04 一緒にお風呂!
そうしてリーリカに押し切られるまま、私はルミーユ学園までやって来た。
白塗りのレンガで組み上げた門扉をくぐった先にある、まるでお城のような建造物。
私が知ってる学校と違う……うちの学校、築うん十年のおんぼろ校舎だったからなぁ。
「さ、アリス。まずはこっち」
ルミーユ学園を横切って、リーリカが連れてきたのは、赤いレンガ造りの建物。
学園に比べると小さいが、それでも普通のマンションくらいのサイズはある。
「ここはルミーユ学園の女子寮だよ。さあ、入って入って」
「え、ちょっ。学園長に会うんじゃなかったの?」
「もちろん行くよ? でも、そんなに汚れたままじゃあ、格好がつかないでしょ?」
ああ……言われてみれば。
ドラゴンが羽ばたいたときに、砂煙を思いっきり浴びてるからなぁ。
そっと髪の毛に触れると、毛先に砂が絡みついていて、ちょっと気持ち悪い。
「というわけで……まずはお風呂。女の子なんだから、身だしなみはきちんとしないとね!」
そして連れて来られた先は――ルミーユ学園女子寮の浴場。
「はい、アリス。タオルだよ」
「あ、うん。ありがとう……って、なんでリーリカまで脱いでるの!?」
「うん? あたしもほら、汗かいたし」
さらっとそんなことを言って、リーリカは銀色のプレートアーマーを脱ぎ捨てた。
薄青色の下着が、惜しげもなく晒される。
「ほらぁ。アリスも早く脱ぐ!」
「あ、ちょっと! じ、自分で脱げるからぁ!!」
「それにしてもこの服、変わった形してるわね……初めて見たわ。アリスの住んでたところでは、普通なの?」
「う、うん。結構みんな着てるっていうか……」
「へぇ。民族衣装みたいなもの?」
まぁ、女子高生をひとつの民族と捉えるなら、そうなのかな?
私が着てるの、いわゆる一般的なセーラー服だし。
「ま、いいや。それより、早く脱いでお風呂入ろうよ!」
「だから、脱がさなくっていいってば! 自分でやるから!!」
もぉ、リーリカったら強引なんだから!
私はリーリカから距離を取って、ゆっくりとセーラー服を脱ぎ、スカートを床までおろした。
そんな私を満足げに見てから、リーリカはバスタオルを巻いて、着ていた下着を脱ぎ捨てた。
私も同じようにバスタオルをまとい、ブラジャーのホックを外す。
人前で裸になるのなんて、中学校の修学旅行以来な気がする……顔から火が出るほど恥ずかしい。私が意識しすぎなのかな?
「じゃあ行くよ、アリス」
そしてバスタオル姿の私とリーリカは、湯気の立ち篭めるお風呂場へ。
うわぁ……広い!
高級ホテルの大浴場もびっくりなくらいだよ。
これが学園の寮にあるなんて、信じられない。ルミーユ学園って、もしかしてすっごくお金持ちな学校なのかも。
「さすがにこの時間は、他に誰もいないかな? ……って、ユピじゃん」
「ひっ!?」
リーリカが声を掛けると、お湯に浸かっていた銀髪の少女が、小さく悲鳴を上げた。
垂れ目気味の瞳を潤ませて、豊満な胸元を隠しながら……少女は肩を丸める。
少し開いた口元からは、ちょこんと八重歯が覗いて見える。
うわぁ、かわいい……中学生くらいかな?
肌も真っ白だし、なんだかお人形さんみたい。
「あ、あの。こんにち――」
「き……きゃああああああああ!?」
私が意を決して挨拶しようとした、その矢先。
少女は絶叫とともに立ち上がり――置いてあったバスタオルを抱きかかえ、その場を走り去っていった。
あとにあるのは、立ちのぼる湯気と、少女が残した柑橘系のシャンプーの香りだけ。
「あ……あれ?」
「あーごめん、アリス。あの子ってば、超が付くほどの人見知りだからさ」
少女の代わりにとばかりに、リーリカが手を合わせて、片目を瞑ってみせる。
「ううん、気にしてないよ。私も、似たようなもんだし」
「確かに。アリスってば最初の挨拶のとき、すっごく緊張してたもんね」
初対面のときを思い出したのか、けらけら笑うリーリカ。
しょうがないじゃん、ぼっちなんだもん。
リーリカみたいに話し掛けてくれる人、皆無だったんだもん。
「ま、あの子のことは置いといて。ほらアリスさん、こちらにどーぞ」
おどけたようにそう言って、リーリカは自分の前に私を座らせる。
そして勢いよく――私のバスタオルを、取り去った!
「きゃっ!?」
脚の付け根と胸元を、慌てて手で隠す。
バクバクと心臓の鼓動が早くなる。
そんな私の背中に手を当てて、リーリカはごしごしと私を洗いはじめた。
「あ、あの、リーリカ……何、してるの?」
「んー? 見てのとおり、アリスのこと洗ってるんだよ」
「わ、私、自分で洗えるんだけど……」
「そ。でもあたしも、アリスのこと洗いたいの」
よく分からない理屈をこねて、リーリカは背中を、腕を、脚を……丁寧に洗っていく。
うぅ。なんかくすぐったいし、変な気分になっちゃうよ……。
「はい、アリスさん。その手をどけてもらえます?」
「えっ!?」
胸に押し当てていた腕を、リーリカがギュッと握ってくる。
「いやいやいや。これどけたら、胸が見えちゃうよね!?」
「うん。見えちゃうね」
「そもそも腕をどけて、どうするつもりなの?」
「うん。そりゃあ洗うよね」
「どこを?」
「そのご立派な胸に――決まってるでしょ!」
あっ!
……っという間に、リーリカは無理やり、私の腕を引っぺがす。
そして間髪入れずに、泡まみれな手でぬるぬると、私の胸を洗っていく。
「あぅ……リーリカ、やめてよぉ……恥ずかしい」
「うふふ。恥ずかしがってるアリス、かーわいいっ!」
あぅん……もぉ、リーリカのばか。
すらっとしてるリーリカと違って、私の身体ってば貧相だから――人に見せられたもんじゃないんだよぉ!
「それにしても、アリスってすっごくスタイルいいよね。うらやましいくらい大きい胸してるのに、腰は引き締まってて……しかも美少女とか。ああ、神様って不公平!」
「はぁ?」
私は思わず、声を荒らげてしまう。
スタイルがいい? 胸が大きい? 腰は引き締まってて? しかも美少女?
どれも私に当てはまらないんですけど。
この貧乳で冴えない地味子な私に、なんの嫌みなのよ! ケンカなら買うわよ!!
――――なんて、鼻息を荒くしていると。
ふっと視界に、鏡に映し出された私の姿が、飛び込んできた。
「え……ええええええええええ!?」
そこにいたのは――絶世の美少女。
肩を覆うほどの長さの、ゆるふわパーマな金髪。
まつ毛がびっしりと生えた、深く吸い込まれそうな瞳。
西洋人顔負けの、すっきりとした目鼻立ち。
胸は零れ落ちそうなほど大きいのに、腰元は見事なまでにくびれている。
そばかすはない。
それどころか、シミのひとつも見当たらないほど、透き通るように真っ白な肌をしていたりする。
「ちょっ……アリス? どうしたの?」
「リ、リーリカ! 私って、いつからこんな姿をしてるの?」
「はぁ? アリスは出会ったときから、アリスだったけど?」
じゃあ、あれか。
この妄想がはじまったときから、私はこんなため息が零れるほどの美少女になってたっていうのか。
見た目まで変わっちゃうとか――この妄想、レベル高すぎじゃない?