06 力がすべて
「やっほー、アリス」
翌日のお昼休み。
お弁当を持って中庭に出ようとしていた私たち三人の前に、ひょこっとキサラさんが顔を出してきた。
ここ、一年生の教室なんですけど。
「昨日の返事が聞きたくってさ。つい来ちゃった☆ で、どう? うちと一緒にパーティを組んでくれる気になった?」
ネコ耳みたいな髪をぴょこぴょこと揺らして、キサラさんは上機嫌に笑う。
そんな楽しそうな顔をされると、ちょっと心が痛いけど……はっきり伝えなくっちゃ。
私は何があっても、パーティを変えるつもりはないんだって。
「キサラさん」
私は意を決して、キサラさんの目を見つめる。
「何度もお誘いしてもらいましたけど、私は……」
「あ、やっぱりー? アリスもうちと、パーティを組んだ方がいいって思ってくれたんだ!」
はい?
私の言葉を遮って勝手なことを言い出したキサラさんに、私は思わず眉をひそめる。
だけど喋り出したキサラさんは、止まらない。
「うんうん。うちが敵をばっさばっさと切り捨てて、最後は後ろからアリスの魔法。これで倒せない敵なんて、まずいないもんね。最強パーティの誕生だ!」
「あ、あのですね。キサラさん……」
「てなわけで、今日からよろしくっ! パーティ名は何がいいかなぁ。やっぱ格好いいのがいいよね」
だめだ、この人。
ぜんっぜん、こっちの話を聞く気がない。
っていうか、思い込みだけで勝手に話を進めちゃってるよ……。
「待ってください、キサラさん!」
「ん?」
そうして私が困り果てていると。
唇をギュッと固く結んだまま、リーリカが一歩前に踏み出した。
その肩は心なしか震えていて――思わず抱き締めてあげたくなる。
「確か……リーリカだっけ? 何か用?」
「昨日も言ったとおりです。アリスは絶対に、渡せません。渡したく、ありません」
「でも、アリスはうちと一緒になりたがってるんだよ?」
「それはキサラさんの思い込みです! アリスは、あたしたちと一緒にいたいって言ってるんです!」
「え……そうなの?」
首をかしげるキサラさんに向かって、私は大げさに首を縦に振る。
「マジかぁ……まだ納得してもらえてないとは、思わなかった」
ようやく私の気持ちを察したらしいキサラさんは、額に手を当てながら、ガクッと肩を落とした。
ここまでやらないと分かってもらえないとか、本気で突っ走るタイプの人だな。この人。
そんなキサラさんに向かって、リーリカはさらに言葉を続ける。
「分かってもらえましたか、アリスの気持ち。キサラさんの言いたいことも、分かります。だけどアリスの意思は、変わらないんです。だから申し訳ないですけど……これ以上アリスに付きまとうのは、やめてください!」
「んー……。アリスにふさわしいのは、うちより自分たちだって。そう言いたいのかな、リーリカは」
「そ、そうです! 力ではもちろん、キサラさんに及ばないですけど……」
ありがとう、リーリカ。
私の代わりに、キサラさんに思いを全部ぶつけてくれて。
これでキサラさんも、きっと納得してくれるはず――。
「力は及ばないけど、アリスにふさわしいのは自分……なるほどねぇ」
だけど、キサラさんは。
不穏な笑顔を浮かべながら、リーリカの方へ近づいていく。
そしてリーリカのあごをくいっと持ち上げて、自分の方に向き直らせると。
「ここはルミーユ学園。力がすべてじゃない?」
ぞくっと。
背筋が凍りそうな冷たい声で、キサラさんは告げた。
そして唇が触れそうなほど、キサラさんはリーリカに顔を近づけて。
「強いもの同士が組んで、魔王グランロッサを倒すだけの実力を手に入れる。それこそがこの学園の至上命題。なのに、力が及ばないと分かっていてそばにいたいなんて……傲慢なんじゃないかなぁ?」
「そ、それは……」
獅子のように鋭いキサラさんの眼光に、リーリカが言いよどむ。
そんなリーリカの足元に――ザクッと。
キサラさんの持つ双剣の一本が、突き刺さった。
私もユピも、もちろんリーリカも、キサラさんの行動に目を見張る。
「あんたが一番アリスにふさわしいって言うんなら、力尽くでうちを黙らせてみてよ。そっちの方が、ルミーユ学園の生徒らしいってもんじゃない?」
「あたしが、キサラさんを……力尽くで?」
リーリカが表情を失う。
私とユピも、言葉をなくす。
そんな私たちと、ざわざわと沸き立っている野次馬のみんなを、ぐるりと見回して……。
キサラさんはきっぱりと、告げた。
「決闘を申し込むよ、リーリカ」
……なんてとんでもないことに、なっちゃったんだろう。
凍りついた空気を肌で感じながら、私はぶるりと身体を震わせた。




