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中二病を極めた私、異世界魔法を凌駕する  作者: 氷高悠
第2章 第1話「グランゴーレムを倒した私、先輩に目をつけられる」
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05 揺れる乙女心

 キサラさんを生け贄に差し出して、私たちはどうにか寮母さんに見とがめられることなく、寮室に帰ってくることができた。

 ただ部屋に帰ってくるだけだっていうのに、ひどい目に遭ったなぁ。


「なんだか、どっと疲れたの」


 ユピがぼやきながら、ベッドの上に棺桶をセットしはじめる。


「ユピ。寝るならお風呂、早く入りにいっちゃおうよ」

「なんだかそれすら、面倒なほどなの……」

「女の子なんだから、お風呂はきちんと入らないと。私とリーリカもすぐ準備して、一緒に行くから。ねぇ、リーリカ?」


 そう言って、リーリカの方を振り返ると。

 じとっとした上目遣いで、リーリカは私の方を見ていた。


「……えっと」


 その瞳には、うっすらと涙が滲んでいて。

 私は思わず、言葉に詰まってしまう。


「それじゃあユピは、先にお風呂行ってるの」


 えっ!?


 素早い動きで着替えを準備して、飛び出るようにお風呂に向かおうとするユピ。

 私は慌てて、その右手を掴む。


「ま、待ってよユピ! 三人で一緒に行こうよ!?」

「ユ、ユピは一人でお風呂に行くの。二人は後でごゆっくりなの」

「今の状況分かってて、逃げようとしてるよね!?」

「な、なんのことか、わーかーらーなーいーのー!!」


 バタン。

 寮室の扉が閉じられる。


 シンと静まり返った部屋に残っているのは、私と――涙目でじっと私を見ているリーリカだけ。


 ……こうなったら、腹を括るしかないか。

 私は意を決してベッドに腰掛けると、リーリカのことをまっすぐに見据える。


 リーリカは私から、視線を外さない。


 その瞳はなんだか、怒ってるような、焦ってるような……不安そうな色をしていて。

 なんだか、いつもの元気なリーリカとは違う。


「……ユピ、気を遣ってくれたんだね」


 ふっと扉の方に視線を向けて、リーリカが呟く。

 そうかなぁ? 空気が重いから、逃げ出しただけのような気もするけど……。


「アリスと二人で話がしたかったから、ユピには後でお礼を言わないとね」

「どうしたの、リーリカ? なんだか、いつものリーリカらしくないっていうか……」


 私は思いきって、本題を切り出した。

 リーリカは再び視線を戻して、私の目をじっと見つめる。

 今にも涙が零れ落ちそうな顔で。


「……アリスはさ。キサラさんにパーティ組みたいって言われて……どう思った?」

「キサラさん?」


 どう思ったか、って言われてもなぁ。


 嵐のように現れて、私をパーティに誘ってきた不思議な先輩。

 正直言って、困った先輩に絡まれたって印象しかないんだけど。


 でも――キサラさんって、学園一の剣士なんだよね。

 ということは、同じ剣士であるリーリカにとっては、憧れの存在なはず。

 あまりぞんざいな言い方は、しづらいよなぁ。


「……やっぱりちょっと、悩んでるんだ」


 そうして逡巡していると。

 リーリカがぽつりと、寂しげに呟いた。


「あたしやユピより、キサラさんの方がずっと強くって……実力のあるアリスには釣り合ってる。だからアリスは、どうしようか迷ってるんだよね?」

「リ、リーリカ? 私は別に、迷ってなんか……」

「分かってるんだ。今のあたしじゃあ、アリスと釣り合ってないってことくらい。アリスにはもっと、お似合いな人が……いるってことくらい」


 ――何を言ってるの、リーリカ?

 釣り合うとか釣り合わないとか、よく分かんないよ。


 私は……私は、ただ……。

 この世界でできた、初めての友達のあなたたちと――。


「――だけどっ! やっぱりあたしは、アリスと一緒にいたいっ!!」


 ふわっと。

 ベッドから立ち上がったリーリカが、私の身体に抱きついてきた。


 その勢いで私はバランスを崩し……ベッドに押し倒されたような形になる。


「一緒に……いたいんだよ」


 ぽつりと。

 温かな雨粒が、私の頬を濡らした。


 私に覆い被さったリーリカの瞳は、不安げな雨模様。

 いつも元気で、快活なリーリカの――しおらしい表情。


「アリス……ごめんね。キサラさんとのこと、応援してあげられなくって。あたし、嫌な子だ。アリスのことより、自分のことばっかり考えてる。ごめんね……ごめん……」

「……リーリカの、ばか」


 私はそう呟いて、リーリカの腕を掴んだ。

 そしてごろんと、リーリカをベッドに押し倒し返して。


「ア、アリス……?」

「勝手なことばっか、言わないでよ!」


 今度は私が、リーリカに覆い被さるような格好で。

 思わず声を荒らげてしまう。


 だけど――いったん堰を切った言葉は、もう止められない。


「私がいつ、キサラさんとパーティを組みたいなんて言った? 私は最初っからずっと、あの人とパーティを組むつもりなんてない! 『フレンドライン』以上に素敵なパーティなんて、考えられないもの!!」


 唇が震える。

 目頭が熱くなる。

 だけど私は、言葉を続ける。


「釣り合うとか釣り合わないとか、よく分かんないよ。こっちこそ、私なんかがリーリカやユピと一緒にいていいのか、不安になるくらいだよ。だけど……だけど私は。この世界でできた、初めての友達のあなたたちと――ずっと一緒にいたいから!」


 そうだよ。

 ずっと一緒に、いたいんだよ。

 リーリカとユピと一緒に、ずっと笑っていたいんだよ。


 だから……だから……っ!


「――かわいい顔が、台無しだよ。アリス」


 涙でぐしゃぐしゃになった顔で、リーリカはきれいに笑って。

 私のほっぺたを伝う雫を、そっと拭き取ってくれた。


 そして、大きく両手を広げて。


「……ありがとう、アリス。あたしも一緒。『フレンドライン』以外のパーティなんて、考えられない。アリスとユピと……ずっと一緒に、笑っていたいんだ」

「……リーリカ」


 リーリカの柔らかな身体を、私は強く抱きすくめる。

 彼女の胸にある不安を、全部壊してしまうほどに、強く。


 ――ゴトンッ。

 ドアの向こうで、小さな物音が聞こえた。


 抱き締め合ったまま、私とリーリカは顔を見合わせ、「あははっ」と声を上げて笑う。

 そっか。やっぱり心配して、様子を窺ってくれてたんだね。


「入ってきて、大丈夫だよ」

「あたしだったら、もう大丈夫だからさ」


 私たちの声掛けから一拍置いて――ガチャリと、扉が開いた。

 そこには私たちと同じく、涙で顔を歪ませた、大切な友達が一人。


「……ユピも、同じなの。アリスとリーリカと、ずっと一緒にいたいの」


 私とリーリカは同時に立ち上がると、飛びつくようにしてユピに抱きついた。

 そして、私たち三人は――そっと身を寄せ合う。



 カーテンの向こうでは、真ん丸な月が、穏やかに微笑んでいた。

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