01 特訓を終えて
夕方にさしかかった頃、海での特別授業をようやく終えた私たちは、宿へと向かった。
今日泊まるのは、海沿いにある大型宿泊施設。
なんでもこの施設も、ルミーユ学園が所有しているのだとか。
さすがはルミーユ学園。
魔王グランロッサ討伐のために、オルタナギアの各国が資金を投入してるだけのことはあるよね。
「んー! ねぇアリス、この魚、すっごくおいしいわよ!!」
「リーリカ史上、最高に?」
食堂でやたら盛り上がっているリーリカに、私は思わず苦笑する。
その隣でこっくりこっくりと、舟を漕いでいるユピ。
「ユピ、大丈夫?」
「ん……大丈夫なの。ご飯食べてたら、なんだか眠くなっちゃっただけなの」
「まぁ今日の特訓、かなりきつかったもんね」
「結局、一年生で『海を切り裂く』なんて大技が使えたのは、アリスくらいなの」
リーリカとユピが、なんだか嬉しそうに私の顔を覗き込んでくる。
それがなんだか、くすぐったくて。
「べ、別に……たまたまだよ。そんな目で見ないでってば」
「そんなに謙遜しなくっていいんじゃないですかぁ、アリスさぁん? もっと得意げに胸を張っていいんですよぉ」
「もぉ、リーリカ。からかわないでっ」
「そうですわ。今日の結果は、たまたまに決まっているのですわ!」
食事を摂っている私たちの前に立ち。
海では外していた銀縁眼鏡を、くいと持ち上げて。
チェリルが、僅かにほっぺたを膨らませながら、言った。
「本来でしたら、アリスさんだけでなく、わたくしも課題をクリアすることができていたはずですの。今日はたまたま! 調子が悪くって、失敗しただけですのよ!!」
「まーた、アリスに突っかかってきちゃって。いい加減、実力差を認めたら?」
「な、なんですのリーリカさん! そのまったく信用していない目は!? わたくしは本当に、自由時間に疲れすぎていてですね……」
「チェリルってば、すっごくはしゃいでたもんねー」
「ミルミーが強引に、わたくしを連れ回しただけでしょう!?」
そばに立ってニコニコ笑っているミルミーに、目くじらを立てるチェリル。
このコンビも相変わらずだなぁ。
それと――チェリルの私に対する絡み方も、相変わらずだよね。
「チェリルさん。気を落とすことはないの。一年生であんな芸当ができるアリスが、特別なだけなの」
「それで励ましてるつもりですの、ユピさん!?」
「事実を言っただけなの」
「くっ……リーリカさんといい、ユピさんといい。『フレンドライン』の皆さんは、ちょっとアリスさんを過大評価しすぎなのではなくって!」
「クラスの総意だと思うけど」
ねぇ? とリーリカが声を上げると。
クラスメートたちは途端に下を向いて、黙り込んでしまう。
「くぅ……!! お、覚えておいでなさいアリスさん! 必ずや近い将来、わたくしが貴方を超える魔法使いになってみせますからね!!」
「うん。お互い頑張ろうね」
「……随分と余裕ですわね」
「余裕はないけど。本当に、一緒に頑張りたいと思ってるんだよ」
チェリルの気迫にやや圧倒されながらも、私は素直な気持ちで、そう応える。
相変わらず、チェリルは私に対してライバル心剥き出しにしてくるけれど。
なんとなく、私の方もチェリルの扱い方が分かってきたというか。
チェリルの本心が、分かってきたっていうか。
――チェリルは別に、私のことを嫌ってるわけじゃなくって。
強くなりたいから、私のことを『ライバル』だと思ってるだけなんだよね。多分。
ライバルだから、負けたら悔しくって。
勝って見返したくって。
それで突っかかってくることもあるけれど……『敵』だと思ってるわけじゃない。
どちらかというと、仲良くなりたいって思ってくれてるんじゃないかな?
そんなこと言ったら、チェリルは顔を真っ赤にして怒り出しそうだけど。
「……何を笑ってるんですの、アリスさん」
「あ、ごめん。なんでもないよ」
「なんでもない人が、突然笑い出すわけありませんわ! なんですか、わたくしに言いたいことでもあるんですの!?」
「うーん……そうだね。チェリルって、かわいいなと思って」
「か……かわっ!?」
あ、しまった。ついポロッと言っちゃった。
チェリルは案の定、顔を真っ赤に染めると、両腕をぶんぶんと振り回しはじめた。
「な、なにをふざけたことを……っ! わ、わたくしは……」
「うんうん。アリスちゃんの言うとおり。チェリルって、かわいいよねー。チェリルだって本当は、かわいい服を着――」
「ミルミぃぃぃぃぃぃ!!」
ミルミーの口を高速で塞いだかと思うと、なんだか口をあわあわさせながら、その顔を睨みつけるチェリル。
あはは。相変わらず仲良いな、チェリルとミルミーは。
まるで私と、リーリカやユピみたい。
ね、リーリ……。
「って、いたぁ!?」
急にお尻の辺りをつねられたもんだから、私は思わず変な声を出しちゃった。
「ど、どうしたのリーリカ?」
「……べっつにー」
私のお尻をつねった張本人は、なぜだかほっぺたを膨らませて、ぷいとそっぽを向いてしまった。
そんな私たちのやり取りを、苦笑いしながら見守っているユピ。
もぉ。なんだっていうのよ……リーリカってば。




