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中二病を極めた私、異世界魔法を凌駕する  作者: 氷高悠
第1章 第5話「一躍有名人になった私、パーティを組む」
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03 前途多難な私のパーティ

「……ねぇ、リーリカ。いい加減、離れない?」

「やーだ」


 昼休み。中庭のベンチ。


 リーリカは思いっきり、私にしな垂れ掛かってきてる。

 目を瞑って、なんかにまにま笑ってるし。


「この体勢だと、お弁当食べづらいんだけど……」

「じゃあ、あたしが食べさせてあげよっか!」

「ちがうちがう、そうじゃない」

「遠慮しないでいいのに。だってあたしとアリスは、ずーっと一緒なんだから。アリスだって、そう言ってくれたでしょ?」


 そこまで言った覚えはないんだけど。


 私はただ――「リーリカとパーティを組みたい!」って言っただけで。

「いつもそばにいてくれるリーリカと一緒が、一番いい」って……そう言っただけで。


 …………あれ?

 ひょっとして、似たようなこと言っちゃってる?


「うふふ。恥ずかしがらなくってもいいのにぃ。アリスってば、かわいいっ!」

「ちょっ、ちょっとリーリカ。くっつかないでってば……」

「――――ずーん、なの」


 うわっ!?

 私がリーリカの積極的アプローチにもがいていると、隣からものすっごい黒いオーラが溢れ出してきた。


 下を向いて、真っ黒なオーラを噴き出しているのは――ユピ。


「どうしたのよ、ユピ? ユピも一緒に、いちゃいちゃする?」

「しないのぉ……そんな気分じゃないのぉ……」

「ユピ、大丈夫? どう見ても元気ないけど……」


「……うう。どうしてユピまで、パーティに入れちゃったの? アリスとリーリカだけでも、よかったと思うの」


「なんでよ? 他にあてでもあったの、ユピ?」

「……それは別にないけどなのぉ」


 はぁ、と深く深く嘆息すると。

 ユピはすっと、立ち上がって。


「ユピは……ユピは! ゴーレム討伐なんて! 怖くて怖くて、ぜんっぜん行きたくないのぉ!!」


 ユピの珍しい大声が、中庭一帯に響き渡った。


「……だから、どのパーティにも入りたくなかったの」

「いやいや。授業なんだから、誰かと組まなきゃダメだと思うよ?」

「そうよ。知らない人とパーティ組むくらいだったら、あたしたちと一緒の方がよかったでしょ?」

「そりゃあ、知らない人よりはいいけど……そもそもユピは、ゴーレム討伐をやりたくないの。棺桶に籠もって、部屋から出たくないの」


 何その、引きこもり的発想。


 でも……なんとなく分かる気もする。

 私だって昔は、ユピみたいに引っ込み思案で、恐がりだったからなぁ。


 かつて、運動神経がからっきしだった私。

 体育の集団競技に出るときの恐怖といったらなかった。

 頑張ったってうまくできるわけじゃないし、手を抜いたら白い目で見られるし……日本の体育の授業は、人の心を荒ませる邪悪なものだったよ。


 きっと今のユピの心境は、そんな感じなんだろう。


「でもさ、ユピ。ここはルミーユ学園。いつか魔王グランロッサを倒すための、力を養う場所なんだよ? そこでゴーレム討伐に出ないとか、根本的にまずいでしょ」


 リーリカが困ったように言う。

 それに対して、ユピは俯きがちになって。


「分かってるの、やらなきゃいけないことは。だけど、やっぱり……怖いの」




 そして。


 私たち三人がパーティを組んでから、三日目。

 ゴーレム討伐の本番まで、あと二日。


 残り少ない期間だけど、その間にお互いの能力を確認しあって、フォーメーションとか色々と練らなきゃいけない。

 いけないんだけど……。


「……ユピぃ。いい加減、出てきなさいよ」

「やなの。ユピは静かに暮らしたいの」


 それぞれがチームごとに分かれて、校庭のあちこちで練習をしている中。

 私とリーリカの目の前には――棺桶が鎮座していた。


 不気味な棺桶の蓋には、「絶対開けないでなの!」と丸文字で書かれた貼り紙が、ぺたりと貼られている。


 相変わらずユピは、ゴーレム討伐に後ろ向きなままだ。


「あたしの剣技と、アリスの魔法があれば、ユピは後ろに控えてるだけで大丈夫だって。だから一緒に練習しようってば」

「じゃあユピは、棺桶に入ったままパーティに参加するの。引きずって連れていってもらえると助かるの」


 いやだよ、そんな死体を運ぶみたいなの。

 古き良きRPGじゃあるまいし。


「あらあら。お困りのようですわね、アリスさんたち?」


 そんな私たちのそばに近づいてくるのは、チェリルとミルミー。

 チェリルは腰に手を当てて、得意げな顔でこちらを見てくる。


「後悔されているのではなくって? リーリカさんやユピさんと組んだりせず、このわたくしとパーティを組めばよかったと」

「何よ! わざわざケンカを売りにきたわけ?」

「別にそんなつもりはありませんわ、リーリカさん。わたくしはただ、事実を述べてるだけですもの」


「本当は今からでも、アリスちゃんとパーティを組みたいだけだもんねー。チェリルは」


「なっ!? ミルミー、冗談はやめてちょうだい! た、ただ、もしアリスさんが望むのであれば……やぶさかではありませんけど?」


 顔を真っ赤にして、指先をもじもじと合わせるチェリル。

 なんだか最近、私に対する当たり方が変わってきた気がするなぁ。


 でも――私の答えは、変わらない。


「ごめん、チェリル。気持ちは嬉しいけど……私はリーリカとユピ、二人と一緒がいい。その気持ちは、今でも全然変わらないから」

「~~アリスぅ!」


 目をキラキラと輝かせながら、私に抱きついてくるリーリカ。

 チェリルはというと、唇を軽く噛んで。


「そ、それならいいですわ。せいぜい頑張ってくださいませ」

「残念だったねー、チェリル」

「だから別に残念とか、そういうのじゃありませんから!」


 チェリルはぷいとそっぽを向くと、ミルミーと一緒に退散していった。

 その後ろ姿を眺めながら――私は「よしっ」と気合いを入れる。


 私の心は、今言ったとおりだ。


 リーリカとユピと、三人で一緒に頑張りたい。

 そのためにはまず……ユピの怖がる気持ちを、解消してあげないと。


「ねぇ。リーリカ、ユピ。今日の放課後、みんなで買い物に行かない?」


「はい?」

「え? なの」


 首をかしげるリーリカ。

 棺桶からひょこっと顔を出して、眉をひそめるユピ。


 そんな二人を交互に見やって、私はもう一度、告げた。



「今日の放課後――三人で買い物に出掛けよう」

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