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中二病を極めた私、異世界魔法を凌駕する  作者: 氷高悠
第2章 第3話「臨海合宿に出掛けた私、青春を謳歌する」
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06 合宿本番、開始!

「さぁて、皆さん。自由時間は満喫できたかしら?」


 浜辺で整列した私たちに向かって、先生が言った。


 一時間半の自由時間は、それはもう、あっという間に過ぎて。

 まだまだ遊び足りなくって、集合時間になったのが残念なくらいだったけど。


 今日は臨海合宿。

 海上戦の訓練をするのがそもそもの目的だから、仕方ないよね。


「訓練が終わったら、また遊ぼうね」


 水着の上にローブを羽織っただけのラフな格好で、リーリカが耳打ちしてくる。

 濡れそぼった髪の毛も相まって、その佇まいはなんだか艶めかしい。

 まぁ多かれ少なかれ、みんなそんな格好で集合してるんだけどね。


「うん。夜も楽しみだね」


 笑いながら、リーリカにそう返すと。

 私は「よしっ」と、気合いを入れた。


「これからは学園ではなかなかできない、海上戦の訓練を行います。まずはそれぞれ……海を切り裂いてみてください」


 海を切り裂く?

 先生ってば、だいぶ軽く言ってくれてるけど……それってなかなか大変なんじゃない?


 オルタナギアの魔法は、詠唱がない代わりに、出力が弱い。

 もちろん、訓練を重ねれば高度な魔法も使えるようになるんだけど……一年生で海を裂くほど高度な魔法を使える人は、あんまりいないんじゃないかな。


 そう。オルタナギアの魔法だったらね。


「海を切り裂く……切り裂く、かぁ」


 呟きながら、私は中二病を書き記した禁断教典『シュバルツアリス』のページを、頭の中でぱらぱらとめくっていく。


 この訓練にふさわしい魔法。

 それだったら……これかな?


「星々の悪戯。神々の気まぐれ。私と貴方の、冷たい亀裂。私は彼の地に渡り行き、貴方は世界を失った。逢瀬のときをただただ願い、私は(カルマ)を踏みしめる――さぁ、物語をはじめよう。『織姫と彦星(ディメンション)の絶望(・ギロチン)』」


 呪文とともに、鞭のようにしなる光のラインが放射される。


 そして光のラインが海に到達したかと思うと――ズバッと。

 澄み渡る透明な海が、左右真っ二つに切断された。


「おおおおおおおっ!!」

「すげぇ、さすがはアリスさんだ!!」


 周囲に陣取っていたクラスメートたちが、一斉にどよめいた。

 そ、そこまで注目されると、なんだか気恥ずかしいな。


「さっすがアリス! あたしも、負けてらんないね」


 私の肩をポンと叩いて、水着にローブを羽織った姿のリーリカは『ルクシアブレード』を正面にかまえた。


 そして――一目散に、海に向かって駆けて行く。


「いっけぇ、あたしの『ルクシアブレード』!!」


 剣を振るう。

 凄まじい衝撃波が、海に向かって放たれる。


 すごい! やっぱりリーリカの剣のセンスは、並大抵じゃない!!


 …………だけど。

 それでも海は、大きな飛沫を上げるのみで、二つに切り裂かれることはなかった。


「ああ。やっぱり無理かぁ」


 がっくしと肩を落とすリーリカ。


「にゃっはははははははっ!!」


 すると、私の背後から。

 なんだか猫みたいな甲高い声で、笑い声を上げる人がいた。


「リーリカ、センスはいいんだけど、あと一歩ってとこだねぇ。いやぁ惜しかった、惜しかった」

「……キサラさん」


 真っ黒なビキニの上に何も羽織ることなく、キサラさんは双剣を携えて、腕組みをして浜辺に立ち尽くしていた。


「キサラさん、目を覚ましたんですね」

「ついさっきだよ。おかげで自由時間がなくなっちゃったじゃんか、アリス」

「いや、ビーチボール対決を吹っかけてきたのは、キサラさんですし……」

「ま、いいけどね。うちは遊んでるより、剣を振るってる方が性に合ってるから」


 豪快に笑いながら、そう言うと。

 キサラさんは双剣をかまえ、海に向かって駆け出した。


「リーリカ、見てな。海でもなんでも、うちがぶった切るから」


 そして、ダンッと地面を蹴りつけると。

 両腕を真横に伸ばしたまま、高速で左右に回転しはじめた。


 まるでコマのように回るキサラさん。

 いや――コマってレベルじゃないな。


 その回転は…………まるで竜巻。


「いっけぇぇぇぇぇぇ!!」


 そしてキサラさんは、その回転でもって海を斬りつける。

 すると、バシャンと大きな飛沫を上げて――海の一部が切り取られた!


「な…………っ!?」


 目を見開くリーリカの正面に、キサラさんは着地する。


「どう? これがうちの、ち・か・ら☆」


 キサラさんがバチッとウインクすると同時に。

 浮かび上がっていた海の一部が、再びバシャンと着水した。


 ――これが『踊る閃光(ダンシング・レイ)』。

 ルミーユ学園随一の剣士と名高い、キサラさんの実力か。


「す、すごいです……」


 同じ剣士であるリーリカの驚きは、おそらく私以上なんだろう。

 その視線は海に向けられたまま、逸らされることはない。


「でっしょおー? うちってば、なかなかの実力じゃない? だからさぁ……」


 そう言って、ピトッと。

 キサラさんはリーリカの背中に、自分の胸を押し当てた。


「ね? うちとパーティ組もっ? うちと組むなら、どこまででもリーリカのことを強くしてあげちゃうからさ」

「いえ。それはお断りします」

「……随分と即答だねぇ」

「何度もお伝えしてるとおり、あたしには心に決めた人がいますから」


 そう言って、ちろっと私の方を見るリーリカ。

 上目遣いで見ないでよ。なんだか恥ずかしいじゃん。


「ちぇー。リーリカってば、つれないんだから」


 唇を尖らせて、つまらなそうな顔をするキサラさん。


「遊んでないで、真面目にやらないか。キサラ」


 そんなキサラさんを、誰かが後ろからぴしゃりと叱りつける。

 その凜とした、鈴鳴りのような声は……。


「……カンナさん?」

「やぁアリス。なかなかの魔法だったね」


 優雅に微笑みながら、カンナさんは私のそばへと歩み寄ってくる。


「なんだよ、カンナさん。うちだってきちんと、海を割ったじゃんか」

「ああ、それは見ていたよ。だけどキサラにしては、切り口が甘かったかな。リーリカに見せつけようとして、急いた証拠だ」

「うへぇ。厳しいお言葉だぁ」


 思い当たる節でもあったのか、キサラさんはバツ悪そうに苦笑いを浮かべた。


 あの一瞬で、そこまで見抜いたんだ。

 やっぱりカンナさんの実力は、ずば抜けてるなぁ。


「ってか、カンナさーん。カンナさんこそ、海を切り裂く魔法ってやつを見せてくださいよぉ」


 キサラさんがごまかすように、軽口を叩く。


「まったく反省してないな、君は……まぁ、いい」


 困った子を見るような目でキサラさんを一瞥して。

 カンナさんは、すっと海の方へ手を伸ばし。

 ゆっくりと、その手を下ろした。


 瞬間――海が左右二つに分かたれる。

 まるで、モーゼの十戒のごとく。


「な…………っ!?」


 私は思わず息を呑む。


 今、魔法を使った? でも、呪文なんて口ずさまなかったよね?

 っていうか、あんな威力の魔法――聞いたこともないよ!


「すっげぇ……さすがはカンナさん」

「これくらい、大したことではないよ」


 事もなげにそう言って、カンナさんは海に背を向けた。


「魔王グランロッサを倒すためには……まだまだ強くなる必要があるのだから」


 そう言って去っていくカンナさんの背中を、見送りながら。

 私はただただ、感嘆のため息を漏らすことしかできなかった。



 すごいなぁ、カンナさん。

 私もカンナさんに追いつけるよう――もっともっと頑張らないと!

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