01 ゴーレム討伐訓練、開始!
『フレンドライン』を正式に結成した翌日。
私とリーリカとユピは、大急ぎでコンビネーションを組み立てていった。
なんせ、明日が本番――ゴーレムの潜む『アルミラの森』に出陣する日なのだから。
とはいっても、不思議と私の心に不安はなかった。
多分リーリカとユピも、そうなんじゃないかな?
この三人なら、きっとできる。
アルミラの森の深層部まで辿り着いて……親玉であるシルバーゴーレムを、必ず仕留めてみせる。
そんな確信にも似た気持ちが、芽生えつつあったから。
「ごきげんよう。アリスさん」
そして迎えた、討伐訓練本番の日。
私たちが三人揃って校庭へと向かっていると、チェリルが得意げな顔をしながら近づいてきた。
その後ろには、いつもどおりの笑顔なミルミーもいる。
「どうですの? そちらの調子は?」
「うん。絶好調だよ」
「へぇ。ユピさんは戦う気になったのかしら? あんなに怖がっていたのに」
「もう大丈夫なの。ユピは……アリスたちと一緒に、頑張るって決めたの」
「見てなさいよ、チェリル。シルバーゴーレムを倒して表彰されるのは、あたしたちなんだからね!」
「大口を叩いて、後で恥をかくのはそちらじゃなくって? リーリカさん」
「こっちには、学年一の魔法使いアリスがいるんだからね。負ける気がしないわ」
「わたくしのことをお忘れではなくって? このゴーレム討伐訓練に勝利して……わたくしは再び、学年一位へと返り咲くのですわ!」
おーっほっほっほ、なんて。
チェリルはマンガみたいな高笑いをしはじめる。
「楽しそうだね。チェリル」
そんな空気を一刀両断する、透き通るような声。
私たちはもちろん、校庭へと向かっていた一年生の誰もが、一斉に足を止める。
まるで時間が静止したかのような空間。
その空間を――優雅に、気高く。
カンナさんは、ゆったりとした足取りで、歩いてくる。
「カ、カンナ様!?」
「ど、どうしてカンナ様がここに!?」
「一年生が、初めてのゴーレム討伐に向かうと聞いたのでね。先生にお願いして、見送りに来させてもらったんだよ」
どよめく一同に対して、落ち着き払って答えるカンナさん。
相変わらず、カンナさんは大人びていて神々しくて。
まるで――この世の人ではないかのように、錯覚してしまう。
「アリス。久しぶりだね」
「は、はい。お久しぶりです」
柔和な笑みを浮かべるカンナさんに、慌てて会釈をする。
「アルミラの森は、魔物たちの巣窟。かつては『禁断の森』と呼ばれていた場所。今でこそルミーユ学園が結界を張って、その侵攻を防いでいるけれど……ひとたび足を踏み入れれば、魔物たちが跳梁跋扈する危険地帯なんだよ」
カンナさんは私たちを見渡しながら、凜とした声で告げる。
「もちろん、これは訓練だよ。ルミーユ学園が全力をもって、君たちの安全に配慮してくれている。だけど……魔物との戦いに、絶対はない」
絶対はない。
つまり――百パーセント、命が保証されるわけじゃないってこと。
当たり前のことなのに、カンナさんに言われるまで、頭の中から抜け落ちていた。
それは私だけじゃなく、みんなもそうだったらしい。
カンナさんの言葉に、周囲が一斉にどよめく。
「戦いとは常に危険と隣り合わせだということを、どうか忘れないでほしい。死なずに帰ってくることも、戦いだよ。自分たちの命を大切にしながら――できうる限りの戦果を上げる。それこそがこの、ゴーレム討伐訓練で学ぶべきこと。わたしは、そう思う」
たった二歳しか変わらないというのに、カンナさんの言葉はとても重くて。
気付けば一年生はみな、カンナさんの話に聞き入っていた。
――やっぱりすごいな。カンナさんは。
「わたくしは、絶対に死にません」
そんなカンナさんに。
一人の優等生が、きっぱりと返事をしてみせる。
ボブカットの黒髪を揺らしながら、指先で眼鏡をくいっと直しながら。
「わたくしはミルミーと二人で、必ず帰ってきます。シルバーゴーレムを倒して」
「いい気概だね。チェリル」
「ええ。わたくしはいずれ、カンナ様のようになりたい。そのためには――こんなところで、負けてなんかいられませんから」
チェリルは決意に満ちた目でそう言うと、私の方に向き直った。
そして――すっと右手を差し出す。
「負けませんわよ、アリス。わたくしとミルミーのパーティ『チェリミル』が……必ずやシルバーゴーレムを討伐してみせます」
「ふんだ! あたしたち『フレンドライン』が、負けるわけないんだからね!!」
私の後ろから、リーリカが相変わらず強気に言い返す。
もぉ。すぐケンカ腰になるんだから、リーリカは。
だけど――私もユピも、気持ちは一緒だよ。きっと。
「どっちがシルバーゴーレムを倒せるか、勝負だねチェリル。お互い、頑張ろうね」
「……上等ですわ」
かくして。
ルミーユ学園一年生による、ゴーレム討伐訓練が――はじまった。




