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中二病を極めた私、異世界魔法を凌駕する  作者: 氷高悠
第1章 第1話「中二病をこじらせた私、異世界に行く」
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06 ひょっとして、異世界?

「それにしても、さっきの学園長の顔! あんなに慌ててる学園長、初めて見たよ」


 正面の席に腰掛けたリーリカが、けらけらと笑う。


「あんなに驚かなくてもいいのにね」

「何言ってんの。あんな桁外れな数値を叩き出されたら、誰だって仰天するわよ。アリスはもっと、自分のすごさを自覚した方がいい!」


 うーん、そう言われてもなぁ。

 自分の妄想なんだから、自分に都合がいいのも、当たり前っていうか。


「まぁ、それはともかく。今日はアリスの編入決定記念だからね、いっぱい食べよう!」

「それにしても、これは盛りすぎでは……」


 目の前に広がるのは、こんがりと焼けたチキン、湯気の立ちのぼるシチュー、彩り見事なフルーツバスケットなどなど。

 とても二人で食べきれる量じゃない。


「こんなにたくさん頼んで……お金は大丈夫なの?」

「お金なんてかかんないよ。ここはルミーユ学園女子寮の食堂。バイキング形式で、好きなだけ食べていいんだから!!」


 ってことは、これから毎日、こんな豪勢な食事を食べ放題なわけ?

 すごい、まるで天国みたい!


 ――――なーんてね。


 私はふぅと、小さくため息を漏らす。


 分かってる。これは全部、私の妄想なんだって。


 この世界では私は絶世の美少女で。すごい魔法を使うことができて。

 リーリカという友達がいて。こんな素敵な寮で生活することもできる。

 だけどそれは、いったん目を覚ませば消えてしまうんだ。


 まるで砂漠に浮かんだ、蜃気楼みたいに。


「どしたの、アリス?」

「あ、いや。なんでもないよ」


 やばっ。ちょっと暗い顔になっちゃってたかも。

 私はさっと笑顔を浮かべて、「いただきます」と手を合わせた。

 妄想の中とはいえ、せっかくできた友達に、心配を掛けたくないからね。


 そして私は、食欲をそそる香りを放つチキンを頬張った。

 うーん、この味! 堪んないほどおいしいっ!!


 ――――おいしい?


 私は手に持っていたフォークとナイフを、からんとお皿に落とす。


「ん? アリス?」

「ご、ごめんリーリカ。私、ちょっとトイレ……」


 慌ててそれだけ告げると、私はそそくさと席を立った。

 そしてトイレに入り、手洗い場の鏡に顔を近づける。


 そこにあるのは、ゆるふわパーマの金髪をした、美しい顔立ちの少女。

 有栖田(ありすだ)真子(まこ)とはかけ離れた姿。


 視覚。この目に映る、すべての光景。

 聴覚。この耳に響く、すべての声や音。

 触覚。この手で触れた、すべての感触。温もり。

 嗅覚。この鼻に香る、人や物のにおい。

 そして味覚。さっき食べた、おいしいご飯の味。


 ……妄想?


 本当に?


 私の中で、少しずつ疑念が渦巻きはじめている。


 だってこんな五感すべてに働きかけてくる妄想なんて、普通じゃないもん。


 私がこの世界に来て、ドラゴンを倒したのが、ちょうどお昼休みの時間。

 そして今はとっくに日も落ちて、夕飯どきになっている。

 つまり私は、もう六・七時間も、このリアルな妄想世界をさまよっていることになる。


「いくらなんでも、ありえないでしょ……」


 そこで、私の頭の中に浮かんでくる、もうひとつの可能性。


 それは――あの屋上で、私が異世界に転移してきたというもの。


 ……いや。「それもありえないでしょ」って言われたら、そうなんだけどさ。


 実際問題、私は日本のありきたりな学校から、この剣と魔法のファンタジー世界に飛んできている。

 妄想にしてはリアル過ぎるし、それなら異世界転移って考えた方がしっくり来る。


 外見は、異世界用に自動カスタマイズされて。

 魔法は、私が『シュバルツアリス』に書き記したものを、なぜか使うことができて。

 しかも潜在魔力は測定不能なほど高いときている。


 とことんまで、私に都合のいい設定の異世界転移。

 妄想にしてもひどすぎる、中学生が考えたレベルの物語。

 だけど私は本当に――そんな夢みたいな世界に、来ちゃってるんだ。


「……何それ。私史上、最高じゃない」


 リーリカの口癖をまねて、呟いてみる。


 冴えない地味子な私に突然起こった、世にも奇妙な出来事。

 だけどそれは、私のつまらない人生を一変させてしまうほどの大事件で。



 ――ドキドキと高鳴る胸を、止めることはできそうもなかった。

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