03 初めての枕投げ
私たちが息を潜めている間にも、窓ガラスがガタガタ揺れる音は、ますます大きくなっていく。
ど、どうしよう? 温泉も入っちゃって、みんな完全にオフモードなのに。
こんなところに男子が来たりなんかしたら……どんな顔したらいいんだろう?
人生初の夜這いイベントに、私は動揺を隠せない。
「あたしに任せて」
そう言って、リーリカはベッドの横に立てかけていた、『ルクシアブレード』に手を掛ける。
「ちょっ!? リーリカ、何するつもりなの!?」
「決まってるじゃない。不届きな男子は、あたしが成敗してやるから」
「成敗っていうか、本気で死んじゃうよねそれ!?」
「アリスのこんなあられもない姿を、見せるわけにはいかないじゃない。それならいっそのこと、ひと思いに……」
わー、ちょっと待って!
私は慌てて、リーリカの腕を掴む。
そりゃあ男子にパジャマ姿を見られるのは複雑だけど、それ以上に友人を犯罪者にさせるわけにはいかないって。
そうして、私とリーリカがドタバタやっていると。
――――ガシャンッ!!
窓ガラスがぶち破られた。
わお。なんて強引な男子。
私は恐怖心から、思わずギュッと目を瞑ってしまう。
そして、飛び込んできた男子は――。
「にゃっはははははははっ!!」
猫みたいに甲高い声で、高らかに笑った。
…………ん?
今の声、どう考えても女性のものだったような……。
ていうか、すっごい聞き覚えがあるような……。
私はおそるおそる、目を開ける。
「やっほー、みんな。キサラちゃんの、登場だぜ!」
「って、キサラさん!?」
風呂上がりだろうにネコ耳みたいな髪型を崩すことなく。
我らが困った先輩――キサラさんは、窓際でえっへんと胸を張っていた。
「何やってんですか、キサラさん!」
「そりゃあ決まってるじゃん。合宿の夜といえば、よ・ば・い☆」
「普通それ、男子が女子にやるやつなんじゃあ……」
「性別は関係なくね? 好きな相手がいれば、窓ガラスなんてぶった切りたくなるのが、人情ってもんさ」
いやいや。そんなの人情でもなんでもないですって。
相変わらずな俺様理論を展開しながら、キサラさんはベッドの隅に固まった、私たちの方に近づいてくる。
「やっほー、リーリカ」
「……何しに来たんですか。キサラさん」
「いやぁ。リーリカに会いたくってさ。来ちゃった☆」
「迷惑です! 帰ってください!!」
ぴしゃりと一喝するリーリカ。
だけどキサラさんはどこ吹く風で、あっけらかんと笑う。
「まぁ、嫌よ嫌よも好きのうち、ってやつさ」
「そういうこと自分で言う人、初めて見ましたよ……」
「本当に嫌だって言ってるんです、帰ってくださいってば!」
リーリカは憤慨したようにそう言って――手元にあった枕を、キサラさんの顔面目掛けて、思いっきり投げつけた!
ぼふっ!
枕は見事、キサラさんの顔面を直撃。
「へっへっへ……やってくれるね、リーリカ!」
キサラさんは枕を顔からはぎ取ると、お返しとばかりにそれを投げ返した。
それを華麗に避けるリーリカ。
すると当然――対象を失った枕は。
「あうっ!?」
ぼふっと……リーリカのそばにいたチェリルの顔面に、見事ヒット。
「あははー。なんだか楽しそうなの。えいっ!」
「ぎゃっ!?」
キサラさんに乗っかるようにして、ミルミーがチェリル目掛けて枕を投げつけた。
「な、何するんですの!」
怒ったチェリルが、ミルミーに枕を投げ返す。
「きゃん!」
だけど、その軌道は横に逸れて……ユピの顔面をきれいに捉える。
「何するの、チェリルさん!」
ユピが枕を投げ返す。
「いい加減にしてください、キサラさん!」
「あははっ! こうして盛り上がるのも、一興じゃん!!」
「楽しいねーチェリル!」
「わ、わたくしは全然、楽しくないですわ!!」
さらに、リーリカが。キサラさんが。ミルミーが。チェリルが。
みんなが入り乱れて、枕をぶんぶんと投げ合いはじめた。
こ、これは!
合宿名物の、枕投げというやつでは……!?
「ほーら。隙ありー」
ぼふっ!
キサラさんの枕が、私の顔面を見事に捉えた。
「や、やりましたね、キサラさん!」
私はドキドキとした高揚感に包まれながら、枕を投げ返す。
かくして、六人入り乱れての枕投げ大会の火蓋は、切って落とされた。
自分の顔面に、枕の直撃を受けながら。
私もまた、誰かの顔面へと枕を投げる。
まさに青春の一ページとでもいうべき――記念すべき私の人生初の、枕投げイベント。
ああ……なんって楽しいんだ。
これが学生生活を謳歌するってことなんだな。
そんなことを考えながら、枕投げをしていると。
「何をやってるんですか、あなたたちは!」
当然のように先生に見つかって。
ものすごく怒られたわけでした。
特に――窓ガラスをぶち破って、後輩の部屋に侵入してきたキサラさんは。




