06 そのラインの、向こう側
楽しい三人でのお出掛けを終えて。
食事と風呂を済ませた私たちは、寝間着に着替えてそれぞれのベッドに腰掛けていた。
「今日はありがとうなの。二人とも」
「これからはもう、あたしたちに遠慮したりしないでよ? なんたってあたしたち、友達なんだからさ」
「うん、なの!」
ネグリジェ姿で体育座りをして、抱き締めた枕に顔を埋めているユピ。
その顔からはもう、昼までみたいな不安そうな表情は窺い知れない。
「ユピも、明日から頑張る! 三人でゴーレムを討伐できるように、なの!!」
「そうこなくっちゃね。あたしが前線で剣を振るって、ユピが弓で後方射撃。隙を見つけて、アリスが強烈な魔法をぶち込む……うん! なんかいけそうな感じがする!!」
「気がするんじゃなくって、絶対いけるんだよ」
言ってから、私は自分の言葉に驚く。
引っ込み思案だった自分が、まさかそんなことをさらっと言っちゃうなんて。
だけど――リーリカとユピが一緒なら。
私はどこまでだって、いける気がするんだ。
「森の深層部にいるシルバーゴーレムを倒したチームが、表彰されるんだったよね?」
「おっ。アリスさんってば、一番を狙っちゃう感じですか~?」
「うん。だって私たちは、最高のチームなんだから」
「あははっ。そうこなくっちゃね!」
「ユピも、こうなったら一番を狙っちゃうの!」
三人で笑いあう。
オルタナギアに来て知り合えた、大切な二人の友達。
順位だとか勝ち負けだとか、昔はどうでもよかった私だけど。
リーリカとユピと一緒だったら――全力で頑張ってみたい。
三人で一緒に、どこまでも走ってみたい。
「あ。そういえば、パーティ名はどうしよっか?」
「パーティ名?」
ああ。そういえば授業で言ってたっけ。
パーティを組んだら、当日までにチームの名称を考えとくようにって。
チームの結束を高めるためとか、表彰のときに使うためとか、色々あるんだろうけど……すっかり忘れてたなぁ。
「あたし、いいの思いついたよ。名付けて『ラブラブ☆アリス連盟』!」
「何それやめて」
「『アリスに噛みつき隊』とかも、悪くないと思うの」
「悪いよ。二人とも、いちいち私の名前を入れないでってば。恥ずかしいから」
なんで二人揃って、してやったりな顔してるかなぁ?
センスとしては壊滅的だよ、それ。
そもそも、私の名前を入れようって発想が違うと思うんだよね。
私たちは対等な立場。
ゴーレム討伐のパーティであると同時に、友達同士なんだから。
――――あ。そうか。
「ねぇ。『フレンドライン』なんて、どうかな?」
『フレンドライン』。
友達という名の線。
――どのラインを超えたら友達で、どこまでがそうじゃないのか。
そもそも、そういう線引きができるものなのかも、よく分からない。
だけど……少なくとも、リーリカとユピは友達だって。
胸を張って言えるから。
『フレンドライン』の向こう側にいるって、断言できるから。
「いいんじゃない? 『フレンドライン』」
「うん。ユピも賛成なの」
リーリカとユピが口を揃えて言う。
私はもう一回、口の中でその名前を唱えてみる。
『フレンドライン』。
――うん。
なんだかとっても、しっくりくる!
「じゃあ、あたしたちのパーティ名は、今日から『フレンドライン』に決定ね。剣士のあたし、魔法使いのアリス、そして弓使いのユピ……この三人で、学年一位を目指して頑張ろう!」
「うん!」
「が、頑張るの!」
誰からともなく、私たちは手を伸ばし合う。
そして、重ねた三つの手を、天高くかかげて。
「『フレンドライン』! レッツゴー!!」
ゴーレム討伐訓練まで――あと二日。




