03 前途多難な私のパーティ
「……ねぇ、リーリカ。いい加減、離れない?」
「やーだ」
昼休み。中庭のベンチ。
リーリカは思いっきり、私にしな垂れ掛かってきてる。
目を瞑って、なんかにまにま笑ってるし。
「この体勢だと、お弁当食べづらいんだけど……」
「じゃあ、あたしが食べさせてあげよっか!」
「ちがうちがう、そうじゃない」
「遠慮しないでいいのに。だってあたしとアリスは、ずーっと一緒なんだから。アリスだって、そう言ってくれたでしょ?」
そこまで言った覚えはないんだけど。
私はただ――「リーリカとパーティを組みたい!」って言っただけで。
「いつもそばにいてくれるリーリカと一緒が、一番いい」って……そう言っただけで。
…………あれ?
ひょっとして、似たようなこと言っちゃってる?
「うふふ。恥ずかしがらなくってもいいのにぃ。アリスってば、かわいいっ!」
「ちょっ、ちょっとリーリカ。くっつかないでってば……」
「――――ずーん、なの」
うわっ!?
私がリーリカの積極的アプローチにもがいていると、隣からものすっごい黒いオーラが溢れ出してきた。
下を向いて、真っ黒なオーラを噴き出しているのは――ユピ。
「どうしたのよ、ユピ? ユピも一緒に、いちゃいちゃする?」
「しないのぉ……そんな気分じゃないのぉ……」
「ユピ、大丈夫? どう見ても元気ないけど……」
「……うう。どうしてユピまで、パーティに入れちゃったの? アリスとリーリカだけでも、よかったと思うの」
「なんでよ? 他にあてでもあったの、ユピ?」
「……それは別にないけどなのぉ」
はぁ、と深く深く嘆息すると。
ユピはすっと、立ち上がって。
「ユピは……ユピは! ゴーレム討伐なんて! 怖くて怖くて、ぜんっぜん行きたくないのぉ!!」
ユピの珍しい大声が、中庭一帯に響き渡った。
「……だから、どのパーティにも入りたくなかったの」
「いやいや。授業なんだから、誰かと組まなきゃダメだと思うよ?」
「そうよ。知らない人とパーティ組むくらいだったら、あたしたちと一緒の方がよかったでしょ?」
「そりゃあ、知らない人よりはいいけど……そもそもユピは、ゴーレム討伐をやりたくないの。棺桶に籠もって、部屋から出たくないの」
何その、引きこもり的発想。
でも……なんとなく分かる気もする。
私だって昔は、ユピみたいに引っ込み思案で、恐がりだったからなぁ。
かつて、運動神経がからっきしだった私。
体育の集団競技に出るときの恐怖といったらなかった。
頑張ったってうまくできるわけじゃないし、手を抜いたら白い目で見られるし……日本の体育の授業は、人の心を荒ませる邪悪なものだったよ。
きっと今のユピの心境は、そんな感じなんだろう。
「でもさ、ユピ。ここはルミーユ学園。いつか魔王グランロッサを倒すための、力を養う場所なんだよ? そこでゴーレム討伐に出ないとか、根本的にまずいでしょ」
リーリカが困ったように言う。
それに対して、ユピは俯きがちになって。
「分かってるの、やらなきゃいけないことは。だけど、やっぱり……怖いの」
そして。
私たち三人がパーティを組んでから、三日目。
ゴーレム討伐の本番まで、あと二日。
残り少ない期間だけど、その間にお互いの能力を確認しあって、フォーメーションとか色々と練らなきゃいけない。
いけないんだけど……。
「……ユピぃ。いい加減、出てきなさいよ」
「やなの。ユピは静かに暮らしたいの」
それぞれがチームごとに分かれて、校庭のあちこちで練習をしている中。
私とリーリカの目の前には――棺桶が鎮座していた。
不気味な棺桶の蓋には、「絶対開けないでなの!」と丸文字で書かれた貼り紙が、ぺたりと貼られている。
相変わらずユピは、ゴーレム討伐に後ろ向きなままだ。
「あたしの剣技と、アリスの魔法があれば、ユピは後ろに控えてるだけで大丈夫だって。だから一緒に練習しようってば」
「じゃあユピは、棺桶に入ったままパーティに参加するの。引きずって連れていってもらえると助かるの」
いやだよ、そんな死体を運ぶみたいなの。
古き良きRPGじゃあるまいし。
「あらあら。お困りのようですわね、アリスさんたち?」
そんな私たちのそばに近づいてくるのは、チェリルとミルミー。
チェリルは腰に手を当てて、得意げな顔でこちらを見てくる。
「後悔されているのではなくって? リーリカさんやユピさんと組んだりせず、このわたくしとパーティを組めばよかったと」
「何よ! わざわざケンカを売りにきたわけ?」
「別にそんなつもりはありませんわ、リーリカさん。わたくしはただ、事実を述べてるだけですもの」
「本当は今からでも、アリスちゃんとパーティを組みたいだけだもんねー。チェリルは」
「なっ!? ミルミー、冗談はやめてちょうだい! た、ただ、もしアリスさんが望むのであれば……やぶさかではありませんけど?」
顔を真っ赤にして、指先をもじもじと合わせるチェリル。
なんだか最近、私に対する当たり方が変わってきた気がするなぁ。
でも――私の答えは、変わらない。
「ごめん、チェリル。気持ちは嬉しいけど……私はリーリカとユピ、二人と一緒がいい。その気持ちは、今でも全然変わらないから」
「~~アリスぅ!」
目をキラキラと輝かせながら、私に抱きついてくるリーリカ。
チェリルはというと、唇を軽く噛んで。
「そ、それならいいですわ。せいぜい頑張ってくださいませ」
「残念だったねー、チェリル」
「だから別に残念とか、そういうのじゃありませんから!」
チェリルはぷいとそっぽを向くと、ミルミーと一緒に退散していった。
その後ろ姿を眺めながら――私は「よしっ」と気合いを入れる。
私の心は、今言ったとおりだ。
リーリカとユピと、三人で一緒に頑張りたい。
そのためにはまず……ユピの怖がる気持ちを、解消してあげないと。
「ねぇ。リーリカ、ユピ。今日の放課後、みんなで買い物に行かない?」
「はい?」
「え? なの」
首をかしげるリーリカ。
棺桶からひょこっと顔を出して、眉をひそめるユピ。
そんな二人を交互に見やって、私はもう一度、告げた。
「今日の放課後――三人で買い物に出掛けよう」




