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中二病を極めた私、異世界魔法を凌駕する  作者: 氷高悠
第1章 第5話「一躍有名人になった私、パーティを組む」
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05 友達のライン

 取りあえず服飾店を後にしてから。

 私たち三人は、噴水前に座って休憩をしていた。


「あ。あれ、おいしそうだね。私、買ってくるよ」


 二人にそう言って、私はアイスボールを人数分買いに行く。

 氷で作った球体の中に、甘みを凝縮してあるオルタナギアのおやつ。


 アイスクリームの亜種みたいなものかな。


 青、紫、オレンジ。三色のアイスボールをバケットに入れて、私はリーリカとユピの元へと戻った。


「はい、二人とも。好きなの取っていいよ」

「じゃあ、あたしは紫ー」

「ユピは?」

「ユピは……じゃあ、青をもらうの」


 そして私たち三人は、アイスボールを口に放り込む。

 冷たい食感と、とろけるような甘みが、口の中いっぱいに広がる。


 放課後に友達と服を見て回って、一緒に買い食いをして。

 元いた世界では味わえなかった幸せが、私の胸に染みる。


 楽しいなぁ。


 ユピも――同じ気持ちでいてくれると、嬉しいんだけど。


「……アリス。リーリカ」


 ユピが俯きがちに、私たちの名前を呼んだ。

 私もリーリカも顔を上げて、左右からユピの顔を覗き込む。


「二人は……どうしてユピに、そんなに優しくしてくれるの?」

「どうしてって……友達だからに決まってるじゃない」

「そうだよ。私もリーリカも、ユピともっと仲良くなりたいだけだよ」


「そうじゃなくって、なの……ユピには、二人がどうしてユピなんかと友達になってくれるのかが、分からないの」


 ユピなんかと、って。

 その言葉に、私はなんだか憤りを覚える。


「なんでそんなに自分を卑下するの? ユピは、とっても魅力的な子だよ。私だって自分に自信がある方じゃないし、そう思っちゃう気持ちも分かるけど。私たちは本当に、ユピと仲良く――」


「ユピは、ヴァンパイアと人間のハーフなの」


 私の言葉を遮って。

 ユピは重々しく、そう告げた。


 暗く冷たい瞳。


 口元から覗く特徴的な八重歯は、いつもと違って、なんだか鋭く尖って見えた。


「魔王グランロッサの眷属であるヴァンパイア。ユピのお父様は、そんな人類の仇敵の一人だったの。お母様と知り合うまでは……その手をたくさんの血に染めてきた、正真正銘の魔族なの」


「それは前にも聞いたよ。だけど私もリーリカも、そんなことは気にしないよ」

「そうなの。二人とも、そんなこと全然気にしなくって。いつも優しく接してくれて……嬉しかったの」


 でも、と。

 ユピはやっぱり不安げな表情を浮かべたまま、私たちを交互に見る。


「他の人たちは、そうじゃなかったの。ユピのことを怖がる人は大勢いた。『いつかお前も父親みたいに人間を襲うんじゃないか』って、面と向かって言われたこともあったの。反対に、『ヴァンパイアとのハーフだから強いはずだ』なんて……過剰に期待されて、後でがっかりされることもあったの」


「どこのどいつよ! 見つけたら、あたしがただじゃおかないわ!」


 リーリカが前のめりになって、声を荒らげる。


 相変わらずリーリカは直情的で、素直な性格だなぁ。

 だけど……その意見には、私も同感。


「ユピ。私たちは、その人たちとは違うよ。ヴァンパイアとのハーフっていうのが珍しいのは分かるけど……ユピはユピだもん。ヴァンパイアの血が流れてるから怖いなんて思わないし、強い存在でいて欲しいとも思わないよ」


「分かってるの。二人が、他の人とは違うって……だけど。一緒にパーティを組むってなったら、急に不安になって。そしたら、どうして二人が、ユピの友達でいてくれるのかが分からなくなって……っ!」


 話している途中から、嗚咽が混じりはじめ……。

 やがて決壊したように、ユピは泣き崩れた。


 これまで溜め込んでいた不安を、すべて吐き出すように。

 ユピはかわいい顔をぐちゃぐちゃにして、涙を流し続ける。



 そんなユピのおでこを――私はパシンと、指で弾いた。



「いたっ!?」

「ちょっ、アリス!? 何してんの!?」


 やられたユピも、隣で見ていたリーリカも、揃って目を丸くする。

 私は腰に手を当てて、ユピの顔を下から覗き込む。


「はぅ……そんなに睨んで、やっぱり怒ってるの? ユピが役立たずだから、嫌いになっちゃったの?」

「うん、怒ってるよ。嫌いになったからじゃない。役立たずだって、思ってるからでもない。ユピが……私たちのことを、見くびってるからだよ」


 ヴァンパイアとのハーフ?


 だからなんだって言うんだ。

 そんなこと言ったら、私なんてこの世界の人間ですらないんだってのに。


「私は友達が少ない」


 断言する。


「ルミーユ学園に来るまでは、少ないっていうか、いたかどうかすら怪しいくらいだった。だから私はいつも、隅っこの方でぶつぶつ呟いてたよ。『我は闇の王女……闇だけが唯一の我が友。闇に溺れて永遠にたゆたう、千年の孤独』……って」

「えっと。どういう意味、その呟き?」


 ちょっとリーリカ、解説を求めないでよ。

 中二病患者の妄言に、意味なんてあるわけないでしょ。


 こほんと咳払いをしてごまかすと、私は言葉を続ける。


「とにかく……私はいつも独りぼっちだった。それを紛らわすために、『闇の王女』なんて自称して、自己正当化してた。本当はずっと、友達が欲しかったのにね」

「う、うん……?」


 首をかしげつつ、頷くユピ。

 私の突飛な話のせいで、涙も引っ込んじゃったみたい。


「そんな私だったから、そもそも『友達』って何か――よく分かんなかった。どのラインを超えたら友達で、どこまでがそうじゃないのか、さっぱり。今もその線引きはよく分かってないのかもしれない。っていうか、そういう線引きがそもそもできるものなのかすら、よく知らない」


 だけどね、ユピ?

 私は彼女の華奢な身体を、自分の胸元に引き寄せて。


 ギュッと強く抱き締めながら――続ける。


「友達って呼びたい人は、やっと見つけたんだよ。ラインとか分かんないし、ひょっとして嫌われたりしないか不安なときだってあるけど……ずっと大切にしたいって、思ってるんだよ」

「……リーリカのこと、なの?」

「怒るよ、ユピ」


「じゃあ、リーリカと……ユピの、ことなの?」


「そうだよ」

「あたしも――アリスとユピのこと、大切だって思ってるよ!」


 そう言ってリーリカが、私たち二人のことを抱きかかえた。


「理屈とか知らないけど、あたしは二人と一緒にいるときが、あたし史上で最高に楽しい! だから、ずっとそばにいたい。今日だって楽しかったよね。みんなで街を見て回ってさ。最後はアイスボールを食べて……楽しかったんだよ?」


 ぽろりと。

 いつもは気丈なリーリカの目から、涙が零れ落ちる。


「不安にさせてごめんね、ユピ? 何度だって言ってあげるから。大好きだよって。嫌いになんて、ならないよって……」

「アリス……リーリカぁぁ……」


 ユピがまた、ぼろぼろと泣きはじめた。

 あはは。泣き虫だなぁ、ユピは。


 私は熱くなる目頭を押さえながら、にっこりと微笑んでみせた。


「噛みたいの」


 ユピが頬を赤く染めて、言った。


「二人のこと、か、噛んじゃっていい……? なんだかとっても……二人の血が、飲みたい気分なの。ドキドキして、抑えられないの……っ!」

「いいよ」

「もちろんでしょ」


 私とリーリカは、顔を見合わせて笑う。


「ありがとう……なの」


 ユピが、私たち二人の手を取る。


 そして、私とリーリカの人差し指を同時に指に含んで……かぷっと。

 その愛らしい歯を、突き立てた。


「んっ……」

「あぅ……くすぐったい」

「はふ……おいひい。アリスのもリーリカのも、おいひいの……もっと、もっと」


 ちゅぱ、ちゅぱ、ちゅぱ。


 二本の指を咥えて、無心に吸ったり舐めたりを繰り返すユピ。

 その表情は不安げなものから、次第に恍惚としたものへと変わっていく。


「友達の味、する?」

「うん……しゅる。しゅるのぉ……」

「飲みたいだけ飲んでいいからね。いっぱい飲んで……あたしたちの気持ち、もっともっと感じてね」


 リーリカがもう片方の手で、ユピの頭を優しく撫でる。

 指を口の中に入れたまま、ユピが気持ちよさそうに微笑む。


「ね、アリス? あたしもアリスのこと、噛んでいい?」

「だめ。噛む意味が分かんないし」

「えー? だってユピが、すっごくおいしそうにしてるからぁ。あたしもアリスの味、知りたいなぁって」

「やーだー」


「えいっ」


「きゃっ!? ちょっ、何してんのリーリカ!?」

「ありふのくひを、はふはふひてふの(アリスの首を、はむはむしてるの)」


 何してんの、ダメだって、ちょっと……もぉ!



 こうして私たちは日が暮れるまで。

 噛んだり噛まれたりな友情を、育んだのでした。

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