04 負けられないから
「二人とも。心の準備は大丈夫かな?」
憎らしいほどの晴天の中。
群衆に取り囲まれた校庭の一角で……カンナさんがそう告げた。
「問題ないっす」
ひょうひょうとした調子で答えるのはキサラさん。
ルミーユ学園の制服の両腰に、双剣を携えている。
キサラさんは野獣のごとき眼光で、正面に立ち尽くす相手を見据える。
「リーリカ。君は?」
「は、はい」
カンナさんに促され、立ち尽くしていた少女――リーリカは、ゆっくりと一歩前に踏み出した。
キサラさんと同じく、ルミーユ学園の制服姿。
右腰に備えているのは、愛用の長剣『ルクシアブレード』。
そんなリーリカの瞳は……いつもより不安げに揺れている。
「リーリカ……」
群衆の最前列に、ユピ・チェリル・ミルミーと一緒に並んでいる私は、ギュッと祈るように手を組んだ。
もう無理だと分かってはいるけれど……このまま決闘がはじまらないでほしいと。
そう願ってしまう。
けれど、そんな望みが叶うわけもなく。
「キサラ。リーリカ。両名はこれより、ルミーユ学園の名のもとに、神聖なる決闘を開始する。両名とも、正々堂々と、全力を尽くして、戦いに挑むことを誓うか?」
「もっちろん!」
「はい」
カンナさんの宣誓に、キサラさんとリーリカが応じた瞬間。
「それではキサラVSリーリカ――試合、開始!」
バチリと。
私たちの目の前で、火花が飛び散った。
キサラさんが挟み込むようにして振り下ろした双剣を、リーリカが『ルクシアブレード』の剣先で防いだのだ。
「へぇ。一撃で決めてやろうって思ったのに、よく反応できたね」
「キサラさんがよく使う戦略ですよね、それ。知ってますよ……実際に戦っているところを、何度も見てきましたから」
「何それ。あんた、うちのファン?」
「そうですよ!」
リーリカがキサラさんの双剣を弾き飛ばした。
ステップを踏むように、後ろに下がるキサラさん。
そんな彼女目掛けて――リーリカが剣を振り下ろす。
「おっと」
それを紙一重で避けて。
今度は双剣を重ねると、キサラさんはそれを横薙ぎに振るう。
だけど……リーリカはそれを、剣の鍔で受け止めた。
「おおっ? これも読んでた?」
「それも見たことあります。だってあたしは、キサラさんのファンだから!」
鍔を思いっきり持ち上げる。
その結果、キサラさんの両手は顔の近くまで弾かれる。
そうして空いた胴体目掛けて――リーリカが剣を薙ぐ。
空を切る『ルクシアブレード』。
「っとと。あっぶな」
瞬時にその攻撃を見切ったキサラさんは、跳躍してリーリカと距離を取っていた。
わずか数秒間の攻防。
だけど私には、それが永遠にも感じられた。
見守っていた群衆も、思わず息を呑んでいる。
「ねぇリーリカ。あんた、うちのファンってマジ?」
「キサラさんに憧れない剣士は、ルミーユ学園にいないと思います。あたしもそうです。先輩みたいになりたくって、何度も戦い方を見て、勉強してきました。初めてお話しできたときは、心臓がバクバク鳴って張り裂けそうなくらい……嬉しかったです」
剣を正面にかまえたまま、リーリカが告白する。
それは間違いなく、リーリカの本心。
リーリカはキサラさんに憧れていた。
ううん……今でも、憧れているんだ。
「それなら分かるっしょ? アリスはうちと組んだ方が、力を発揮できるんだって」
「いいえ。アリスはあたしたちと一緒にいる方が、強いと思います」
「どうして? うちの実力は、知ってるでしょ?」
「アリスは、大切に思う人の前でこそ、全力を発揮できるんです。人一倍優しくって、友達思いな子だから。自分で言うのもおこがましいですけど……アリスはあたしとユピのことを、一番の友達だと思ってくれてます。だからアリスは、『フレンドライン』でこそ力を出すことができるって、そう思うんです」
「だから、アリスを渡さないっていうわけ?」
「いいえ。アリスを渡したくないのは、あたしがアリスを好きだからです。誰にも、渡したくないからです。たとえそれが――憧れの、キサラさんだったとしてもっ!!」
叫ぶようにそう言って、リーリカはキサラさん目掛けて駆け出した。
「面白いねぇ、リーリカ!」
舌なめずりしながら、双剣をかまえてリーリカを迎え撃つキサラさん。
三本の剣が中空を踊り、火花が飛び散り、甲高い音が響き渡る。
まるで剣劇のような、華麗で激しいぶつかり合い。
「すごい……リーリカちゃん、ボクとやったときとは違う! 落ち着いてキサラさんと渡り歩いてる!!」
「本番に強いですわね、リーリカさん。あんなに平静を失っていたというのに、今日は冷静にキサラさんと戦って……」
「……それがリーリカなの」
驚きの声を漏らすミルミーとチェリルに、ユピが応える。
「きっと不安でいっぱいだけど、その不安も噛み殺しちゃってるの。大切な人を護りたい……その気持ちだけで、自分を奮い立たせているの」
「リーリカ……っ!」
私のために、全力以上の力を出しているリーリカ。
その姿に、私は胸が熱くなる。
だけど――それでも。
リーリカの実力は、キサラさんには及ばない。
「ほらよっと!」
――――キンッ。
そんな音が聞こえたかと思うと……弾かれた『ルクシアブレード』が、地面に突き刺さった。
ドサッと、その場に尻もちをついてしまうリーリカ。
くるくると二本の短剣を回しながら、キサラさんはそんなリーリカへと近づいていく。
「なかなかやるねぇ。久々に燃えちゃったよ」
なんだか嬉しそうに笑いながら。
キサラさんは一歩ずつ、リーリカを追い詰める。
「だけど……そろそろ、おしまい」
終わりの宣告。
それと同時に、キサラさんは双剣を振りかぶって――――。
「きゃああああああああああああああああああ!!」
――まさに、そのときだった。
学園の外から、けたたましい悲鳴が上がったのは。




