06 魔王の影
サンドゴーレムを倒して、ようやく人心地をつく私。
そのそばには、超然とした態度でカンナさんが立ち尽くしている。
そんなカンナさんに、私は寒気を覚える。
サンドゴーレムと戦っているとき、カンナさんは一切手を貸してくれなかった。
私が少しでも失敗すれば、ルミーユ学園の先生も生徒も、全滅していたかもしれないっていうのに。
一体――何を考えているんですか、カンナさん。
「カンナさ……」
「それで? 君は一体、何者なんだい?」
私の質問を遮るように。
カンナさんは腕組みをしたまま、茂みに向かって言った。
すると――ガサガサッと。
茂みが揺れて、中から一人の男が現れる。
茶色いもじゃもじゃの髪に、乱雑に生えたひげ。
それはサンドゴーレムを呼び出したと思われる、海岸で会った男。
「てめぇがサンドゴーレムを倒したのか?」
「いや。わたしは何もしてないよ」
「じゃあアリス……またてめぇなのか?」
「あ……えっと」
私が言いよどんだのを肯定と受け取ったらしい。
男は鋭い目つきで私を睨みながら、大きな舌打ちをした。
「やっぱりてめぇは、俺様たちの障害になる存在だな。生かしておけば、いずれ魔王様の邪魔になるかもしれねぇ」
魔王様。
そういえばこの男は、さっきもそんなことを言っていた。
私はギュッと唇をつぐみながら、男に問いかける。
「ひょっとして、あなた――魔族なの?」
「ああ、そうさ。いずれてめぇら人類を、皆殺しにする存在だ」
大きく両腕を開いて、男は威嚇するように声を張る。
「覚えておけ、アリス。俺の名はヴェルゴーシュ。近い未来、俺様はてめぇを――いや、ルミーユ学園の全員を、皆殺しにする。魔王様に仇なす連中は、みんなまとめて滅ぼしてやるよ」
私はギュッと、両手に力を籠める。
今ここで、ヴェルゴーシュを倒さなければ。
この男が言っているのは、はったりでもなんでもない。
先ほどの行動を見ていれば分かる……この男は本気で、私も、ルミーユ学園のみんなも、始末するつもりなんだ。
だったら――この場で。ケリをつけないと!
「やめておけ、アリス」
臨戦態勢を取る私の手首を、キュッと握って。
カンナさんがゆっくりと、横に首を振った。
「なんで邪魔するんですか、カンナさん!? ここでこいつを倒さなければ、ルミーユ学園が危険に晒されるんですよ!?」
「魔力の使いすぎだ。これ以上連続で魔法を行使するのは、勧められない」
「……なぁに仲間割れしてやがるんだよ?」
私とカンナさんの言い争いを見て、ヴェルゴーシュはいやらしい笑みを浮かべた。
「まぁいいさ。俺様は態勢を整えて、近いうちにルミーユ学園を攻撃する。そのときは、せいぜいあがくといいぜ、アリス? そして泣いて命乞いをしながら――死ね」
吐き捨てるように、そんな言葉を残して。
ヴェルゴーシュはマントをひるがえし、その場から煙のように姿を消した。
あとに残されたのは――私と、カンナさんだけ。
「ヴェルゴーシュ、か。さて、どんな方法でルミーユ学園を滅ぼすつもりなのか……お手並み拝見といこうじゃないか」
そんなことを呟いて。
カンナさんは踵を返し、宿の中へと入っていこうとする。
そんなカンナさんの手を、私は思わず掴んだ。
「……なんだい? アリス」
「……私には、カンナさんが何を考えているのか、分かりません」
サンドゴーレム襲撃のときは、何ひとつ手を貸してはくれず。
ヴェルゴーシュに挑もうとしたときには、私を制してきた。
ルミーユ学園がどうなってもいい――なんて考えじゃないとは思う。
だってカンナさんは、すべてのオルタナギアの人間がレベルアップすることを望んでいるんだから。
すべては――魔王グランロッサを倒すために。
だけど、今日の行動は……。
「いずれ分かるときがくるよ、アリス。いや――分かってもらわなければ、困ると言った方がいいのかな」
カンナさんはするりと私の手をすり抜けて、宿の中へと姿を消していった。
ぽつんと独りぼっちになると――夜の海辺は、思いのほか寒いことに気付く。
魔王の配下、ヴェルゴーシュの出現。
なんだか大事件が起きそうな予感がして……私は思わず、ぶるりと肩を震わせた。




