03 学園一の剣士な人
「リーリカ。リーリカ!」
「目を覚ますの!」
「はっ!?」
取りあえず硬直したまま動きを止めていたリーリカの目を、二人がかりで覚まさせる。
「あ、あたし、夢を見ていたの? なんだか巨大なプレゼントボックスの中から、キサラさんが飛び出してきて……あ、あはは。そんなこと、あるわけないもんね。ごめんごめん、寝ぼけちゃって……」
「うちなら、ここにいるよ」
「へっ!?」
背後から聞こえてきた声に、リーリカは再び固まる。
そして、ギシギシと首だけで振り返って。
「キ、キサラさん!? や、やっぱり本物!?」
「そゆこと。正真正銘、本物のキサラだよ、うちは」
ネコ耳状の髪をゆらゆらと揺らしながら、キサラさんはにっこりと笑う。
その笑顔に、リーリカは真っ赤になってしまう。
うーん。なんだかリーリカ、いつもと様子が違うような……。
「剣士のリーリカにとって、キサラさんは憧れの存在なの。チェリルにとっての、カンナ様みたいなものなの」
ユピがこっそり耳打ちしてくる。
ああ、そっか。そうだよね。
学園一の剣士なんて言われている人を目の当たりにしたら、同じ剣士として緊張しちゃうよね。憧れとか羨望とか、そういうので。
だけど、学園事情に疎くって、剣士でもない私からすれば……。
「ま、それはいいとして。アリス? プレゼントなうちを、受け取ってくれる気になった?」
……この人は、意味不明な発言をする、得体のしれない先輩にしか見えない。
「いえ……すみませんが、よく分かりません」
「んー、察しが悪いなぁ。じゃあストレートに言っちゃうよ? アリス……うちと、パーティを組まない?」
私のことをビシッと指差して、キサラさんは猫みたいに口を丸めた。
突然の申し出に、私はぽかんと口を開けてしまう。
「わ、私とキサラさんが、パーティを?」
「そ。ほら、これでも一応、剣士としては有名だし? アリスにとっても、悪い条件じゃないと思うんだけど」
「で、でも。どうしてキサラさんが、私なんかと……」
「謙遜しちゃってさぁ。かわいいねぇ、後輩」
ニヤッと口角をつり上げて、キサラさんは私の頬に手を添える。
そして、唇が触れそうなほどに顔を近づけて。
「あんたがグランゴーレムを倒した話題で、学園中はもう持ちきりさ。一年生の魔法使いアリスといえば、誰もが振り向くレベル。カンナさんの再臨なんて、持ち上げてる人もいるくらいだっての」
「私がカンナさんの!? と、とんでもないですっ!!」
「意外と自己評価が低いんだねぇ。ま、最初はそれでもいいさ。うちが徹底的に鍛え上げて、自信をつけてあ・げ・る・か・ら!」
そう言ってトンッと、私の胸に触れると。
キサラさんはしな垂れ掛かるように、私の肩に頭を預けてきた。
ネコ耳状の髪の毛から、爽やかなシャンプーの香りが漂ってくる。
「ね? だからさぁ、うちとパーティを組んでよ。悪いようにはしないから」
「だ、だけど。キサラさんにだって、他のパーティがいるんじゃあ……」
「いたこともあったけどねぇ。うちって割と自由人だから。なかなか合う奴がいなくって、今はフリーの状態さ」
自由人っていうか、傍若無人って感じですよ。先輩。
雰囲気からなんとなく察してたけど、この人――協調性とか、全然ないタイプなんだろうなぁ。
「で、でしたら私も、多分合わないと思いますし。それに学年を越えてパーティを組むなんて、聞いたことないですし」
「もー、細かいことをぐだぐだと! いいんだよ、そういうのは気にしなくって。細かいことは全部、うちがぶった切ってやるから!!」
いやいや。ぶった切られても。
さっきから何を言ってるんだ、この人は。
「ちょっ、ちょっと待ってください!!」
どうやって断ったものか逡巡していると。
私の後ろから、リーリカが大きな声を上げた。
その声はどこか、震えているような。
「んー? 誰かな、アリスの友達?」
「アリスの友達で、パーティメンバーの、リーリカです!」
「ああ、『フレンドライン』とかっていうパーティの……そりゃあ、ちょうどいいや。ねぇ、リーリカ? うちにアリスをくれない?」
「あ、あげません!」
気安い口調でとんでもないことを言うキサラさんに向かって、リーリカはきっぱりと言い放った。
その返答が気に入らないのか、キサラさんは少し、ムッとした表情になる。
「どうして? だってアリスの実力と釣り合うカップルとなれば、うちを置いて他にないと思うんだけど」
「カ、カップ……!? だ、だめです! いくらキサラさんだとしても、アリスは渡せません! アリスは、あたしの大切な人だから!!」
リーリカは、私の前に踏み出して。
唇を噛み締めながら、震える身体で両手を広げた。
絶対に私を護ってみせるって……そんな決意を滲ませながら。
「リーリカ。ありがとう」
そんなリーリカのことを、私は後ろから抱きすくめた。
リーリカはちょっと戸惑いがちな瞳で、こちらを見る。
「ごめんね、アリス。だけど、あたし……アリスと一緒に、いたくって……」
「ううん。いいんだよ、リーリカ。私だって、リーリカと同じ気持ちだから」
「アリス……」
「んー。そっかぁ」
そうして、私とリーリカが、互いの体温を確かめあっているのを見て。
キサラさんは困ったように、ぽりぽりと頭を掻いた。
「あくまでも、うちとパーティを組み直す気がないって……そう言うんだね、アリス?」
「はい。私はリーリカとユピと、三人でやりたいです」
「なるほどねぇ。だったら……」
はぁ、と小さくため息をついて。
キサラさんは両腰の双剣に手をかけた。
そして――思いきり跳躍して、真横にあった大木の枝に着地する。
「意地でもうちとパーティを組みたいって、思わせてあげるから」
「意地でもって……どうするつもりですか?」
「そりゃあ、もちろん――こうさ!」
そう宣言すると同時に。
キサラさんは枝を蹴りつけて……。
学園の敷地外へと、飛び出していった。




