ユピの過去と、素敵な明日
今回はユピ視点の短編です。
ん……もう朝なの?
目を擦りながら、ユピは棺桶の蓋をガタガタと内側から開けたの。
そしたら――部屋の中は真っ暗!
まだ夜かぁ……変な時間に、目が覚めちゃったの。
――まぁ、ヴァンパイアにとっては、こっちの時間に起きてる方が普通かもだけど。
ユピが夜に眠れるようになったのは、いつからだったかなぁ?
「よいしょっ、なの」
ネグリジェ姿のまま棺桶から這い出て、部屋の中を見回す。
ん? リーリカが、ベッドにいない?
どこに行ったの……って。
「何やってるの、リーリカ……」
アリスのベッドに忍び込んで、ギュッと抱きついたまま寝落ちしているリーリカを見つけて、ユピは思わずため息が出ちゃったの。
リーリカって、いっつもこうなの。
仲良くなった女子に対する距離感が近いっていうか。近すぎるっていうか。
思い返してみると。
ユピが初めてリーリカと会ったときも――そうだったの。
ユピのお父様は、ヴァンパイア。
魔王グランロッサの配下にして、人類の仇敵だったの。
幾人もの人間を、手にかけてきた。
いくつもの村や町を、滅ぼしてきた。
だけど、お父様は――お母様と出会ったことで、変わったの。
二度と人間を襲わないと誓い。魔王軍と敵対する道を選び。
お母様との間に……子を成したの。
それが、ユピ。
ヴァンパイアと人間とのハーフ。
……自分が普通じゃない存在だということは、小さい頃から分かっていたの。
だってみんなから、「そういう目」で見られていたから。
「魔物の血を引く、汚らわしい子め!」
「恐ろしい……きっといつか、父親のように人を襲うに決まってるわ!!」
罵り。誹り。
迫害。差別。
誰にも受け入れてもらえず、ユピはいつも傷つけられていたの。
信じられるのは、お父様とお母様だけ。
そんな狭い世界で生きていたユピは――ある日、そんなちっぽけな幸せすら失ってしまった。
お父様が……魔王グランロッサの放った刺客によって、殺されたの。
お父様を失ったお母様とユピは、深い悲しみに暮れていたの。
だけどお母様は、それ以上に――ユピの将来のことを、心配していた。
人間からも魔族からも『敵』として認識されて、生きていくユピの未来を。
だからお母様は……ユピを、ルミーユ学園に入学させたの。
魔王討伐を目標に掲げるルミーユ学園にさえいれば、ユピは「人類の味方」なのだと思ってもらえる。
さらに、襲い来る魔王軍と戦うだけの力を、手に入れることもできる。
ユピにとって、最も安全な場所。
それがルミーユ学園。
そしてお母様は、ユピをルミーユ学園に入れてすぐ、姿を消したの。
なんといっても、お母様は「人類の仇敵」と子を成した、忌むべき存在。
人類も魔族も、その命を放っておくはずがないの。
だから自分の身を護るために、行方をくらませた。
ユピはそう、信じているの。
いつかまた、どこかで――笑顔で会える日を、願っているの。
そうしてお母様が、必死に見つけてくれたユピの居場所だけど。
残念ながらルミーユ学園にも、かつて暮らしていた村の人間と、変わらない考えの人たちは多かったの。
「ヴァンパイアとのハーフ? それって、半分魔族ってことだろ?」
「信用できるのかしら。ちょっと怖い……」
罵り。誹り。
迫害。差別。
…………ああ。
自分はここでも、受け入れてもらえないのか。
自分はこのまま一生、孤独という名の十字架を背負っていくしかないのか。
どうしてユピは、生まれてきたの?
どうしてユピは、生きていかないといけないの?
そう、思っていたの。
彼女と出会うまでは。
「ヴァンパイアとのハーフ? すっごい、珍しい! あたし史上、最高だわ!!」
……何が最高なの?
よく分かんないけど、目の前にいるルームメイトは、目を煌めかせて興奮していて。
ユピのことをギュッと――抱き締めてくれたの。
「わぁ。ユピってちっちゃくって、柔らかいね。それにこの、牙? 八重歯? も、チャーミングっ!」
「……ユピのこと、怖くないの?」
「怖い? なんで?」
「ユピはヴァンパイアとのハーフ……人類の仇敵の、娘なの」
「んーと……だから、何?」
炎みたいに真っ赤なサイドテールを揺らしながら。
その不思議なルームメイトは、当たり前みたいな顔をして――ユピの頭を撫でながら、言ったの。
「ユピは、ユピでしょ。だから……これから仲良くしてね!」
「……まったく。あの頃から、ボディタッチ過剰なのは変わらないの」
すやすやと寝息を立てているリーリカを見ていたら、思わず苦笑が漏れちゃった。
――リーリカと出会って、ユピの人生は色を変えたの。
そしてアリスと知り合ってから、自分の世界はさらに色づいていって。
今では自分の人生が……とってもきれいに、光り輝いて見えるの。
「ありがとうなの。二人とも」
そっと手を伸ばして、二人の頭を撫でてみる。
それがくすぐったかったのか、二人はうっすらと笑顔を浮かべながら、寝返りを打った。
「やっぱり二人には、笑顔が似合うの」
……キサラさんと決闘するってなったときは、どうしようかと思ったけど。
どうにか丸く収まって、アリスもリーリカも、ユピのそばにいてくれている。
これ以上に幸せなことはないの。
かつての自分と話すことができたら、言ってあげたいの。
「あなたの明日には、素敵がいっぱい待ってるの」――って。
だから、神様。もしもいるのなら、叶えてほしいの。
どうかこれからも、ずっとずっと――――。
二人と一緒に、いられますように。
次からは再びアリス視点の話に戻ります。
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