エピローグ
「それではこれより、表彰式に移りたいと思います」
あのゴーレム討伐訓練から三日後。
休日を挟んで、今日から登校を再開した私たちは、全学年揃って校庭に集められていた。
昨日・一昨日と、先生方はそりゃあもう、後始末が大変だったみたい。
それも当然だと思う。
まさか魔王グランロッサが、学園行事なんかに干渉してくるとは思わないもんね。
それほどまでに、魔王グランロッサは――ルミーユ学園のことを恐れてるってことなんだろうか?
魔王を討伐する戦力を育てるために作られた、対グランロッサ学園と呼んでも過言ではない、特別な場所。
これからも、魔王グランロッサは――私たちに対して、牙を剥いてくるんだろうか?
「それでは、登壇してください。『フレンドライン』のアリス。リーリカ。ユピ」
――っと。
物思いに耽っていた私は、学園長に名前を呼ばれて、慌てて意識を現実へと引き戻した。
そして隣に立つリーリカ・ユピと目配せすると、歩調を合わせて校庭の前に設置された壇上へと登る。
「『フレンドライン』。貴方たちは、シルバーゴーレムを討伐するという訓練において、魔王グランロッサの遣わした凶悪なグランゴーレムと戦い……これを倒した」
登壇すると、私たち三人をゆっくりと見回しながら、学園長は告げる。
「魔王グランロッサの計略を見抜けなかったのは、我々のミスと言わざるをえません。そのせいで貴方たちを危険に晒したこと、心よりお詫びいたします」
「い、いえ。あれは仕方ないっていうか、誰にも分かんないっていうか」
「そして……そのような非常に危険な状況にもかかわらず、自分たちの力でこれを制圧した。この実力を評価せずして、何を評価するというのでしょうか」
「そのとおりですわ!」
校庭の真ん中の方から、聞き慣れた偉そうな声が聞こえてきた。
「チェリル……」
「悔しいですけど、今回は負けを認めざるをえませんわ。あの状況下で、わたくしたちを助けた上に、あんな化け物を倒したのですから」
「ボクもそう思う! シルバーゴーレムなんてレベルじゃない怪物だったもんね。あれを倒したっていうんだから、すっごいと思うよー」
チェリルに続いてミルミーも、にこにこ笑顔でそんなことを言ってくる。
そんな二人の声に同調するように、校庭中から拍手の嵐が巻き起こった。
拍手喝采、雨あられ。
そんな夢みたいな光景に――私はそばにいるリーリカとユピのことを見た。
リーリカもユピも、私を見て笑っている。
「それでは、こちらをお受け取りくださいませ。ゴーレム討伐訓練の最優秀パーティに贈られる、トロフィーです」
学園長から渡された黄金色のトロフィーが、ずしっと私の身体にのし掛かる。
その重みは、まるで今の自分たちにかけられている期待のようで。
なんだかちょっと、プレッシャー……。
「アリス!」
そんな緊張感を覚えている私に、リーリカが横から抱きついてくる。
うわっと、危ないよリーリカ。
トロフィー落としそうになっちゃったじゃない。
「ユ、ユピもなの!」
「きゃっ!?」
今度は反対側から、ユピが抱きついてきた。
またまたトロフィーを落としそうになって、慌てる私。
そうして、両側からリーリカとユピに抱き締められ、正面にトロフィーを携えた状態になった私は。
校庭中に集まったルミーユ学園の生徒一同から、再びの拍手喝采を受ける。
大切な友達がそばにいて。
びっくりするくらいの賞賛を受けて。
私は思わず、涙ぐみそうになる。
――――元いた世界のことを、ふっと思い返す。
机にかじりついて勉強しながら、ぼっちのまま毎日を過ごしていたあの頃。
つまんない毎日だった。憂鬱で仕方ない毎日だった。
それでも恋しくないかと聞かれたら……生まれ落ちた世界のことだからね。
ちょっとはセンチメンタルにも、なるけれど。
「リーリカ。ユピ。二人とも、私と友達になってくれて……ありがとう!」
「当たり前でしょ。アリスはあたし史上、最高なんだから!」
「ユピだって! 噛んじゃいそうなくらい、アリスのこと大好きなの!!」
それ以上に、この世界で得られた幸せが、大きすぎるから。
オルタナギアに来て、人生を変えることができちゃったから。
私は心から……この異世界に転移できて、よかったと思う。
「おめでとう、アリス」
拍手の嵐を浴びながら、物思いに耽っていると。
聞き覚えのある、鈴鳴りのように透き通る声が聞こえてきた。
そして壇上に上がってきたのは――ルミーユ学園最強の魔法使いと呼ばれる先輩。
「カンナさん」
「アリス。この景色はどうだい?」
カンナさんに言われて、私はもう一度――自分のことを褒め称えるみんなを見渡した。
「そうですね……控えめに言って、最高です」
「この景色を眺め続けるためには、君は勝利者であり続けなければいけない。それだけの才能が、君にはある」
近くにいるのに、どこか遠くを見ているような。
そんな深遠な瞳で、カンナさんは私のことを見つめてくる。
「……みたいですね」
私はじっとカンナさんを見返して、小さく頷いた。
「頑張ります。私にどこまでできるか分からないですけど……頑張り続けてみせます。そしていつかは、私もカンナさんみたいに」
「――待っているよ。アリス」
私の言葉を、最後まで聞くことなく。
カンナさんはくるりと背を向け、壇上から降りていった。
その後ろ姿を、私は見送り続ける。
「アリス」
そんな私の腕に自分の腕を絡めて、リーリカが笑う。
「あたしは、アリスを信じてるよ。いつか絶対に、ルミーユ学園のトップに立つって」
「ユピだって、そうなの」
ユピも反対の腕に、自分の腕を絡めてくる。
――――ありがとうね、二人とも。
この世界で、これからも頑張っていこう。
リーリカやユピと一緒に。
チェリルやミルミーと切磋琢磨しながら。
そして、もっともっと強くなって、いつかは――。
学園で一番の魔法使いになってみせる。
カンナさんのもとまで、辿り着いてみせる。
そして必ず、魔王グランロッサの魔の手から……この世界を救い出してみせるから。
中二病からはじまった、私の異世界冒険譚。
それはまだまだ、終わらない。
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