05 海辺のバカンス
「お待たせしましたわ、皆さん」
そう言ってもったいぶった態度でやって来たのは、チェリル。
黒地に白の水玉模様を散りばめた、ワンピースタイプの水着を着ている。
ボブカットの黒髪に、その格好はよく似合っている。
いつもの銀縁眼鏡は、海に入るためか、今は身につけていない。
「お待たせー。ボクも来たよー」
そんなチェリルの後ろから顔を覗かせるのは、ミルミー。
髪の色とおんなじオレンジ色のトップスに、ホットパンツのようなボトムスを合わせている。
運動神経抜群で活発なミルミーにぴったりの、スポーティな格好だ。
落ち着いた装いのチェリルと、健康的で活発そうな装いのミルミー。
この取り合わせが、まさに『チェリミル』の二人らしいな。
「……で? 一体何を、やってらっしゃいますの?」
「……見たまんまだと思うよ」
怪訝そうな顔でこっちを見てくるチェリルに、私はげんなりしながら答えた。
『リーリカ争奪カップ』
そう書かれた段幕の下で、私とキサラさんは向かい合っている。
キサラさんが持っているのは、いわゆる……ビーチボール。
オルタナギアにも、ビーチボールとかあるんだなぁとか、どうでもいいことを考える私。
「見てもいまいちピンとこないから、お尋ねしたんですけど……」
「つまりなの。アリスとキサラさんで、ビーチボール対決をすることになったの。リーリカを取り合って」
「私は嫌だって言ったんだけど」
「ああ。またキサラさんが、強引に決めたんですのね?」
「ちょっとちょっとぉ! うちが無理やり誘ったみたいな言い方、やめてよね。みんなももっと、ノリよくやってくんないと!!」
実際、無理やり誘ったんじゃないですか。
リーリカなんて、まだほっぺた膨らませて、キサラさんから目を逸らしてますし。
「さぁ、いくよアリス! うちのトルネード攻撃を、受けてみな!!」
高らかに宣言して。
キサラさんは放り投げたボールを――勢いよく叩いた。
するとボールが、なんか二個にも三個にも分身したようになって……そのままこちら目掛けて飛んでくる。
「な、なんですかこれ!?」
キサラさんのとんでも身体能力に驚きつつ、私は身を強張らせる。
自慢じゃないけど、私は運動神経皆無なんですって。
さっきから乗り気じゃないのも、ビーチボール自体が得意じゃないからで。
なのに、こんなとんでも攻撃とか……無理無理!
「ほぉら、受け止めてみな!」
キサラさんが得意げに叫ぶ。
だけど私には、そのボールは荷が重すぎて……迫り来る恐怖に、思わずギュッと目を瞑ってしまう。
絶対あんなの、当たったら痛いよぉ!
――――なんて、恐怖に怯えていても。
一向に、その衝撃は襲ってこない。
なんでだろ? 私はおそるおそる、目を開ける。
すると……向こうのコートでは、顔面にボールをめり込ませたキサラさんが、ばったりと仰向けに倒れ込んでいた。
「あ……あれ?」
「すっごい、アリス! あたし史上、最高だわ!!」
リーリカが興奮気味に、私のもとへと駆け寄ってきて、ギュッと腕を絡ませてくる。
けれど、状況が呑み込めていない私は、どう反応していいか分からない。
「攻撃無効化魔法ですわ」
チェリルが腕組みをしながら、ぽつりと呟いた。
「キサラさんは『攻撃』と宣言しました。その時点で、アリスさんの自動発動型の攻撃無効化魔法が発動したんですわ。だから、ボールはアリスさんに当たる直前で弾かれて、結果的にキサラさんの顔面を直撃した」
な、なるほど。
まさか私の『堕天使の羽根』が、こんな場面でも役に立つとは。
「あっちゃー。キサラさん、完全に気絶してるよー?」
「これはしばらく、目を覚まさないと思うの……」
ミルミーとユピがキサラさんのことを覗き込んで、言う。
「じゃあこの、勝手に取り決められたビーチボール対決は、お開きってことね!」
「えっ。ちょっと、リーリカ。どこに連れて行く気?」
「決まってるじゃない……海だよ、海!」
爛々と瞳を輝かせながら、リーリカは私の手を引いて、海の方へと裸足で駆けていく。
もぉ。リーリカもキサラさんに負けず劣らず、強引なんだから。
……とはいえ。
せっかくの海なんだし、私も楽しみたいと思ってたんだよね。
そして私は――リーリカと一緒に、ばっしゃんと。
水しぶきを上げて、透明な海へと飛び込んだ!
「ぷはぁ!」
「うっひゃあ! 気持ちいいね、アリス!!」
肩まで海に浸かったまま、私とリーリカは笑いあった。
それから、自由時間が終わるまで。
私たちは海でのバカンスを、満喫した。
……キサラさんは置いといて。
「こ、怖いの。無理なの!」
「大丈夫だって。あたしとアリスが、きちんと持ってるから」
「そうだよ、ユピ。私たちを信じて」
ユピの乗った浮き輪を両サイドから支えて、リーリカと私は言った。
「じゃあ、行くよユピ」
「ひ、ひぃぃ……!!」
浮き輪を押しながら、私とリーリカが泳ぎはじめる。
ゆっくりと前に進みはじめる、ユピを乗せた浮き輪。
ユピは身を伏せて、落ちないように必死にしがみついてて、なんかかわいい。
「どう、ユピ。気持ちいいでしょ、海に出るのも」
「た、確かに気持ちいいけど……やっぱりちょっと怖いの」
「あたしたちはゆったりやるから、心配しないでよ。あっちと違ってさ」
あっち?
リーリカが指差した方向を見ると……。
そこには、チェリルを乗せた浮き輪を引っ張りながら、物凄い勢いで泳いでいるミルミーの姿があった。
「チェリル、行っくよぉぉぉぉぉ!!」
「ちょっ、ちょっと待――と、止まってちょうだいミルミぃぃぃぃぃぃ!?」
チェリルの絶叫を残して。
海の彼方へと、ミルミーたちは消えていった。
……うわぁ。申し訳ないけど、あれは私でも怖いわ。
ご愁傷様、チェリル。
「えいっ!」
「きゃっ!?」
そんなことを考えていると、ばしゃりと。
リーリカが私目掛けて、水をかけてきた。
「もぉ! 何するのさ、リーリカ。お返しだもんね……えいっ!!」
「うわっ! やったなぁ、アリスぅ!!」
「きゃっ!? ちょっ、ちょっと二人とも。ユピにも水がかかって……って、いい加減にするのー!!」
私とリーリカが水のかけ合いをはじめると、それに巻き込まれたユピが、頬を膨らませながら応戦してきた。
そうしているうちに……なんだか楽しくなってきちゃって。
私たちは三人で笑いあいながら、水をばしゃばしゃとする。
ああ……なんかいいなぁ、この感じ。
ずーっと憧れてた友達との旅行が、こんな形で叶うなんて。
本当に私――オルタナギアに来て、よかったって思うんだ。




