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中二病を極めた私、異世界魔法を凌駕する  作者: 氷高悠
第2章 第2話「友達と先輩に取り合われる私、見てることしかできない」
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03 不安だらけのリーリカ

 埒があかない。


 キサラさんは自分勝手だし、カンナさんは考えが深遠すぎてついていけない。

 このままじゃあ、リーリカとキサラさんの決闘は止められない。


 私を取り合って、人と人とが諍いを起こす?

 オルタナギアに来る前の人生じゃあ、考えられなかったことだよ。


 その上、それが女の子同士だなんて……。

 とんだハーレム系物語としか、いいようがない。



 そんな絶望感に浸りながら、私は午後の授業を過ごすことになった。


 当然、なんにも頭に入ってくるわけもなく。

 誰かと雑談をする、元気もなくって。


「はぁ……」


 私は本日何度目かも分からないため息をつきながら、一人で寮への帰路についた。

 どうしたらいいっていうんだ、こんな状況。


 そうして、寮の庭園に足を踏み入れたところで――。


「いっくよー、リーリカ!」


 ミルミーの元気いっぱいな声に、ふっと意識を引き戻される。

 ふと向こうの方に目をやると、そこには愛用の斧『ハンマーダンパー』をかまえたミルミーの姿があった。


 そして彼女と対峙しているのは――リーリカ。

 同じく愛用の長剣『ルクシアブレード』を振りかぶり、まっすぐにミルミーのことを見据えている。


「はぁ!」


 そんなリーリカ目掛けて……ミルミーは宙返りしながら『ハンマーダンパー』を振り下ろした!


 響き渡る、鈍い音。

『ルクシアブレード』で攻撃を受け止めたリーリカは、ギリッと歯噛みしながら、ミルミーを弾き返す。


 くるっと回りながら着地するミルミー。

 そして間髪入れず地を蹴ると、リーリカ目掛けて走り出す。


「隙だらけだよ、リーリカ!」

「くっ……!?」


 斧の一撃を喰らわないように、長剣をかまえるリーリカ。

 だけど――ミルミーは、それを読んでいた。


 剣と斧がぶつかり合う直前で、地面を踏みつけ、方向転換。

 リーリカの右横に回り込むと……そこから斧の背部で、リーリカの胴をぐわんと殴りつける!


「きゃっ!?」


 思わぬ不意打ちに、リーリカは小さく悲鳴を上げて、倒れ込んだ。

 その首筋にすっと――『ハンマーダンパー』の刃先を突きつけるミルミー。


 勝敗は、決した。


「リーリカ!」


 私は慌てて、リーリカのもとへと駆け寄る。


「大丈夫、リーリカ!?」

「ア、アリス……」


 気まずそうに私から目を逸らすと、うな垂れるように首を折るリーリカ。

 私はギュッとリーリカを抱き締めて、顔を上げてミルミーを見る。


「一体どうしたっていうの、ミルミー! リーリカに乱暴するのは、やめて!!」

「どうしたっていうか……特訓っていうか……」


 ミルミーが困ったように頬を掻きつつ、後方を見やる。

 そこには同じく眉をひそめた、チェリルとユピの姿があった。


「アリスさん、貴方ねぇ……練習試合の途中で乱入してくるとか、どこまでリーリカさんに過保護ですの?」

「れ、練習試合……?」

「そうなの。キサラさんとの決闘に備えて、ミルミーさんと……」


 チェリルとユピの言葉に、私はカッと頬が熱くなる。


 うわぁ、恥ずかしい。

 リーリカを心配するあまり、練習試合とも気付かずに、ミルミーに突っかかっちゃったよ……。


「ご、ごめんねミルミー」

「別に気にしてないよー。アリスちゃんは、リーリカちゃんが大好きだねー」


 斧を肩に担いで、にっこりといつもみたいに笑うミルミー。

 だ、大好きとか言われると、ちょっと照れちゃうけど。


「それにしても……なんですの、今の戦いは?」


 あたふたする私から視線を外し、チェリルが言う。


「リーリカさん。いつもの調子はどうしたんですの? 完全に防戦一方でしたわよ」

「うん……なんだかリーリカらしくなかったの。もっと相手に切り込んでいくのが、リーリカのいいところなのに」

「………そう、だね」


 自分でも自覚があったのか、俯いたままリーリカが呟く。


 ――確かにさっきの戦いは、リーリカらしくなかった。

 斧使いのミルミーは、武闘派タイプの一年生の中だと、かなりの実力者ではある。


 だけどそれは、リーリカも同じ。剣士としては一流だし、本気でミルミーとぶつかれば、互角以上に戦うことができるはず。

 なのに防戦一方なんて……なんだかおかしい。


「ごめんね、ミルミー。もう一回、お願いできるかな?」


 弱々しく立ち上がり、不安そうな目でリーリカが言う。

 そんな彼女に対して、ミルミーは静かに首を横に振る。


「……お断りだよ。今のリーリカちゃんとやっても、意味がないもん」

「お願い! あたしはキサラさんに勝つために、強くならなきゃいけないの!!」

「今のリーリカちゃんは、いつもより弱いよ」


 きっぱりと。

 ミルミーはその事実を、突きつけた。


「焦る気持ちは分かるよ? だけどその焦りが、完全に空回ってる。このまま続けても……今日のリーリカちゃんじゃあ、ボクに勝てない。そして多分、余計に焦りが募るだけだと思うんだ」

「けど、だけど!」

「落ち着きなさい、リーリカさん!」


 チェリルがぴしゃりと、声を荒らげた。

 そしてリーリカは……唇をギュッと噛み締めて、目を伏せる。


「あたしは……あたしは、アリスを……」


 そんな光景を、呆然と見守ることしか。

 私には、できなかった。



 ……そして、二日後。

 いよいよ決闘の当日が、訪れてしまった。

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