02 買い物に行こう!
「というわけで、リーリカ。ユピ。買い物に出掛けよう!」
授業がすべて終わり、帰寮するタイミングになったところで、私は意気揚々と告げた。
リーリカとユピが顔を見合わせてから、きょとんとした顔でこちらを見る。
「買い物って……何を買いに行くの?」
「決まってるじゃない。臨海合宿に備えて、水着の調達だよ!」
「アリス……なんだかいつもとテンションが違うの」
ちょっと呆れたように、ユピがぼやく。
一方リーリカはといえば……。
「あたし史上、最高だわ! すっごい、素敵な提案!!」
瞳に星を散らしながら、鼻息を荒くして私の前に躍り出た。
「アリスとユピが、水着に試着するところを見れるなんて……ああ! あたしが水着を見繕うから!! 二人とも、色々着てみてね! そう、色々と!!」
「あ、う、うん……」
「……なんだかものすごく、心配なの」
自分で言い出しといてなんだけど。
リーリカの高すぎるテンションに、一抹の不安を覚える私なのでした。
「……ねぇ? なんだかユピ、元気ない?」
「えっ!? そ、そんなことないの!」
商店街に行く道すがら。
なんだか心なしか、いつもより俯きがちなユピが気になる私。
「ひょっとして、買い物に誘ったの……迷惑だった?」
「そ、そんなことないの! ただ、ただ……ユピは」
人差し指同士を擦り合わせて、ためらいがちにこちらを見るユピ。
そして、ギュッと目を瞑って。
「ユピは……海に行くのが、とっても苦手なの!!」
必死に声を張り上げて、言った。
私とリーリカは、思わず顔を見合わせる。
「そうだったの、ユピ?」
「それで臨海合宿の話が出てから、元気なかったんだね」
「ユピにはヴァンパイアの血が流れてるから……あんまり直射日光を浴びすぎると、くらくらしちゃうの。だから海に出掛けるのが、あんまり好きじゃないの」
「そっか。ごめんね、ユピ。私、そんなことも知らずに買い物に誘っちゃって……」
友達の気持ちにも気付かず、はしゃぎすぎてしまった自分が、なんだか恥ずかしくって……思わずしゅんってなっちゃう。
そんな私を見たユピが、慌てて両手を振った。
「ち、違うの! 二人と一緒に買い物に来れたのは、とっても嬉しいの。それに、苦手な海だって……この三人でなら楽しみたいなって、思ってるの」
「……ああ、もぉ! ユピってば、かわいいんだからぁ!!」
「ちょっ……!? リーリカってば、いきなり抱きつかないでなの!」
そんなユピの制止なんて聞きもせず。
抱きついたまま、ユピに頬ずりをするリーリカ。
そんなやり取りがなんだかおかしくって……私は思わず、声を出して笑ってしまう。
「もぉ! アリスも、笑ってないで早く止めてなーのー!!」
「あははっ! ごめんごめん、ユピ」
「……ん? あー、アリスちゃんたちだー!」
そうしてかしましく歩いていると、誰かの声が聞こえてくる。
顔を上げて見ると、そこにはミルミーと、何やら紙袋を手にしたチェリルの姿があった。
「あ。チェリル、ミルミー」
「何やってんの、あなたたち。こんなところで?」
「そ、それはこちらのセリフですわ! 貴方たちこそ、何しにこちらにいらしたんですの?」
「ユピたちは、臨海合宿用の水着を買いに来たの」
「あ。ひょっとしてチェリルたちも、そうなのかな?」
「んっとねー。こっちはチェリルが着るコスプ……」
「ミルミぃぃぃぃぃ!!」
火がついたように顔を真っ赤にして、チェリルがミルミーの口を塞ぐ。
何、その慌てよう。
「えっと……ミルミー、今なんて言ったの?」
「み、水着! そう、水着ですわ!! わたくしたちも貴方たちと一緒で、臨海合宿に備えて買い物に来たんですの!」
「ほんとぉ~? なんかその割には、紙袋が大きくない?」
確かに。
水着にしてはやけに大きいね、その紙袋。
「こ、これはその! 水着をたくさん買ったから、こうなったのですわ!!」
「なんで水着をたくさん買うのよ。二泊三日なんだから、そんなにたくさんいらないでしょうに」
「ど、どれを買うか迷ったから、全部まとめ買いしただけですのよ? 何か文句でもあるんですの、リーリカさん!?」
「いや、文句はないけどさ……」
チェリルの物凄い剣幕に、私たちは顔を見合わせて黙り込む。
なんか釈然としないけど……まぁ、いっか。




