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中二病を極めた私、異世界魔法を凌駕する  作者: 氷高悠
第2章 第4話「夜のお泊まりを満喫する私、謎の男と出会う」
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05 決戦! サンドゴーレム

「あれは……サンドゴーレムだね」


 カンナさんが呟いて、私の真横に立つ。

 砂で形成された巨大なゴーレム――サンドゴーレム。


 その怪物はまっすぐに、私たちのいる宿の方へ向かって駆けてきている。

 このまま行けば、数分後には宿まで到達してしまうだろう。


「あの怪物の狙いは、おそらくアリス。君だ」

「私ですか? ど、どうして……?」

「先ほどの男が言っていたじゃないか。君を殺す……と」

「じゃ、じゃあ。あの怪物は、さっきの男が呼び出したって、言うんですか!?」

「タイミングを考えて、それ以外の可能性が考えられるのか?」


 動揺して声が上擦る私とは正反対に、落ち着き払った態度でカンナさんは言う。


 確かに、カンナさんの言うとおりだ。


 私を呼び寄せたという、謎の男。

 彼はグランゴーレムを倒した相手を探し出し、命を奪おうと企んでいた。

 そしてその相手――つまり私を見つけた途端、サンドゴーレムが出現した。


 あの男がサンドゴーレムを呼び出して、私の命を狙っている。そう考えた方が、すべてのつじつまが合う。


「思考に時間を掛けている暇はないよ、アリス」


 カンナさんの言葉に、ハッとする。


 そうだ――あの男が何者なのかとか、何が狙いなのかとか、そんなことを考えている時間はない。

 そんなことをしている間に、たちまちサンドゴーレムはここに到達して、その勢いでもって宿ごと呑み込んでしまうだろう。


 中にいる……すべてのルミーユ学園の生徒を巻き添えにして。


「止めなくっちゃ……あの怪物を!」


 私は部屋に置いてきてしまった禁断教典『シュバルツアリス』のページを、頭の中でぱらぱらとめくっていく。

 この状況を終わらせることのできる魔法。

 オルタナギアにはない、私だけの中二病。


「揺れる心は万華鏡。沈んだ魚のアクアリウム。水がなければ生きれない。水がなければ生きれない。乾きひび割れたこの地へと、今こそ豊穣の雨よ降れ――『神々の(ヴァルキリー)落涙(・スコール)』」


 呪文の詠唱が終わると、先ほどまで晴れ渡っていた空が、一気に雲で覆われる。

 そして、黒々とした雲より――激しい雨が降りはじめる。


 この雨は、魔力を帯びた『神々の涙』。

 どう見ても土属性なサンドゴーレムに対して、水属性であるこの魔法は、相当な効果があるはず。

 さぁ……一気に溶けきっちゃえ!


「グオオオオオオオオオオッ!!」


 私の予想通り、サンドゴーレムは『神々の(ヴァルキリー)落涙(・スコール)』の直撃を受けて、慟哭のごとき雄叫びを上げる。


 けれど――サンドゴーレムは止まらない。

 表面をどろどろに溶かしながら。

 身体をボロボロと崩れ落としながら。


 それでもこちらへ向かって、一直線に猛進を続ける。


「うそ……あの攻撃を受けて、止まらない!?」

「なかなか肝の据わったモンスターだね。自分が死ぬことを、まるで恐れていない。いや……恐れるだけの知性がないのか」


 カンナさんが隣で腕組みをしたまま、まるで他人事のように呟く。

 私はそんなカンナさんの態度に、違和感を覚える。


「カンナさん! カンナさんも一緒に戦ってください!!」

「どうして?」


 どうして……って。


「このままじゃ、宿にいるみんなが危険だからに決まってるじゃないですか! 一刻も早く、あのモンスターを止めないと」

「それならアリス、君がもう一度魔法を使って食い止めればいい」

「それはもちろん、やります! やりますけど、カンナさんの手も貸してほしいって、言ってるんじゃないですか!!」


「不要だね」


 ばっさりと。

 カンナさんは私のお願いを切り捨てる。


「……っ! 分かりました、私がやります!!」


 カンナさんがどういうつもりなのか、分からないけど。

 そんなことを考えている余裕はない。


 サンドゴーレムが宿にぶち当たるまで、あと一分もないのだから。


「まずは動きを封じる!」


 私は両手をクロスさせる。

 周囲に現れるのは、光のサークル。

 吹き上がる風を全身に受けながら、私は呪文を唱える。


「右手に勇気を、左手に涙を。握り締めた二つの心は、ひとつに重なり一閃の『正義』となる。瞬け、私の二律背反(アンビバレント)――『蝋細工の十字架(シンクロクルセイド)』!!」


 魔法が発動すると同時に、サンドゴーレムの前方に十字架が出現する。

 そして、その身体を受け止めて――磔の状態にした。


 そこへ振り下ろされる、炎の鉄槌。

 サンドゴーレムの全身が燃え上がる!


 けれど……炎に呑まれながらも、サンドゴーレムは大きく身をよじらせている。


「まだ倒れないようだね。なかなかタフな怪物だ」

「でも、動きは封じました。次で――とどめです!」


 そして私は、再び両手をクロスさせ。

 光のサークルの中で、呪文を詠唱する。


「揺れる心は万華鏡。沈んだ魚のアクアリウム。水がなければ生きれない。水がなければ生きれない。乾きひび割れたこの地へと、今こそ豊穣の雨よ降れ――『神々の(ヴァルキリー)落涙(・スコール)』」


 再び繰り出したのは、天上から降り注ぐ水魔法。

 先ほどはこれで全身を融解させようとして、失敗した。


 だけど――今のサンドゴーレムは、超高熱の炎に身を焼かれている。

 そこに、大量の水を注いだなら……。


 ――――閃光。

 そして、爆発。


 激しい土煙が立ちのぼり、私は思わず目を伏せる。

 爆音の中に混じって聞こえる、サンドゴーレムの断末魔の声。


「なるほど。水蒸気爆発か」


 カンナさんが感心したように言う。


 そう。

 水が超高温の物質と接触すると、一気に気化されることによって、爆発を起こす。


蝋細工の十字架(シンクロクルセイド)』で動きを封じつつ、超高温の炎でその身を包み。

神々の(ヴァルキリー)落涙(・スコール)』で逃げ場がないほど、大量の水を降り注がせて。

 水蒸気爆発の発生する条件を、整えてやったってわけだ。


 土煙が晴れると――そこにサンドゴーレムの姿はなかった。

 どうやら先ほどの爆発で、木っ端微塵に吹き飛んだみたい。


「よかった……みんなを助けることができて」


 私は深くため息をついて。

 ぺたんと。その場に座り込んだのでした。

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