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中二病を極めた私、異世界魔法を凌駕する  作者: 氷高悠
第1章 第6話「パーティを組んだ私、ゴーレム討伐に挑む」
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05 大切なものを、護るため

 ユピとグランゴーレムの戦闘は、熾烈を極めた。


 グランゴーレムの拳をかいくぐりながら、その身体に牙を突き立てようとするユピ。

 しかしリーリカの言っていたとおり、その装甲はあまりにも固すぎる。


 噛みついたところで、グランゴーレムには傷ひとつつけることができない。


「ユピ……リーリカ……」


 グランゴーレムと戦い続けているユピを。

 そのそばで、傷だらけで眠っているリーリカを。


 二人を見ながら――私はカバンの中から、禁断教典『シュバルツアリス』を取り出した。


 禁断教典『シュバルツアリス』。

 それは私が数年間綴り続けた、中二病の集合体であるノート。

 そして、この世界における――私の魔法の原点。


 ユピが引きつけてる隙に、私がグランゴーレムを倒さなくっちゃ。

 あの怪物を一撃で倒す魔法。


 一体、どれを使えば……。


「きゃあっ!?」


 そうして逡巡しているうちに、ユピの身体が宙を舞った。

 グランゴーレムの一撃を受けたらしい。


 ゴスロリ風の服は右肩部分が破れて、露出した白い肌には赤い血が滲んでいる。


「ユピ!」

『シュバルツアリス』を抱きかかえたまま、私は悲鳴を上げる。


 しかしそんな叫びもむなしく……グランゴーレムは気絶しているリーリカとユピの腕を掴み、その身体をぶらりと持ち上げた。

 両手にリーリカとユピを持ったまま、グランゴーレムはゆったりとした歩調で、こちらに近づいてくる。


 脂汗が、頬を流れ落ちる。


 ――――何度も言ってるけど、私はぼっちだった。


 そんなぼっちな私が、ど派手な魔法を使って活躍する姿を妄想しながら書いたのが、この禁断教典『シュバルツアリス』。

 そこには、敵を一掃する大仰な魔法はたくさん書かれている。


 だけど――人質を傷つけずに助けるような魔法は、書かれていない。


 そんな事態を想定したことがなかったんだ。

 現実でも妄想の中でも、いつだって私は独りぼっちで、戦ってきたんだから。


「グオオオオオオオオッ!!」


 グランゴーレムの巨体から繰り出される蹴りが、私の腹部を捉えた。


 激痛が走る――かと思ったけど、なんの衝撃も走らない。

 一体どうして……って、あ。『堕天使の羽根(ドレスコード・ゼロ)』か。


 戦いがはじまると同時に、自動的に発動して。

 物理であろうと魔法であろうと、敵からの攻撃が自分に一切通らなくなるというチート魔法。


 つまり私は立っているだけで、敵の攻撃をまるで受け付けないんだ。


「グオオオオオオオオッ!!」


 グランゴーレムが咆哮し、私を何度も蹴りつける。

 しかし効果はない。


 この魔法がある限り、私の負けはありえない。

 だけど――リーリカとユピを助け出す魔法がないから、勝つこともできない。


 なんなのよ……昔の私。

 どうして、二人を助ける魔法を、考えておかなかったのよ。


 ようやくできた、キラキラしていて、一緒にいるだけで幸せになれるような。

 大切な、大切な――友達なのに。


「私、ばかだ……」


 異世界魔法を凌駕する力を持っていたって。

 こんなんじゃ……なんの意味もないよ。


 悔しくて悔しくて、私は涙をぽろりとこぼした。

『シュバルツアリス』の白紙のページが、涙の雫でじわりと滲む。



 ――――え?



 私は思わず、その白紙のページを二度見した。

 そこには確かに、私の涙が跡を残している。


「そうか……新しく書き込めばいいんだ」


 オルタナギアに来る前に作ったノートだから、続きを書くなんて考えたこともなかったけど。

 こうして涙が干渉できているのだから、新たな書き込みを残すことだって可能なはず。


 何か。何か、書くものは……!!


 ……そうだ。


 私は自分の親指を、ギッと噛みしめた。


 その痛みに、思わず躊躇しそうになるけれど。

 リーリカとユピのことを思い浮かべて、私は――血が滲むまで、親指を噛み続ける。


 そして――その親指を、ゆっくりと『シュバルツアリス』のまっさらなページへと押し当てた。


 その間にも、グランゴーレムからの攻撃が降り注ぐ。

 けれどそれは、『堕天使の羽根(ドレスコード・ゼロ)』によって無効化される。


「私が……私が二人を助けて、グランゴーレムを倒すんだ……!!」


 この世界に来てから書き込んだ魔法に、本当に力が宿るのか。

 試したことがないから、それは定かじゃない。


 足が震える。

 指先がジンジンと鈍く痛む。


 だけど、私は――『シュバルツアリス』に血文字を書き綴っていく。


 リーリカとユピを、絶対に助けたいから。

 初めて出会えた、二人の親友を――護りたいから。



 だから私は……私の中二病を信じる!



「……できた」


 最後の文字を書き終わると。

 禁断教典『シュバルツアリス』が、煌々と輝きはじめた。


 足元に現れる閃光の円陣。

 そしてそこから吹き上がる、猛烈な風。


 私は『シュバルツアリス』を両手で正面にかかげて、呪文を唱えはじめる。



「はじめに言の葉があった。言の葉は私に力を与えた。力はすべてを掌握し、世界は私にひれ伏した。けれど……世界には、天使がいた。言の葉ではなく。力ではなく。心がなければ奪えない、天使の笑顔がそこにはあった。ゆえに私は、心を紡ぐ。紡いだ心が、いつか天使に届くと信じて――」



 すぅっと、深く息を吸い込む。


 そして、グランゴーレムと。

 その手に掴まっているリーリカとユピを見て。


「――『私と天使(イッツ・ア・)の夜想曲(アリスワールド)』」


 光が、グランゴーレムを包み込んだ。


 瞬間、グランゴーレムの全身が、融解をはじめる。


 ぼろりと崩れ落ちる腕。

 リーリカとユピはグランゴーレムの腕から解放されると、ふわふわと羽根のように宙を舞いつつ落下して――ゆっくりと地面に横たわった。



私と天使(イッツ・ア・)の夜想曲(アリスワールド)

 私が敵と認識したものだけを、白光によって消失させる。

 私が味方と認識したものについては、その体力を全快させる。



 我ながら、無茶苦茶な設定だと思う。

 ゲームだったらバランスが崩壊しちゃう、チート極まりない魔法だよね。


 だけど、これでいいんだ。


 中二病なんて本来、自分に都合がいいように練られるものなんだから。


 大切なものを護るためなら――私は中二病を極める。

 そして中二病を極めた私は、異世界魔法を凌駕してみせるんだ。


「グオ……オオオオオ……」

 グランゴーレムの体躯が、腰元から砕ける。



 そしてぼろぼろと破片となって崩れ落ちたグランゴーレムは……ただの土くれと化して、動きを止めた。

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