの……うーん、なんだろうなの」
そうして私たちは、商店街をぐるっと見て回る。
あれじゃない、これじゃないと、リーリカが最高に喜んでくれそうなプレゼントを吟味しながら。
買い物の途中で、ユピがニコニコしながら言った。
「みんなで誰かの誕生日をお祝いするのって、すっごく楽しいの!」
「そうだね。誰かを喜ばせるために、みんなで知恵を絞るのって、なんだか新鮮で面白いよね」
ユピの言葉につられて、私まで頬が緩んでしまう。
「ユピの誕生日のときも、絶対お祝いしてあげるからね」
「じゃあアリスのときは、ユピとリーリカで、サプライズしてあげるの。絶対にびっくりさせちゃうの!」
お互いにそんなことを言って、笑いあう。
準備をするだけでこんなに楽しいんだ。明日のパーティー本番は、きっともっと盛り上がるだろう。
ああ……明日が楽しみだな。
リーリカの喜ぶ姿を思い浮かべながら、私たちはプレゼントを調達した。




