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中二病を極めた私、異世界魔法を凌駕する  作者: 氷高悠
第1章 第1話「中二病をこじらせた私、異世界に行く」
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03 アリスとリーリカ

 取りあえず、目の前の少女に手を引いてもらいながら、ゆっくりと立ち上がる私。


 手についた草や砂を、パンパンと払って。

 私はじっと、目の前の少女へと視線を向けた。


 ……誰だろう、この人?


 うちの学年に、こんな人いたっけな。


 いや――同じ学年だろうと違う学年だろうと、多分こんな人、いないんじゃないかな。


 だって、右側でサイドテールにまとめてる、そのセミロングヘア。

 炎みたいに、真っ赤な色をしてるんだもん。


 校則違反ってレベルじゃないよ?


 ってことは、あれか。

 この子もまだ、私の妄想の続きなの……かな?


「ん? あたしの顔になんかついてる?」

「あ、いや。別に……」


 ニコニコと満面の笑みを向けられて、私はしどろもどろに答える。


 赤髪の少女は、すらっとしたモデルのような体型で。

 ややつり目気味なその瞳は、勝ち気そうな感じで。

 なんていうか……私と正反対の、快活そうな人だ。


 見てるだけで眩しくて、目が潰れそう。


「ねぇねぇ! さっきの魔法、どこで覚えたの!?」


 少女が、ずいっと顔を近づけてくる。


 うわぁ、まつ毛ながっ!

 なんか心なしか、いいにおいもするし……同性とはいえ、ちょっとドキドキしちゃうよ。


「えっと……私が、考えたんだけど……」

「考えた!? ってことは、我流で編み出したっていうの!?」

「え、ええ……まぁ……」


「あたし史上、最高だわ! ドラゴンを一撃で倒すような高位魔法を、自分で考えた人に会えるだなんて!! もう嬉しすぎて、おかしくなっちゃいそう!!」


「あ。は、はい……」


 ギュッ。

 少女が私の手を握る。

 そして、もう鼻先がくっつくんじゃないかってほど、顔を近づけて。


「あなた、お名前は!?」

「ア……アリス……」


 あ、やばっ。

 パニックのあまり、真名を名乗っちゃった!


 有栖田(ありすだ)真子(まこ)

 その正体は、禁断教典『シュバルツアリス』を所持する高貴なる魔法使い――アリス。


 ……なんて妄想を、毎晩毎晩してたからぁ!!


「アリス?」


 ほらぁ、案の定きょとんとしてるよ!

 やばい、穴があったら入りたい!!


「アリス……アリスかぁ。うん、あなたにぴったりの名前!」

「……え?」


「かわいらしさの中に、上品な響きも持ってる。とっても素敵な名前だと思うよ! ちなみにあたしは、リーリカ。よろしくね! って……ため口で大丈夫だったかな? 見た感じ、同い年くらいかなって思ったんだけど」


「あ……今年で十六になりました」

「わぁ、やっぱり! あたしも誕生日が来たら十六歳。ってことは、同じ学年だね!」

「そ、そうですね……」


 リーリカ。


 それって絶対、日本の女子高生の名前じゃないよね。

 私の真名であるアリスも、当たり前みたいに受け入れてくれてるし。


 うん。分かった。

 結論――これは、私の妄想の続き。


 魔法とかドラゴンとかが普通に存在するファンタジー世界に、突然転移してきたって設定……ってとこか。

 今日の私の妄想、冴え渡ってるなぁ。


「ねぇ、アリスって呼んでもいいかな?」

「あ、はい。大丈夫です」

「こっちもリーリカって、呼び捨てでいいからね」

「あ、いえ。そんな。初対面の人に、そんな馴れ馴れしいのは……」

「あははっ! アリスって真面目なんだねぇ。あたしはそういうの気にしないし、砕けた感じで接してくれた方が嬉しいよ?」


 そ、そういうものなの?

 同世代との距離感ってものが、ぼっちの私にはいまいち理解できないけど。


 どうせこれは妄想……練習だと思えば。


「う、うん。じゃあリーリカ……よろしく、ね」

「うんっ!」


 するとリーリカは――はぐっ。

 …………ハグ?


「ええええええ!? リ、リーリカ!? なんで抱きついてくるのぉ!?」

「うーん? アリスがなんか、かわいかったから? いいじゃん、女の子同士なんだし」

「そ、そうだけど……」


 スレンダーな体型なのに、密着するとリーリカの身体は、なんだか柔らかくて。

 人肌の温もりが、なんだか心地よくって。


 ――私は恥ずかしさのあまり、ぐいっとリーリカを引き剥がした。


「あん。もぉ、アリスのけちぃ」

「け、けちとか。そういう問題じゃ……!!」


「あ。ところでアリス。アリスも、『ルミーユ学園』の生徒なんだよね? どこのクラスなの?」


「ルミーユ学園?」

「えっ。ちょっと……ルミーユ学園を知らないの?」

「あ。うん……こっちの方に来たの、ついさっきだから」


 少し前までは剣と魔法じゃなくって、ペンとノートの世界にいたからね。


「なんてこと……! こんな実力者が、ルミーユ学園に入ってないなんて!! もったいなんてレベルじゃない!!」


 なんだか興奮したようにそう言って、リーリカは私の手を再び握った。

 そしてそのまま、私を引き連れて歩きはじめる。


「ちょっ、リーリカ? どこ行くの?」

「決まってるでしょ、ルミーユ学園よ。あたしが学園長に掛け合って、すぐに入学させてあげる。こんな才能を埋もれさせるなんて、もったいなすぎるもの!」


 リーリカの瞳が、めらめらと燃えている。

 えーと、えーと……。



 ――この妄想、いつまで続くんだろう?

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