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中二病を極めた私、異世界魔法を凌駕する  作者: 氷高悠
第1章 第6話「パーティを組んだ私、ゴーレム討伐に挑む」
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04 仕掛けられた罠

「な、なんなの!? シルバーゴーレムの、倍はあるの!」

「こんな化け物、見たことも聞いたこともないわよ!」


 ユピとリーリカが、悲鳴にも似た声を上げる。


 そう叫びたくなるのも、無理はない。

 声こそ出さなかったけれど、私だって全身の毛が逆立ちそうなほど、動揺してるもの。


 その怪物は……明らかに他の雑多なゴーレムとは、異質な存在だった。

 両肩は巨大な角のように、鋭く尖っており。

 森の木よりも太い脚は、その重みのせいか、地面にめり込んでいる。


 今回のミッションの対象だったシルバーゴーレムでさえ、普通のゴーレムの倍程度の大きさだっていうのに……そのシルバーゴーレムよりも、一回り以上大きい。


 リーリカの言うとおり、授業でも聞いた覚えがない。

 こんな規格外の、ゴーレムなんて……。



『…………くっくっくっく』



 そうして動揺している私たちの頭上から。

 重く低い不気味な声が、響き渡った。


 思わず空を見上げるけれど……そこには当たり前だけど、何もいない。


「な、何よ今の声!?」

「は、はぅぅ……どうなってるの!?」


 なかばパニックに陥っているリーリカとユピ。

 だけど、なんとなく私は、その声の正体が分かったような気がした。


 相手を知っているからとかじゃなくって。

 中二病的な、勘っていうか。


「……あなた。ひょっとして、魔王グランロッサ?」

『ほぅ……なかなか察しがいいな』


 私が小さく呟くと、その不気味な声はなんだか楽しそうに応じた。



『いかにも。我こそが、魔王――グランロッサだ』



 あっさりと。

 その声の主は、自分のことを『魔王グランロッサ』と名乗った。


 オルタナギアの魔物を率いて、人類と百年近くにも及ぶ戦争を繰り返してきた張本人。

 ルミーユ学園創立のきっかけにもなった、凶悪な魔の王。


 それが、今――私たちに話し掛けている。


「ど、どうして……魔王がこんなところに?」


 そう。

 これはただの、ゴーレム討伐訓練だったはず。


 魔王の領土を侵すような、本格的なものではなかったのに。


『ルミーユ学園は、我にとって危惧すべき存在だからな』


 重低音の声で、グランロッサが答える。


『我を倒すために訓練された、若き戦士たち……それを一網打尽にできるチャンスとあらば、我も黙っているわけにはいかない。ゆえに我は、アルミラの森にかわいい部下を送り込んだ』


 グランロッサの言葉に応じて、巨大な未知のゴーレムが一歩踏み出した。

 シルバーゴーレムを超える巨漢が、私たちの前に立ちはだかる。


『グランゴーレムは、ゴーレム族の中でも最強を誇る魔物。気性が荒すぎるのが難点でな、敵も味方も見境なく襲ってしまう。シルバーゴーレムには、申し訳ないことをしたな』

「グランゴーレム……!」



『さぁ、ルミーユ学園の者よ。恐怖におののけ。そして……死ね』



 淡々とした死の宣告。

 それを最後に、グランロッサの声は途絶えた。


 そして――黄金の巨大なゴーレム、グランゴーレムが咆哮する。


「グオオオオオオオオッ!!」


 風を切り裂く音とともに、鉄球のような重々しい拳が打ち下ろされた。

 私たちの眼前の地面が破砕し、砂塵が舞い踊る。


「何よこれ、反則でしょ!」

 言いながら、リーリカは大剣『ルクシアブレード』を携えて、グランゴーレムへと飛び掛かった。


 右肩から切り落とさんばかりの勢いで、グランゴーレムへと振り下ろした剣先。

 しかし――その頑丈な装甲には、傷ひとつつかない。


「リーリカ!」

「アリス、ユピ! あたしがこいつの気を引いてる隙に、チェリルとミルミーを!!」


 グランゴーレムの腕を蹴りつけて、リーリカはシルバープレートの甲冑姿のまま、華麗に中空を舞う。


 すごいよ、リーリカ。

 この尋常じゃない状況で、それでも勇猛果敢に立ち向かっていくなんて……普通できないと思う。


 そんな勇ましい友人を誇りに思いながら、私とユピは気を失っているチェリルとミルミーを引きずって、森の方へと移動させた。

 ここなら多分、巻き添えを喰らうことはない……はず。


「きゃああああああっ!?」


 背後から上がった悲鳴に、私とユピは慌てて後ろを振り返る。

 泥だらけで地面に倒れ伏しているのは――リーリカ。


「リーリカ!」

「だめ! 近づいちゃ!!」


 駆け寄ろうとした私たち二人を制して、リーリカはゆっくりと上体を起こす。


「こいつ、尋常じゃなく固い上に、攻撃も重たい――あたし史上、最悪だわ。近づいたりなんかしたら、三人まとめてやられちゃう」

「そんなこと言ったって、このままじゃリーリカが……!!」

「『ピルピッドユピ』!!」


 私の隣で弓をかまえたユピが、グランゴーレム目掛けて矢を放った。

 しかし、心臓部に直撃したはずの矢は、先端部から粉々に砕け散る。


「だめなの、固すぎるの!」

「そゆこと。だからほら、あたしがこいつを引きつけてる隙に、二人で先生たちを呼びに行って」

「そんな時間、あるわけないでしょ! その間に、リーリカが死んじゃう!!」


「死なないわよ。死んで……たまるもんですか。誰ひとり死なせない。あたしが、みんなを護るんだから!」


 自身を鼓舞するように、そう叫んで。

 リーリカは再び『ルクシアブレード』をかまえて、グランゴーレムに飛び掛かった。


 しかし――その刃は無慈悲にも、グランゴーレムによって弾き飛ばされてしまう。


「あっ……」

「リーリカぁぁぁぁぁぁ!!」


「ユピに、任せるの!」


 その言葉と同時に。

 ユピが『ピルピッドユピ』を放り投げて――グランゴーレム目掛けて駆け出した!


 その瞳は血色に、妖しく輝いている。

 まるで、ヴァンパイアのように。


「グオオオオオオオオッ!!」


 グランゴーレムが、リーリカに拳を振り下ろす。

 しかし、それよりもユピの方が速い。


 その様子は、いつもの運動が苦手なユピとは、明らかに違っていた。

 そして――豪腕が激突するよりも先に、ユピはリーリカを抱きかかえ、グランゴーレムの背後に着地した。


「ユピ! リーリカは!?」

「大丈夫なの。気を失ってるだけみたい」


 ユピの言葉に、ひとまず胸を撫で下ろす私。

 そして次に、気になっていたことを、ユピに尋ねる。


「ユピ……なんかいつもと、雰囲気が違わない?」

「あ。う、うん。ユピの中にある、ヴァンパイアの力を解放したの」


 ちょっと照れくさそうに、頬を掻いて。

 真っ赤な瞳のユピは、ツインテールに結った銀髪をふわりと揺らした。


「ユピはずっと、ヴァンパイアの力を怖がってたの。みんなに嫌われるのが……いやだったから。だけどアリスとリーリカは、こんなユピのことを受け入れてくれたの。そんな二人のためなら、ユピは――この力を使って、戦うの!」


 そしてユピは、リーリカを地面に寝転がらせると。

 地面を蹴りつけて、グランゴーレムの頭上へと――高く高く飛び上がった。



「さぁ、行くの……思いっきり噛んじゃうから、覚悟するの!!」

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