04 キサラさんの実力
高い壁を飛び越えて敷地外へと消えたキサラさんを追って、私たちは慌てて門に向かって走っていく。
「な、なんのつもりなんだろう、キサラさんって人……」
「学園の外は、夜になったらモンスターがいっぱいいるの。危険なの!」
「…………」
ユピの言うとおり、夜は学園外に絶対出ないよう、先生たちからも口酸っぱく指導されている。
それだけ、危険があるってことなんだと思う。
なのに――キサラさんは躊躇なく、その境界線を越えた。
本当に破天荒というか、好き勝手な人というか。
「あ、アリス! あそこにキサラさんがいるの!!」
門のあたりからきょろきょろと周囲を見回していると、ユピが真っ先に声を上げた。
そちらの方を向くと、そこにはまさに、ゴブリンの群れに囲まれているキサラさんの姿があった。
「キサラさん!」
「お、来たね。後輩諸君」
芝居がかった口調でそう言って、キサラさんはにかっと笑った。
そして――両手に双剣をかまえる。
「『ドグリィ』と『マグレイド』――うちの相棒。こいつらがあれば、うちに敵なんてないんだよね」
「何言ってんですか! 早くこっちに戻って来てください!!」
「まぁ見てなって。うちの実力ってやつを。そして――惚れ込んじゃってよね。パーティを組みたいって思うほどにさ!」
そう言い捨てて……キサラさんはゴブリンの群れ目掛けて、駆け出した!
そして、跳躍。
一匹のゴブリンを踏み台に、空中で一回転して、その背後に着地。
反応の遅れたゴブリンたちに向かって、双剣を振り下ろす。
リーリカの『ルクシアブレード』とは違い、キサラさんの武器は二本の短剣。
クリティカルな威力は、発揮できないはず。
なのに……。
「おっしゃあ、いっくよぉ!」
キサラさんが一撃を振るうたびに、ゴブリンは地に倒れ、その動きを止める。
一体、二体、三体……。
ゴブリンの亡骸は、見る見るうちに積み上げられていく。
「すごい……短剣であんな威力を……」
「しかも、すごいスピードなの。まるで敵を寄せつけてないの」
「――『踊る閃光』」
リーリカがぽつりと、呟いた。
「キサラさんの二つ名。踊るように戦い、閃光のように敵を薙ぎ払っていく……すごい。これが学園一との呼び声も高い、キサラさんの剣技」
戸惑いと羨望をない交ぜにしたような瞳で、リーリカはキサラさんを見ている。
その視線の先で、キサラさんは踊るように。
閃光のように。
走り、跳躍し、切り裂き、また走り出す。
うわぁ……これが、学園一の剣士の実力なんだ。
そうして――キサラさんが数十匹のゴブリンを葬り去ったところで。
「ガアアアアアアアアッ!」
「ん? おっと」
ガシッと。
一匹のゴブリンが、キサラさんの脚を掴んだ。
そしてそのまま、その鋭い歯を突き立てようと、大口を開ける。
「危ない、キサラさん!」
私は思わず門を飛び出して、両手をクロスした。
そして慌てて、禁断教典『シュバルツアリス』に書き記した呪文を詠唱する。
「氷河の大地を切り裂いて、凍てつく息吹で世界を包め――『雪の女王』!!」
瞬間、凄まじい冷気が大地を駆けて。
キサラさんの脚にしがみついたゴブリンも。
その周囲にかまえていたゴブリンたちも。
すべてを一斉に凍りつかせてしまう。
「おおー。やるねぇ、アリス」
嬉しそうに笑いながら、キサラさんは脚にまとわりついた氷のゴブリンを、思いきりよく蹴飛ばした。
ガシャンという音とともに、怪物は粉々に砕け散る。
「それそれ。その力が、うちは欲しいんだけどなー」
「……今のは、先輩が危なかったから手助けしただけです」
あくまでもパーティを組む気はない。
その意思表示をしながら、私はゆっくりと両手を下ろした。
キサラさんの周囲で身動きをするモンスターは、もういない。
ひとまずキサラさんの剣技と私の魔法で、近辺の敵は全滅させることができたみたい。
「こーんなに敵を圧倒するほど、お互い強いのに?」
「それをアピールするためだけに、自分から危険に飛び込んでいく人とは、パーティなんて組めないです」
「じゃあもうちょっと、おとなしくするからさぁ」
「そういう問題じゃないんです。私にはリーリカとユピがいるし、学年を越えてパーティを組むこと自体――」
「そこで何をやってるんですか!!」
そのときだった。
学園の敷地内から、聞き覚えのある声が聞こえてきたのは。
「ま、まずいの。寮母さんの声なの!」
「見つかったら、怒られるくらいじゃ済まないよ!」
「ああ。それなら、うちに任せて」
軽い調子でそう言うと、キサラさんは跳躍し、私たちの真横に着地した。
そして双剣をしまうと。
「ここはうちが引き受けるから、あんたたちは逃げな」
ウインクなんかして、格好よくきめたつもりのキサラさん。
いや、そんなことされましても。
この状況のすべてが、キサラさんのせいですからね。
ぜんっぜん格好よくないですよ?
「どーせ、うちは怒られ慣れてるし。気にせず行っちゃって」
「なんの自慢にもならないですね……」
「ああ。でもアリス。うちはまだ、諦めたわけじゃないからね? 誰とパーティを組むべきなのか、よーく考えといてねっ!」
捨てゼリフのように、そう言い残して。
キサラさんは寮母さんの方へと駆け出していった。
私たちは三人で顔を合わせて頷きあうと、そーっと別方向へと歩き出した。
申し訳ないけど、キサラさんには責任を取って、私たちの身代わりになって怒られてもらおう。
はぁ……まったく、災難だったな。
困った先輩も、いるもんだよね。




