03 海辺のアリス
そうして水着を買いに出掛けてから、早数日。
いよいよ私たちは、臨海合宿の当日を迎えた。
大きめのカバンに、旅行用の荷物を詰め込んで。
戸締まりを確認すると、私たちは学園へと向かう。
「それにしても……海に行くのに、集合はいつもの教室なんだね」
そういえば、どうやって海まで行くんだろう?
元いた世界では、修学旅行のときはバスを使っていたけど。
バス。
思い返すと、あれは地獄だった。
みんながわいわい盛り上がっている中、逃げ場もなく座席に座り、ただ眠っているふりをするだけの無為な時間。苦痛以外の何物でもなかった。
だけど――今日の合宿は違うぞ!
私もかつてのリア充たちのように、リーリカやユピと楽しくお喋りしながら、目的地までの旅を楽しむんだから!!
――――と、思っていたのに。
集合時間から、僅か十数分後。
私たちは既に、海に到着していた。
「……あーあ。せっかくのお喋りタイムの夢が……」
オルタナギアの旅先への移動は、それはそれは簡素なものだった。
先生の描いた、巨大な魔法陣の上に乗って。
空間転移の呪文を唱えたら――ほら、着いた!
もう気分は、どこ○もドアだよ。
旅先に向かう風情なんて、あったもんじゃない。
「なーに、暗い顔してんの? アリス」
がっかりしている私の顔を、ひょこっとリーリカが覗き込んでくる。
つり目がちな目でまっすぐこちらを見て、歯を剥き出しにして笑っているその姿は、なんとも無邪気でかわいらしい。
「ほらほらー。昨日まであんなに、楽しみにしてた海じゃないの! もっと盛り上がろうよ!!」
「う、うん……そうだね。そうだよね!」
リーリカの言葉に、私はぐっと顔を上げて、海辺へと駆けて行く。
「ほら、ユピも!」
「えっ!? ユ、ユピは海からの照り返しに強くな――」
ちょっと引き気味なユピの手を引きながら、私の後を追ってくるリーリカ。
そして――私たちは三人で、目の前に広がる大海を見る。
「うわぁ……すっごいきれい!」
「オルタナギアの中でも、この辺は特に、海が澄んでることで有名だからね」
「うん。確かに、とっても素敵な海なの」
元いた世界で行った、数える程度の海経験を思い返しても。
ここまで青く澄み渡った海なんて、見たことがなかった。
草原や山もたくさんあるし、オルタナギアってなんだかんだで、きれいな自然が残っている風土なんだな。
大自然の神秘を肌で感じながら、私は噛み締める。
あのぼっちだった自分が、友達と仲良く、美しい海に遊びに来ている喜びを。
「ほら、皆さん! 集合してください!!」
先生の声に、私たちは慌てて整列する。
全員が集まったのを確認すると、先生はこほんと咳払いをした。
「海に来てはしゃぐ気持ちは分かりますが、皆さん節度を持った行動を心掛けてください。臨海合宿の意義は、そもそもは海上戦の訓練を――」
くどくどと先生が何か言ってるけど、多分私も含めて、みんなうわの空。
そりゃあそうだよ。
こんなにわくわくする海を臨みながら、真面目に話を聞くなんて……できるわけがないってば。
「……と、前置きが長くなりましたが。今の皆さんの頭は、海で遊ぶことでいっぱいでしょう」
先生はそう言って、もう一度咳払い。
そして、にっこりと微笑んで、言った。
「まずは自由時間としますので、思いっきり遊んで、リフレッシュしてきてください。ただし、羽目を外しすぎてはいけませんよ?」
やったぁ!
私たちはみんな揃って、歓声を上げる。
自由時間は、一時間半。
こんなところでぼやぼやしてる場合じゃないや。
私はリーリカとユピと連れだって、更衣室へと急ぐ。
少しの時間ももったいない。
早く着替えて、この海でのリア充時間を、満喫するんだから!




