02 みんなでサプライズ
「アリス、一緒に帰ろっ」
放課後、私が帰りの支度をしていると。
いつもどおりリーリカが、後ろからギュッと抱きつきつつ誘ってきた。
「ああ、アリスってば、今日もいいにおい……」
「ちょっ、ちょっとリーリカ! くすぐったいってば」
「いいじゃんー。女の子同士なんだし?」
「そういう問題じゃないってばぁ!」
首筋に顔を近づけてくるリーリカを、強引に引き剥がして。
私はカバンを両手で持つと、ぺこりと頭を下げた。
「ごめん、リーリカ! 今日は先に帰ってて」
「え、どうして?」
私の返事が思いもよらないものだったんだろう、リーリカは目を丸くする。
う……そんな顔で見られると、ちょっと心苦しいんだけど……。
私は勇気を振り絞って、精一杯の嘘をつく。
「じ、実は今日、先生から呼び出されててね? 私の魔法を、ちょっと見せてほしいんだとか……」
「そうなんだ。じゃあ、あたしも付き合うよ」
「い、いや! なんか私一人じゃないとダメなんだってさ!! い、一体どういう用事なんだろうねぇ、あははー」
「……ふーん」
「あ、あははー……」
私はひくひくする口元を必死につり上げながら、なんでもないように笑ってみせる。
そんな私を、じっと見てくるリーリカ。
な、なんでそんなに見つめてくるかな?
ひょっとして、怪しまれたりしちゃってる?
「……ま、いいや」
内心だらだらと冷や汗をかいていると、リーリカはふっと私から視線を外した。
そしてカバンを持ち上げると、私に背を向けて。
「じゃあ先に帰ってるね。夕飯は一緒に食べるんだからね? 約束だよ!」
「う、うん! もちろんだよ!!」
そうして私は、教室を後にするリーリカに、ひらひらと手を振る。
あ、危なかったぁ……。
あやうくせっかくの計画が、台無しになっちゃうところだったよ。
「……で? 一体なんの御用ですの?」
ベッドの上に座ったチェリルが、じと目でこちらを見てくる。
ここはチェリルとミルミーの寮室。
リーリカと別れてすぐ、私はこっそり寮へと戻ると、リーリカに見つからないよう細心の注意を払いながら、ここまでやって来たのだ。
「ユピも、なんの用事か聞いてないの。どうしたの、アリス?」
「ボクも気になるー。リーリカちゃんに秘密で集まるなんて、なんか珍しいねー」
ユピとミルミーが、口々に声を上げた。
私・ユピ・チェリル・ミルミー。
リーリカを除くおなじみのメンバーが、この部屋には集まっている。
みんなを集めたのは他でもない……私だ。
「実はね。みんなにお願いしたいことがあって、集まってもらったんだ」
「お願いしたいこと? 一体なんですの?」
「リーリカへの、サプライズだよ!」
「サプライズなの?」
みんなが一斉に首をかしげる。
私はベッドから立ち上がると、ぐるりとみんなを見回した。
そして、人差し指をピンと立てて。
「うん。リーリカにサプライズで、企画してあげたいんだ……明後日の、リーリカの誕生日のお祝いを!」
そう。
なんと明後日はリーリカの、十六歳の誕生日なんだ!
「そっか、なの!」
ユピもキラキラ目を輝かせながら、立ち上がる。
「そういうことなら、ユピは協力を惜しまないの! リーリカにはルミーユ学園に入学してからずっと、仲良くしてもらってるの……絶対、喜んでもらいたいの!!」
「ユピ、ありがとう!」
さすがは『フレンドライン』の仲間。
快くOKしてくれたことに感謝しつつ、私とユピはギュッと握手を交わしあう。
「……なんでわたくしが、リーリカさんのお祝いなんて」
その一方で。
普段からリーリカと口げんかばっかりしているチェリルは、腕を組みながら渋い顔を浮かべた。
そんなチェリルの肩を、ぽんぽんとミルミーが叩く。
「まぁまぁ。なんだかんだ言いつつ、チェリルはいつもリーリカちゃんと、仲良くしてるでしょー?」
「な、仲良くなんてしてませんわ! いっつもわたくしに突っかかってきて、迷惑しているくらいですもの!!」
顔を真っ赤にして抗議の声を上げるチェリル。
そんな彼女を微笑ましそうな目で見ながら、ミルミーはにっこり笑う。
「というわけで。ボクたちも、リーリカちゃんの誕生日祝い、大賛成だよ! 協力できることは、なんでもやるからね!!」
「ちょっ……!? わ、わたくしはまだ、賛成だなんて言ってませんわ!」
「じゃあ、チェリルは反対するの?」
「い、いえ……まぁ、相手がどんな方だったとしても? 誕生日というのは、おめでたい日ですし? それをお祝いするということでしたら、わたくしもやぶさかではありませんけれど?」
「チェリルは素直じゃないねー」
頬を赤らめながらツンとした態度を取るチェリルに、ミルミーが苦笑する。
チェリルもミルミーも……本当にありがとう。
みんなが手伝ってくれるなら、きっと最高の誕生日パーティーができると思う。
ううん。絶対に最高のパーティーに、してみせる!
「じゃあこれから、私の考えた企画を説明す――」
「ちょっと待ったぁ!!」
私の言葉を遮るように、そんな声が響いたかと思うと。
――ガチャン! と。
チェリルたちの部屋の窓をぶち破って……キサラさんがすたっと、カーペットの上に着地した。
「話は聞かせてもらったぜ?」
「……どこから聞いてたんですか?」
「『一体なんの御用ですの?』って、チェリルが聞いたあたりから」
「それって、最初も最初なの……」
ユピが呆れたようにぼやくけど、キサラさんはどこ吹く風。
なんだかいたずらを思いついた子どもみたいに、楽しげに口元を丸める。
「知ってしまった以上、うちにも協力させてもらうよ? なんたってかわいいリーリカの、誕生日パーティーなんだし。それに? うちのけなげな努力を目にしたら、感動したリーリカが『あたしとパーティを組んでください!』……なーんて、言ってくるかもだし」
言ってこないですよ、多分。
っていうか、そんな打算で誕生日をお祝いするの、やめてくださいって。
まったく――相変わらず破天荒な先輩だなぁ。キサラさんは。




