01 わくわくの臨海合宿
それにしても、先週はキサラさんのおかげでひどい目に遭ったなぁ。
キサラさんが巻き起こした決闘騒動を思い返しつつ、私は教室の長机についた。
両隣にはいつもどおり、リーリカとユピが座っている。
「リーリカ、なんか疲れてるの?」
「うん……ぜんっぜん疲れが取れなくて」
そう言ってため息を漏らすリーリカ。
まぁ、そりゃそうだよね。
決闘騒動以降、キサラさんに目を付けられたリーリカは、あの手この手でアプローチされてきてたんだもの。
『フレンドライン』以外のパーティを組む気はないって言ってるのに……相変わらず、人の話を聞かない先輩なんだよなぁ。
ぼんやりそんなことを思い返していたら、教室に先生が入ってきた。
挨拶を済ませて着席すると、先生は何やらプリントを配りはじめる。
『ルミーユ学園 臨海合宿について』
……臨海合宿?
「それではいよいよ週末に迫った、臨海合宿について説明したいと思います」
先生が教壇に立ち、プリントについての話をはじめる。
なんでも、ルミーユ学園では年一回、全学年参加の合宿を行うのだとか。
二泊三日で海に出掛け、普段はなかなかできない海上戦の練習を行うというのが、合宿の主旨らしい。
「楽しみだね、アリス!」
さっきまでの疲れた顔が嘘みたいに、爛々と目を輝かせるリーリカ。
他のクラスメートたちも、なんだかざわざわ色めき立ってるし。
「要は訓練に出掛けるってことでしょ? なんでそんなに盛り上がってるの?」
「アリスぅ。分かってないなぁ」
リーリカが呆れたように、肩をすくめる。
「いい、アリス? これは『臨海合宿』。つまり、泊まりがけで海に行くんだよ?」
「うん」
「訓練が主旨とは言ってもさ、休み時間もあるわけよ」
「うんうん」
「だからみんなで、泳いで遊んだり。夜は温泉に入ったり。寝室でガールズトークに花を咲かせたり……つまりはそういう、青春じみたことが経験できるわけよ!」
「……なんですって!?」
私の心が、ざわっと鳴った。
えっと。海で泳いで、温泉入って、部屋でガールズトークして?
それってつまり……修学旅行的なイベントってことじゃない!
――オルタナギアに来る前の私は、修学旅行とか大嫌いだった。
だってみんなが盛り上がってる中、話が合わない私は常に独りぼっちだったから。
集団の中にいるのに孤独を感じるのって、普段以上にきついんだよね。
けれど……今の私は、異世界に来て生まれ変わった。
友達もいるし、クラスメートとだってそれなりにコミュニケーションが取れる。
だとすれば。
私はついに、修学旅行を楽しむというリア充イベントを経験できるってことなのか!
思わず鼻血でも噴き出しそうになるけど、抑えて抑えて。
「……って、アリス。なんだか顔がにやけてるわよ?」
「え。そ、そう?」
じと目のリーリカに指摘されて、私は慌ててほっぺたを押さえる。
だって、しょうがないじゃない。
これまで、憧れながらも手に入れられなかったリア充な青春が、目の前で手を広げて待ってるんだもの!
「まったく。臨海合宿くらいで大騒ぎして、お気楽な方たちですわね」
そうして、私たちが盛り上がっていると。
後ろの席からわざとらしい、盛大なため息が漏れ聞こえてきた。
「何よ、チェリル。あんたは楽しみじゃないわけ?」
「あくまでも、臨海合宿は授業の一環。遊びに行くわけじゃないんですわよ、リーリカさん? それをバカンス気分で盛り上がるのは、いかがなものかと思いますわ」
「えー。でもチェリル、昨日の夜はどの水着を持っていこうかって、部屋ではしゃいでたじゃ……」
「ミルミぃぃぃぃぃぃ!!」
なんだ。チェリルだって、楽しみにしてるんじゃない。
顔を真っ赤にしてミルミーの口を塞いでいるチェリルを見て、私は思わず微笑ましい気持ちになる。
――人は誰しも、海に憧れる。
たとえぼっちだとしても、泳ぐのが苦手だとしても……海と聞けば、なんだかわくわくしてくるものだ。
それはきっと、海という非現実的な場所が、何かイベントの到来を期待させるからなのかもしれない。
…………と。まぁ、物思いに耽ってみたけど。
とにかく、あれだ。
臨海合宿――ちょーお、楽しみっ!!




