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中二病を極めた私、異世界魔法を凌駕する  作者: 氷高悠
第1章 第6話「パーティを組んだ私、ゴーレム討伐に挑む」
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06 最もわたしに近い存在

 グランゴーレムが完全に崩れ去ったのを確認してから。

 私は、地面にくたりと横たわったリーリカとユピのもとへと駆け寄った。


 先ほどの魔法の力で、その身体には傷ひとつ残っていない。

 息もある。


 私はぺたんと地面に座り込んで、ほぅっと息を吐き出した。

 チェリルとミルミーも無事だったし、リーリカとユピも大丈夫。


 ギリギリのところではあったけど、どうにかみんなを護りながら、勝利を収めることができたらしい。

 よかったぁ……みんなが助かって。



「見事だね。アリス」



 そうして、安堵から全身を弛緩させていた私のもとへ。

 凜とした、鈴の音のような声が響き渡った。


 私は驚いて、後ろを振り返る。


 そこには――流麗な青い髪を揺らす、カンナさんの姿があった。

 ルミーユ学園最強の実力を持つとも言われている、神のごとき存在。


「カンナさん……いつからそこに?」


 私は自分でも驚くくらい、冷たい声で言った。

 それはなんとなく――カンナさんの答えを、予想できていたから。


「君がグランゴーレムと戦いはじめた頃からかな。まさかこんなところに、魔王グランロッサが刺客を放ってくるとは思わなかったから、驚いたよ」

「……どうして、気付いたときに助けてくれなかったんですか!?」


 相変わらず淡々としているカンナさんに、私はカチンときて、大声で叫んだ。


 そうだよ。

 カンナさんは、学園最強の実力を持ってるんだ。


 その力さえあれば、リーリカやユピを危険に晒さずに、勝つことだってできたはずなのに……っ!


「わたしの助けがなくても、君はグランゴーレムを一人で倒せた。違うかな?」

「それは結果論です! 私がもし勝てなかったら、みんなの命がどうなってたと思うんですか!?」

「戦いに『もし』はないよ。君が勝ったのはね、君の力がグランゴーレムより勝っていたからなんだよ。だからこの勝利は――必然」


 そんな持論を述べながら、カンナさんは私の正面に辿り着く。

 そして、私の手にある禁断教典『シュバルツアリス』の表紙を、そっと撫でて。


「なるほど。この本が、君の力の源なんだね」


 バッと、私は禁断教典『シュバルツアリス』をカンナさんから引き剥がす。

 そうだ……グランゴーレムと戦っているところを見られてたってことは、私の魔法の秘密を知られてしまったってことなんだ。


「そ、それが何か?」


 内心では冷や汗をかきながら、私はあくまでも平静を装って答える。


「いや……常識にとらわれない魔法の表現、見事だったよ。さすがはアリスだ。オルタナギアの型にはまりきった魔法より、ずっといい」

「あ。は、はい。それは、どうも……」


「だけど――もし、その本に書き込む隙がなければ。あるいは、書き込むよりも前にリーリカやユピに攻撃の手が向いていたら。君は二人を、救うことはできなかった」


 カンナさんは、あくまで淡泊に。

 そして酷薄に、そう告げる。


「……それは」

「なんてね。戦いに『もし』はない。現に君は、その本に新たな魔法を書き込むことで、グランゴーレムに勝利した。それがすべてだ」


 カンナさんはそう言って、にこりと微笑む。


「けれど、グランゴーレムよりも厄介な敵が来たときのことは、考えておいた方がいいだろうね。自分のためにも、周りにいる仲間のためにも」

「カンナさんは……一体、私に何を求めてるんですか?」

「わたしのところに、早く追いつくこと」


 ふわっと。

 私の頬を、カンナさんの両手が包み込んだ。


 熱を持った手のひら。どこか憂いを帯びた、大きな瞳。


 いつかも感じた、ミントのように爽やかなカンナさんの香り。


 五感すべてが、カンナさんに奪われる。


「わたしはルミーユ学園――ひいてはこの世界の人間が、さらにレベルアップすることを望んでいる。魔王グランロッサを倒し、この世界に平和を取り戻すためには、わたし以外にも力を持つものの存在が必要なんだ」


「その存在が……私だと?」

「そうだよ、アリス。君こそが今、最もわたしに近い存在」


 カンナさんがゆっくりと、私に顔を近づけてくる。

 唇と唇が触れ合いそうなほど、近い距離。


 どきりと、私の胸が震える。

 そんな私の目を、カンナさんはまっすぐに見据えて。



「そのためには……今のままじゃ、生ぬるいんだよ。アリス」



 ぞくっと。

 優しいのに恐ろしいその声色が、私の背筋を震わせる。


 この人は。


 一体その目に、何を見ているんだろう。


 ただの学生が、世界のことをそこまで考えられるものなの?

 オルタナギアを俯瞰して見ているかのような、達観したその視点は。


 まるで――この世界の人間じゃ、ないみたい。


「……なんてね」


 私の頬をさらっと撫でて。

 カンナさんは私から手を離した。


 頬に籠もっていた熱が、一気に消えていくのを感じる。


「それじゃあ、先生方を呼んでくるよ。四人も気絶しているんじゃあ、君一人で森を出るのは大変だろう?」


 そう言ってカンナさんは、こちらに背を向け、森の向こうへと歩きはじめる。


「あ、あの! カンナさん!!」


 思わず私は叫ぶ。


 だけど、何もかけるべき言葉が思いつかない。

 話したいことはいっぱいあるはずなのに、何を言ったらいいか分からない。


 そんな私のことを、一瞬だけ振り返って。


「君の成長を、心から楽しみにしているよ……アリス」


 カンナさんの言葉が、弾丸のように撃ち込まれる。


 そして、私は。

 立ち尽くしたまま、去っていくカンナさんの後ろ姿を見守っていることしか、できなかった。



 こうして、私たちのゴーレム討伐訓練は――静かに幕を下ろしたのでした。

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