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中二病を極めた私、異世界魔法を凌駕する  作者: 氷高悠
第1章 第4話「引っ込み思案な私、試合に挑む決心をする」
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03 そしていつか、わたしのところまで

「――リス。アリス。目を開けなさい」

「……ん」


 意識の遠くから、私を呼ぶ声が聞こえてくる。


 そうだ……私は夜の庭園でカンナさんと話をしていたんだっけ。

 そしたらカンナさんが、不思議な呪文を唱えて。


 ――それからどうなったんだっけ?


 私はゆっくりと、瞳を開ける。


 目の前で艶やかに微笑んでいるのは、カンナさん。

 伸ばされたその手を取って、私はおもむろに立ち上がる。


 ……と思ったら、足元には何もない。

 ふわふわと、宙を浮いてるみたい。


 なんだこれ?


「へぇ。これがアリスの風景か」


 カンナさんの言葉につられて、顔を上げる。

 すると――そこに映し出された光景は。


「え……ええええええええええええええええ!?」


 西の空に沈みかけた太陽。

 ビルやマンションがごちゃごちゃと、いくつも立ち並んでいる街の様子。


 そんな、ありふれた光景を眺めることができるここは――学校の屋上。

 私がかつて、ぼっち飯を食べていた、あの場所だ。


「ど、どうして!? わ、私はオルタナギアにいて……!?」

「落ち着いて。これはわたしの魔法が見せている、幻覚みたいなものだから」


 幻覚っていうか、悪夢みたいだよ。

 一瞬のうちに、ぼっちだった頃の苦い思い出が溢れてきちゃったもん。


「今見ているのは、君の心象風景を映し出したものだ。つまりこれが、君の魔法の原点ってことだね。覚えはある?」

「な、ないです!」


 私は咄嗟に嘘をつく。

 だってこんな、オルタナギアと乖離した世界を知ってるなんて言ったら……私の正体がばれちゃう!


 私がオルタナギアじゃなくって、異世界の人間なんだってことが。


「そう」


 だけど、慌てふためく私を気にした様子もなく。

カンナさんは夕日を浴びて真っ赤に燃える街並みを、静かに眺めていた。


「君に覚えがないとしても、この空間は間違いなく、君の心象風景を投影したものだ。つまり君の魔法の原点であり、想像力の源でもある」

「そ、そうなんですね」


 まぁ確かに、ここでよく『シュバルツアリス』に書き込んでたけど。

 学校が魔物に襲われて、それを颯爽と退治する自分を妄想して、にやにやしたりしてたけど。


「この場所を大事にする必要はない。だけど、忘れないで。この場所の存在が、今の君を支えているんだってこと。大切なのは、想像力と創造力。この場所で思い描いた力を表出すれば、それが魔法になる。オルタナギアで、奇跡を起こすことができるから」


 ……つまらない学校生活だった。

 早く逃げ出したい毎日だった。

 だけど、そのときに逃避していた妄想のおかげで……今の私はある。


 そういう意味では感謝してるよ。二度と戻りたいとは、思わないけど。


「どうしてカンナさんは、私をここに連れてきたんですか?」

「思い出してほしかったから。君がどうして、魔法を使いたいと思ったのかを」

「どうして……」


 たとえば学校が、魔物に襲われて。

 クラスメートたちが阿鼻叫喚の渦に巻き込まれたとして。


 そこに華麗に参上、私!


 魔法を使ってみんなを救って。

 感謝されて。もてはやされて。


 いつも目立たなかった私が、一躍人気者になるんだ。


「……我ながら、不純な動機しかないんですけど」

「だけど君は、『魔法が使える自分』を夢見ていた。そして、その願いを叶えた」

「それは、そうですけど……」

「だったら、その魔法を出し惜しみするべきじゃないね」


 出し惜しみ、かぁ。

 確かに、もし魔法使いになれたら……なんて中二妄想していた頃は。


 何か起きたらすぐに魔法を使って、バッサバッサと物事を解決したい!


 そう、思っていたっけ。


『あたしがチェリルの立場なら――正々堂々、本気のアリスと勝負したいよ』


 リーリカの言葉が、再びリフレインする。

 カンナさんの神秘的な瞳が、私をじっと見てる。



「――分かりました。私、チェリルと本気で勝負します」



 カンナさんをまっすぐに見返して、私は告げる。


 チェリルのためにも、かつての自分のためにも。

 私は手加減なんかせず……本気で魔法を使うべきなんだって。


 ようやく、決心できたから。


「ああ。楽しみにしてるよ」


 カンナさんが、ふっと笑った。

 その微笑みは、まるで女神様か何かのように神々しい。


「――――『解錠(シャンテ)』」


 カンナさんが、呪文を口ずさむ。

 それと同時に、再び白い光に目を奪われる私。




「……ん」


 次に目を開いたとき、目に映ったのは夜の庭。

 鳥の囁き声が、辺り一面から聞こえてくる。


「ああ。よかった、帰ってきたんだ」


 私は安堵して、胸を撫で下ろす。

 ここは間違いなく、ルミーユ学園女子寮。

 あの頃とは違う――今の私にとっての、居場所だ。


「今を楽しむために。今の居場所を護るために。どうか頑張ってくれ。アリス」

「……はい!」


 カンナさんの言葉に、私は笑顔で頷く。


 私、頑張ります。

 もう迷わないです。


 怪我をしたりさせたりは嫌だけど……そうならないくらい、私が上手に魔法を使ってみせます。絶対に。


「アリス。君の成長が、本当に楽しみだよ」


 そう呟いて、カンナさんは私に背を向けると、ゆっくりと歩きはじめる。


 風に揺れる、艶やかな青髪。

 幻想的な佇まいを、私はぼんやりと眺めている。


 そんな私に向かって。

 カンナさんは振り返ることもなく……言った。



「そしていつか、辿り着いてほしい――わたしのところまで」

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