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中二病を極めた私、異世界魔法を凌駕する  作者: 氷高悠
第2章 第2話「友達と先輩に取り合われる私、見てることしかできない」
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01 決闘なんて、認めない

 …………なんでこんなことに、なっちゃったんだろう?



「それじゃあ決闘は、二日後ってことで」

「勝った方がアリスを、自分のものにできるってルールでいいかな」

「立会人はうちの方でお願いしとくから。よろしく~」


 矢継ぎ早にそんなことを取り決めたかと思うと、キサラさんはさっさと教室から退散していった。

 残された私たちは、あまりの出来事に呆然と、立ち尽くしていることしかできなかった。


「リーリカと、あのキサラさんが決闘?」

「マジかよ。いくらリーリカでも、あの『踊る閃光(ダンシング・レイ)』には敵わねぇだろ」

「負けたらキサラさんとアリスさんで、パーティを組むんだって。『フレンドライン』は解散になっちゃうのかな?」


 私たちのごたごたを見守っていたクラスメートたちが、ざわざわと思い思いに話しはじめる。


「いい加減してよ……キサラさんってば」


 私は反対側の手首をギュッと握り締めて、憤りを口にした。


 なんで私なんかを巡って、こんな諍いが起こらないといけないんだ。

 あんな冴えないぼっちだった、この私のためなんかに。


 ……ううん。本当は分かってる。


 オルタナギアでの私は、かつての有栖田真子とは違う。

 凄まじい魔力を持った、みんなから一目を置かれるような存在で。その力を欲しがってる人だって、きっといっぱいいる。


 それは分かってる。分かってるんだけど……。


「私は『もの』じゃないのに。私は私の意思で、リーリカやユピと一緒にいるのに。なのに『力がすべて』だなんて……そんなの乱暴だよ」

「だけど、決闘の契りは交わしちゃったの。もう、逃げられないの」


 ユピが涙目で、あたふたと両腕を動かしている。

 一方のリーリカは、キサラさんの行ってしまった方向を見つめたまま、固まっている。


「リーリカ、だいじょう……って、うわぁ!?」


 おそるおそるリーリカの顔を覗き込んで、私は思わず素っ頓狂な声を出してしまった。


 だってリーリカってば、顔面蒼白。

 その目には生気がなく、まるでゾンビみたいなんだもん。


「まったく。無茶な約束をしましたわね」


 ざわめくクラスメートたちの中から、チェリルがすっと歩み出てきた。

 そしてわざとらしくため息をついて、リーリカの肩を叩く。


「リーリカさんなら分かっているでしょう? キサラさんがどれほどの実力者なのか。魔法のカンナ様、剣のキサラさん。他を寄せ付けない圧倒的な力で、ルミーユ学園のトップに君臨している方ですのよ? わたくしたち一年生が、勝てる相手ではありませんわ」

「分かってる……分かってるわよ……」


 ギュッと拳を握り締めて、リーリカは俯いて立ち尽くす。

 その肩は心なしか、震えているように見える。


「あー。チェリルってば、リーリカちゃんを泣かしちゃだめだよー?」

「な、泣かせてなんかいませんわ!」

「そ、そうよ! 泣いてなんかいないわ!!」


 ミルミーの言葉に、チェリルとリーリカが同時に叫ぶ。

 そうして顔を上げたリーリカを、ミルミーはつぶらな瞳で見つめて。


「リーリカちゃん。こんな勝負、やっぱり受けるべきじゃないよ」

「そ、そうだよリーリカ。今からでもキサラさんに頼み込んで、なかったことにしてもらおう?」


 ミルミーの言葉にかぶせるように、私も主張する。

 だってこんな、私の気持ちを置き去りにした決闘なんて、絶対に認めたくないもん。


「だけど、決闘の段取りはついちゃったし……」


 リーリカがいつもより低いトーンで呟く。


「何か方法はないの? チェリルさんだったら、いいアイディアが思いつくような気がするの」

「わ、わたくしですの?」

「そうなの。前にアリスに決闘を申し込んだチェリルさんなら、色々と知っているような気がするの」

「う、うーん……決闘の段取りが組まれた以上、反故にはできない決まりですし……」


 チェリルが腕組みをして、うんうんと唸る。


 お願い、チェリル。

 私は手を組んで、祈るようにチェリルを見つめる。


 すると、チェリルが「あっ」と声を上げた。


「そうですわ。ひとつだけ方法が、あるかもしれませんわ」

「おー。さすがはチェリルだねー」

「どんな方法なの、チェリル?」

「さっき申し上げたとおり、決闘の段取りがついてしまった場合は、反故にできないのが規則です。ですが……今回の場合、まだすべてのセッティングが済んだわけではありません」


 えーと……つまり、どういうこと?


「そうか、なの。まだ……立会人が決まってないからなの?」

「そのとおりですわ、ユピさん。決闘は立会人がいないと成立しない。そしてキサラさんは、これから立会人をお願いすると言っていた……つまり、その方を説得して立会人を断らせれば……」

「決闘は成立しない……そういうことか!!」


 さすがチェリル、あったまいい!

 私は小さく頭を下げて感謝の気持ちを伝えると、廊下を駆け出した。


「ちょっ……アリスさん!? どこへ行くんですの!」

「決まってるじゃん、キサラさんのところだよ。今すぐ追い掛けて、立会人をお願いするところで止めてみせる!」


 リーリカは、学年では随一の剣士だけど。

 学園トップクラスの実力者であるキサラさんが相手じゃあ、分が悪すぎる。

 だったらこんな勝負……私の手で、反故にしてみせる!


 だって私はリーリカやユピと、ずっと一緒にいたいんだから。


「アリス!」

「待っててね、リーリカ。私、絶対に決闘なんて取りやめさせてみせるから!」



 そして私は、キサラさんを探して、階段を駆け上がっていく。

 この無意味な決闘を、止めるために。

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