06 思わぬ幕引き
ゴーレムが一匹残らず駆逐された頃。
太陽はすっかり西に傾いて、空は茜色に染まっていた。
「おつかれさま、みんな」
私たちが校庭に戻ると、そこには毅然とした態度で、カンナさんが立っていた。
「カンナさーん。なんで手伝ってくんないんすか?」
「わたしが行くまでもなく、君たちの力でなんとかなると思ったからね」
「ったく。相変わらず食えない人だなぁ」
キサラさんはやれやれと、わざとらしく首を振る。
しかし特に気にする様子もなく、カンナさんは淡々と告げた。
「それで? キサラ、リーリカ。決闘の続きは、どうする?」
「んなもん、今からできるわけないっしょ。疲れちゃいましたよ、うちは」
キサラさんがため息をついて、リーリカの方に顔を向けた。
「ま。ゴーレムを倒した数だったら、うちの方が上だったけどね」
「……そうですね。やっぱりまだまだ、あたしはキサラさんに敵わないです」
だけど、と。
リーリカは疲れた顔のまま、深々と頭を下げる。
「すみません、キサラさん。あたしはやっぱり……アリスと離れたくないんです。大切な人なんです。ずっとずっと大好きな……と、友達なんです」
「わ、私だってそうです!」
慌ててリーリカのそばに移動して。
私もまた、深く深く頭を下げた。
そして――心からの叫びを、口にする。
「お願いします! 私たちは三人揃って、『フレンドライン』なんです。リーリカが言ってたとおり、この三人でいるからこそ、私は全力で戦うことができるんです! だからお願いです……もう、私のことでリーリカと争うのは、やめてくださいっ!!」
「んー。いいよ」
…………はい?
今、なんて言った。この人。
「カンナさーん。今日の決闘って、引き分けってことでいいんでしょ?」
「ああ。引き分けの場合、必要に応じて再度のセッティングを行うことになる」
「んじゃ、再セッティングはパスってことで」
あっさりと、そんな約束をカンナさんと交わして。
ネコ耳みたいな髪の毛をぴょこんと揺らして、キサラさんはニカッと笑った。
「じゃ、アリス。さっきまでの話は、なかったってことで!」
「…………は、はぁ」
私は思わずぽかんと口を開けて、呆けてしまう。
いや、自分で頼み込んでおいてなんだけどさ。
あんなに私に執心していた人が、こんなにあっさり引いてくるとは、思わなかったんだもん。
「リーリカも、それでいいっしょ?」
「え……で、でも。どうして?」
リーリカも戸惑いがちに、キサラさんに尋ねる。
そりゃそうだ。
この数日間、この人のせいでさんっざん振り回されてきたんだもんね。
唐突な幕引きなんてされたら、動揺くらいするって。
「そだね。アリスと組むより、面白そうなことを思いついたから……かな?」
訝しむ私たちを尻目に、キサラさんはひょうひょうとした態度で。
リーリカの肩に、ポンッと手を置いて――言った。
「ねぇ、リーリカ。うちと、パーティ組まない?」
「は?」
「え?」
リーリカと私が、同時に声を上げる。
後ろで見守っていた群衆も、キサラさんの荒唐無稽な発言に、大きくざわつく。
「それじゃあ、ひとまず決闘は引き分けで終了ということだね。わたしの立ち会いも、ここまでとさせてもらうよ」
ただ一人カンナさんだけは、顔色ひとつ変えずに、淡々とした態度でその場を去って行った。
相変わらず超然とした人だなぁ……。
「で、どう? リーリカ」
そんなカオスと化した校庭で、なんか一人だけテンションの高いキサラさんが、ずいっとリーリカに顔を近づける。
リーリカは引き気味に、キサラさんから距離を取って。
「な、なんで突然、あたしなんですか!?」
「や。さっき戦ってて、面白そうと思ったからさぁ」
「お、面白そうって……」
「やー。最初は魔法使いとコンビで、前衛・後衛ってがっつり決めちゃうのがいいかと思ったんだけどさ。さっきの戦いで、剣士同士で前衛特化型で攻める方が性に合ってるかもって。それで、それなら――リーリカ。あんたみたいに意思が固くて、気の強いタイプが好みだなぁと思ったわけさ」
な……なんて……。
なんて自由で、節操のない先輩なんだ……!!
まるで気ままな猫みたい。
「えっと……それは、無理です」
そんなキサラさんに、小声で応じるリーリカ。
「どして? うちと組んだら、楽しいよ?」
「確かにキサラさんは、剣士として憧れの人です。戦い方を教えてもらえたら、すっごく勉強になると思います。だけど……ごめんなさい」
ちらっと、リーリカが私のことを見た。
なぁに、リーリカ?
私は小首をかしげながら、リーリカのことを見返した。
するとリーリカは、ほっぺたを真っ赤なリンゴみたいに染める。
そしてすぅっと、深く息を吸い込んで。
意を決したように、キサラさんに向かって――言い放った。
「あたしには、心に決めた人がいるんです!」
…………えっと。
何その、愛の告白みたいなセリフ。
そしてその相手って、ひょっとしなくても……私?
ほっぺたが熱くなるのを感じながら、私はリーリカのことを見る。
すると……リーリカもまた、私のことを見返して。
――――くしゃっとした、とてもかわいらしい顔で笑ったのでした。




